12
翌日。
相変わらず今日も肌寒い気候だが、昨日よりは暖かかった。
登校して、いつも通り授業を受けて今は昼休み。
「お〜い、幸成ぃ〜!一緒にご飯食べようぜ〜!亮太は購買行ってくるってよ〜!」
いつものように一輝がお弁当袋を片手にやってくると近くの空いてる席にどかりと腰かけた。
「あ、ごめん。俺、もう食べちゃった」
「は?食べた?もうかよ?」
「おうよ、これ、俺の昼ごはん」
そう言って机に置いておいた、某メーカーの栄養ドリンクの空を見せる。
「あ、それ、9.9秒チャージ」
「俺レベルになると5.5秒だけどな」
そう言って、俺は教科書を見ながら参考書を解いていく。
「おいおい、またノート写してないのかよ」
「いや、ノートは終わってる。これは、別のやつだな」
「別のやつって………幸成ぃどうしちまったんだよ。まさか、昼勉してんのか?」
「びっくりしてくれるなよ~?実はそのまさかだ」
「ありえん……」
驚愕した顔を見せる一輝。
いや、そこまで驚くのもどうかと思うぞ?
だって、他にも同じようなやつはいるんだし…
と教室を見渡しながら内心そう呟く。
昨日はあれからすぐに帰宅した。
あの相永の固まった顔を眺めていられなくなったのも、要因の一つだが一番の理由としてキタ部長の課題を終わらせないといけなかったという問題がある。
全部やる。
あの言葉がいけなかった。
彼女から、その課題を受け取ったとき、俺は心から後悔したのだ。
いくら何でも多すぎる。
俺が予想していたのはせいぜい4つあたり。
しかし、彼女が渡してきたのは8つの課題だった。
どうやったらこんなにたくさん課題をため込めるのか。
俺だって、かなり貯蓄しているがさすがにここまでの量はない。
一応、内職で定期的に俺が減らしてるはずなんだけどなぁ……
それなのにここまで増やせるのはもはや才能。
こんなの…もうリスじゃん。
冬に食料をため込むリス並みの職人技である。
どうしよう、今度会った時どんぐりとか渡されたら。
彼女の性格から一概に否定できないのがまた怖いところである。
別に彼女がリスであるわけではないのだが、顔を見た時どうしても思う出してしまいそうだ。
はあ……もうちょっと簡単な約束にすればよかった……
と、昨日はキタ先輩の課題を片付けながら延々とそんなことを呟いていたのだった。
それをまた思い出してしまって遠い目をしていると一輝が心配そうに俺の顔を覗くのだった。
「ホントに大丈夫か?熱でもあるんじゃねーの?」
「ないない。てか、あったら喜んで保健室のベットで寝てるから」
大義名分を得て使用する保健室は格別だ。
基本的に静かだから、眠りの妨げにならないし、あとなんて言っても養護教諭が美人。
学校の癒しと言われてるだけあって目の保養になる。
「そう言われれば、そうだよな。だって合法的に斎藤ちゃんに会いに行けるんだし!!」
「…………」
悲報。
同じ穴の狢だった。
所詮は俺もオスってことか。
どよ~んと落ち込むとそれを見た一輝が
「なんでお前、落ち込んでんの?」と尋ねてきたから「諸事だよ」と答えておいた。
正直に言えるわけないもんな。
「でか、ほんとにどうしたんだよ〜?登校中に変なもん拾い食いでもしたかぁ〜?」
「してないわ。俺をなんだと思ってんだ」
わんちゃんじゃないんだぞ?
まあ、適度に尻尾振ったりお座りしたりするけどさ。
「だって、今までの幸成からは想像つかねぇっていうかよ……あ!おいおい!こっちだ!早くこいよ亮太」
「ごめんごめん、購買部結構混んでてさぁ……って、幸成どうしたの??また、授業中にノートとってなかった?」
「やっぱり、みんなその反応だよなぁ……」
亮太の反応を見た一輝がしみじみそんなことを言うがこっちからしてみたら不本意意外の何物でもない。
なんで、俺が机に向かってる=ノートをとってない=サボり☆彡
になってしまうのか。
そんな数式この世には存在しない。
人のイメージも長年の積み重ねというがそんな言葉今は受けいられそうになかった。
「おい、聞いてくれよ。幸成が自主的に勉強してるんだ」
「それ、ほんと?授業を聞きそびれて教科書を見返してるとかじゃなくて??」
「マジもんのマジ!ほら、見てくれ!今日のぶんのノートもちゃんととってある」
俺の机にそのまま置かれていた授業用ノートを手に取りパラパラとめくってみせる一輝。亮太はそれを食い入るように見ていた。
「ホントだ。ちゃんと最後まで写してあるし、応用問題まで解かれてる。幸成、どうしたの……?自己啓発本でも読んだ?」
「読んでない」
だから、なんで俺が勉強してるだけなのにそんな単語が出てくるのか。
自堕落ってだけで別におバカキャラってわけでもないだろ?
「ちょっと、新しい自分になるチャンスだと思ってな。振り返れば、今までの俺は怠惰すぎた」
「おう、そう言われると確かにその通りだな」
「うん、反論のしようがないよ」
「え?」
「まあ、こんなのでも一応学級委員なんだし、ちょっとぐらい真面目になってもいいか」
「そうだね、これで冬峰さんもちょっとは気が休まるだろうし」
あれれれ??
なんでだ?
なんでみんな、うんうんって頷いてる?
そこは、やっぱおまえ昔みたいに戻れよって言うところだろ?
どうして、仕方ないみたいな感じで受け入れてるんだ?
「お、俺たちは、ちゃんと応援するからよ」
「冬峰さんのためにも頑張って」
「えっ…あ、ああ……うん、わかった」
勉強に集中できるようになかったが俺のメンタルが少しだけ傷付いたのだった。




