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青天の霹靂だった。


進路先も決まり自由登校になっている3年生の福城先輩がわざわざ学校に来た。


これだけでもただならぬ要件であるくらい想像に容易いが2人だけの密封された部室で彼女をから告げられたものは俺の予想を遥かに超えていく内容だった。


示されたスマホ。

画面に映し出されているのはMTYLというチャットアプリ。

そこにはある人物とのチャット履歴が残されている。


朝の眠気と気だるさを吹き飛ばすようなそんな内容に俺の脳内は理解するまで少しの時を要した。


その僅かな静寂の間。

福城先輩は、こちらの反応を伺うようにずっと俺を見つめている。


「っと………そうなんですね」


数秒の沈黙を貰ったにも関わらず俺は当たり障りのない反応しか見せることが出来なかった。

当然ながら、突然のことで混乱していたこともある。


しかし、彼女が告げてきたのは、自分のチャット相手が同じ部活の未開拓斗だということだけ。


それ以外なにも話していない。


昨日のことがあり、俺の手元にはすでに数多くのピースが揃っている。

けれど、何も考えずにそれを口に出すことは出来なかかった。

何故なら、福城先輩がどう思っているか。

それをまだ彼女の口から聞けていないから。


「三末って、このアプリの噂、もちろん知ってるよな?」


「はい、3年間欠かさず毎日チャットすればその相手と結婚できるって噂ですよね?」


「そう。実は、アタシたち2年前からずっとチャットしてるんだ」


「そ、そうなんですね」


それも未開先輩から聞いて知っている。

だけど、それは口に出さず初耳かのように相槌をとった。


「てか、三末ってこれを聞いても驚かないんだな。自分で言うのもなんだけど、結構凄いことだぞこれ」


「そうらしいですね。でも、MTYLってアプリ知ったの最近でどれくらい凄いのかまだあまりピンときてないんですよ」


嘘だ。実際は目の前で起きていることがどんなに珍しいことか十分に理解している。

奇跡的と一言で片づけきれない確率だということも。


だけど、こういう反応を取っているのはひとえに福城先輩に余計な情報を与えないため。

まずは、彼女がこれをどうして俺に打ち明けたかそれを尋ねる必要がある。


「で、福城先輩。それを俺に言ってどうしたいんですか?」


「どうしたいって………そうだな。どうすればいいと思う?」


「は?」


問いに問いで返された。

思わず間抜けな声を漏らす。


どうすればいい?


そんなの俺にわかるわけない。

てか、自分がどうしたいのかわかってないのか?


「……どうすればいいかなんて、俺にはわかりませんよ。だって、俺、福城先輩じゃないし。というか、先輩はどうして未開先輩だってわかったんですか?」


まさか、未開先輩と同じで方言だったりするのだろうか。


「最初は……なんとなく。チャットしてるなかで喋り方が似てるかなって思って…」


「それで、未開先輩だと思ったんですか?」


「確信したのは、アイツが部室にスマホ置いていってうっかり画面を見てしまった時だ。先生に呼び出されて焦ってたのかアイツはロックせずに出ていったからな」


未開先輩のスマホを覗くとそこには、見覚えのある会話と自分のニックネームがあったそうだ。


「気付いたのはいつなんですか?」


「そうだな。1年前とかだから。お前たちがこの部活に入る前だな」


うわ、全然最近じゃないじゃん。

てか、1年も未開先輩だと知りながらチャットしてたってことか?

どういう心理状態だったんだろう。


「正体知ってて、よく1年も出来ましたね」


「まあ、アイツと会話するのは嫌いじゃないしな」


そう言って、髪の毛をいじいじ。

指でくるくると絡ませる。


おい、平然を保って言ってる気でいるけど、全然出来てないぞ。

なんなら、ちょっと照れてるし。


指摘しようか迷っていると、


「三末の意見も聞かせてくれ」


と唐突に頼まれる。


「え?俺の意見ですか?」


「おう、2年もチャットしてくれるってことは相手も悪がらず思ってるってことだよな?」


「ま、まあ、一般論理で言えばそうじゃないですか?」


ホントは大好きになって探し出そうとしてましたなんて言えるわけがない。


「も、もしだ。アタシがチャットの相手だって言ったらアイツはどんな顔をすると思う?」


「い、いやぁ……それは、わかんないです」


少なくとも、未開先輩はチャットの相手が福城先輩だと思っている様子は見てとれなかった。

この街に住所を特定して尚である。


部活の時でも2人の関係は可もなく不可もなくと言った感じの関係性。特段仲がいいわけでもなかったが、不仲と言うわけでもない。

話しかけられたら、ちゃんと答える。

一番近い関係性を言語化するなら、気の合うクラスメイトみたいな感じ。


「福城先輩って、未開先輩のことどう思ってるんですか……?」


もう、この際だしストレートに聞いてみることにした。核心を突くのが一番手っ取り早いしな。


「どう思ってる……か……嫌いじゃない……だとダメか?」


「ダメです。そんな曖昧な答えだとなにも出来ません。今日、ここに来たのも俺を呼び出したのも何か頼みがあったからですよね?だって、チャットの相手が未開先輩だったなんて報告だけなら電話やメッセージで十分ですし」


「…………」


「福城先輩?」


「わ、わかった………み、みとめる!あ、アタシは……アイツ………のことが好きだ」


「そうですか」


「そうですか……って、アタシにこんなことを言わせておいて流石に淡白が過ぎるんじゃないか?」


「いや、だって見りゃわかりますし」


そんなに赤くゆでだこみたいな顔をされたら、どれくらいの恋慕を抱いているかなんて容易に想像できる。


「あ、アタシの反応見てからかってたのか?」


「まさか、最終確認をとっただけですよ。これで証明完了です」


「そ、そうなのか?」


「はい。これで俺も協力できます」


「まだ、何も言ってないのにしてくれるのか?」


「まあ、先輩には色々お世話になりましたし」


部活に入るときとか特にな。

だから、ここで返せるのなら恩返しがしたかった。

だって、これは巡り巡って未開先輩の恩返しにもなるだろうから。


「三末が協力してくれるなら百人力だ。ありがとう!」


「いえいえ、俺も先輩に恩返しできる機会があってよかったです。それでさっそく擦り合わせをしたいんですけど、福城先輩は、未開先輩に告白したいんですか?チャットのことも含めて」


ただの告白ならわざわざチャットのことなど言わなくていい。

最初にその話を俺にしたからには、おそらくチャットのことも含めて彼に言いたいのだろう。


俺の問いに彼女は俯きつつも小さく頷いた。


あんなに勇ましいかった福城先輩がこうも乙女になってしまうとは。

やはり恋の魔法というのは恐ろしい。


「なるほど。じゃあ、言っていいと思いますよ?だって、福城先輩だって、うっすら気付いているんでしょ?」


「うん……アイツもきっと、アタシを好いてくれている」


まあ、あのチャット内容なら流石に未開先輩の好意だって気付くよな。

だって、探し出そうとしてたくらいだし。


「なら、別に受験が終わったらすぐに言えますよ。その会場のセッティングなら手伝いますし」


元々合格祝勝会みたいなものも開くつもりだったし、それついでに2人きりの時間を作ってやれば解決することだ。


いや〜、最初はどうなることかとヒヤヒヤしたが案外簡単に解決しそうだ。

それに、未開先輩の恋が叶ってよかったよかった。


「――ま、待ってくれ」


これにて円満解散。

一限の授業に戻ろうとした時だった。福城先輩に呼び止められる。


「なんですか?会場とか日にちならまた日を改めて……」


「そうじゃねぇんだ」


そう言うと、福城先輩は自分のスマホを俺に渡してきた。

え?もっとよく見ろってこと?


視線だけで質問すると頷かれる。

取り敢えず、言われるがままに目を通した。


それは、未開先輩と福城先輩のチャット欄。


「な、なんだこれ……」


どうして最初に気付かなかったんだ。

よく見てみると俺はこのチャットの違和感に気づく。


「福城先輩が………清楚になってる……」


そう………彼女は、未開拓斗に猫を被ってチャットしていたのだ。


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