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『変…』


その夜、みぞれさんからチャットが届いた。

めぼしい主語はなく、ただ簡潔な一文字。


「へん?」


通知を受け取った俺は、アプリを開かずにずっとその意味を考えていた。


へんってなんだ?

愚痴なのか?


恒例の挨拶以外でみぞれさんの方から送られてきた初めてのチャット。

普通に考えるなら、きっと愚痴なのだろうがこれは話を聞いてほしいのだろうか?


走らせていたペンを一度止め、アプリを開く。

そして、前に彼女がやってくれたように


『どうした?』


とだけ送っておいた。

そうすると、すぐに既読がつく。


『なんか変なの』


またほぼ同じ文章だ。

相変わらず主語がない。


『なにが変なんだ?』


自分の体調のことだろうか?

みぞれさんは女性だからそう言うことを聞いたりするのは少し憚られる。

できれば、違っていてほしい。


『だから……その、彼が』


そこでようやく誰が変なのか判明した。

彼女が控えめに言う、その彼。

ああ、そういえばみぞれさんには気になってる人がいたんだったな。


『その彼のなにが変なんだ?』


誰が変なのかはわかったがどう変なのかまだその全容が掴めていない。


『彼、今日…人が変わったように生活していた。怠惰な化身みたいな性格だったのにどういうわけかずーっとシャキッとしてた』


そんな文章が送られてきた。

少し考えて、文字を打つ。


『それはいいことなのでは?』


自堕落青年の更生期。

聞く限り別に悪いことではない気がする。

愚痴を吐く要素なんてあるのか?


『いいことなんだけど………その、なんかヤダ』


『なるほど……?』


言いたいことはなんとなくわかる。

彼は今までずっと自堕落でそれがアイデンティティでそれが彼の代名詞であった。


……なんか、考えると俺みたいに残念な奴だよな。


自分で言ってて悲しくなるが事実なのだから仕方ない。

でも、何らかの理由から突如として生まれ変わり人が変わったかのように好青年となった。それは本来なら喜ばしい出来事のはずなのにみぞれさんはどこか引っかかっている。


みぞれさんは口ではああ言っていたが自堕落だった彼を心のどこかで気に入っていたんだろう。


更生前はうんざりしていたはずなのにいざ失ってしまうとそれはそれで寂しくなる。

大事だったものは失ってから気づく。そんな言葉が当てはまるのではないだろうか。


でも、その青年の変化は歓迎すべきところだ。

みぞれさんを射止めるような人がそんなやつであっていいわけがない。


きっと彼もそれに気づいたに違いない。


『私のせいなのかなって……ほら、自分でいうのもなんだけど、だらしなくしている人がいたら言っちゃう人だから』


『いや、違うね』


『違うの?』


『俺はみぞれさんのいう彼じゃないから、本当のことはわからないけど、きっとみぞれさんによく見られたいとかじゃないのかな?』


『え、わ、私に??』


『だって、怠惰で自堕落で救いようがない奴に手を差し伸べてたんでしょ?それりゃ、好きになるって!』


『そうなの??』


『ああ、そうだとも。男は女の子に優しくされると簡単に好きになっちゃう生き物なんだ』


『ふ、ふ~ん、そうなんだ』


実際のところはわかんないよ?

だって、ソースは高木一輝大先生だし。


『じゃ、じゃあ、ラッキーさんもそうなの?』


『おれ?うーん、自覚したことないからわかんないな』


これは、あくまでも高木一輝大先生の言葉なんだ。

俺にはよくわかんない。


だって、クラスメイト男女問わずみんな優しくていい奴なんだもん。


『そ、そうなのね。わかんない…』


あれ、なんでちょっと残念そうなんだ?

俺の情報なんて、そんなに有用じゃないと思うけど。


『で、でもさ、友人からの確かな情報だからきっと信用できると思う』


『どうかしらね』


おい、聞いたか一輝!

おまえ…見ず知らずの女性からも相手にされてないぞ!

勝手に引用してごめんな。

このことは俺だけの秘密にして墓までもっていくから大人しく成仏してくれ。


悪霊が出てこないことを祈るだけだ。


『ま、まあ、その彼もきっとみぞれさんのことちゃんと見てるから大丈夫だよ』


経験則からこれ以上の会話は火に油を注ぐだけ。

これ以上、険悪にならないように早急にチャットの締めに掛かる。


『そうね。そう思ってみることにするわ』


『うん、その方が絶対にいい』


『ちなみにラッキーさんは好きな人できた?』


え?好きな人?

いきなりどうしたんだ?


と思いつつ正直に書く。


『いや、いないけど』


『ば~か』


ええ?

なんで罵倒されたんだ。


身に覚えのない罵倒にたじろきつつもその日のチャットを終えたのだった。



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