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揺らめく翅は歪んだ夢を記憶する

作者: 砂生

誤字脱字修正。びっくりするほどあって、びっくりした!

 んー。

 目の前に並んだ二つのマグカップ。

 彗星の深い赤と、最強の瞳の翡翠の欠片を含んだような青。

 会社で使うマグカップに保温機能が欲しくって買いに来たんだけど、何てことでしょう。

 正真正銘、好みな色が二つ、並んでいるではありませんか。

 いい大人なんだから二つ買うだけの経済力は無いことはないのだけど、保温機能もあって中々にお高いので、二つはいらない。


 ……よし、決めた。

 青にしよう。

 赤は緑川さんの推し色だから避けとこう。

 最近、緑川さんのアツに流されてる。

 大丈夫、最強だから。


「ただいまー」

 玄関でお迎えしてくれてるのは、ポメと柴のMIX犬のコマ。

 ふわふわの尻尾を左右にぶんぶん振って、がつっ!がつっ!と、床に打ち付ける音までしてる。

 飼い主冥利には付きますけどさ、尻尾がもげそうだし、なにより痛くないのかい?

「ご飯にしようか」

 と言うと一目散に台所に駆けていって、自分のお皿が乗った台の前で、お座りして待機してる

 礼儀正しいこって…ま、いっけどね。


 その日の夢は、やけに背の高いお兄さんがバケツみたいなヘルメット被って陽気に「あはは、あはは」と、飛び回ってました。

 明日も良い日になりますように。


 七時二十分。

 八時始業の事務所には、まだ誰もいない。

 何年か前なら信じられない光景。

 デスクを軽くウェットティッシュで拭いて、パソコンの電源を入れる。

 始業前にパソコンの電源入れても監視対象にならないのだから、ブラック気味には違いないが、私的には助かる。

 パスワードを入れて立ち上がるのを待つ間に、スマホを弄ってたら、うわマジか。

 割りと好きだった声優さんの訃報があった。

 闘病虚しくお亡くなりになったらしい。

「朝っぱらからテンション下がる…、緑川さんが知ったら泣くな…」

 隣の席に座る、同僚でオタトークが弾む先輩を慮る。

 PCモニタの脇にちょんと置かれたアクスタの中の人だから。


 昨日、部長から頼まれた、B社のデータ集積は終わってるのだけど、Excelで、どうしても気に食わない部分を弄りたくなった。

 提出は来週って言われてたから急がなくても良いのだけど、余裕はあるに越したことはないし、気紛れな部長様になに言われても対応できるようにしておくことに越したことはないだろう。


 就業中にやれよって話なんだけどね。

 それにしても今時Excelで、関数使わずにほぼ手打ちって、どんなデータよ。

 部長様なんて電卓叩いてる。

 関数埋め込んで、セルに条件付けて、テーブル組んで…スクリプトは今日は諦めよう。

 忘れずに関数のセルにはロックかけて。

 これ大事。

 部長様は破壊のスキルを持っておられる。

 ま、次に仕事を振られた時に、自分がラクが出来ればそれでいいや。


 ここまでで七時四十分。

 昨日買ったマグカップをいそいそと鞄から出して、給湯室へ向かう。


「おはよっ!鈴木!今日も早いね」

 元気に声をかけてくるのは、件の先輩の緑川さん。

「ラッシュのこと考えると、どうしてもね。ワンコの散歩もあるし、早起きはしてるから」

 これはちょっと嘘。

 早く来て仕事(無料奉仕)してたなんて、どんな奇異な目で見られるか。

「…ってそのカップ、新品?…もしや、これかい?」

 緑川さんは顔の前で指を交差させている。

「その通り。流石だね。ぽいっしょ?」

「ぽい、ぽい。綺麗な青!」

「隣に彗星レッドがあって、迷ったんだけどね。赤は緑川さんの担当かと思って」

「えー!これで赤とかも素敵すぎる!見せて貰おうか、その保温機能の性能とやらを」

 なんて、オタク談義に花を咲かせていたら、給湯室の前をヒヨコみたいにぽよぽよした頭の部長様が通りすぎる。

「え?行かないと。部長様だ」

「うわっ!行こ行こ」

 新しいマグにコーヒーを入れてデスクに向かう。


 八時。朝礼。

 皆の心は一つだ。

 部長様が穏便に朝礼を終わらせてくださいますように。

 部長様は今時流行らない、所謂“昔気質”のお方で、朝礼となれば激を飛ばし、唾を飛ばす。

 本人は奮起のつもりかも知れないが、的外れ感が否めない。

 世の中が漸く、世界的脅威の感染症が落ち着きを見せ始めたというのに、お願いだからマスクは付けたままでお願いします。

 大事なことなので二度繰り返します。


 そんな朝礼は、通常運転の激で終わり、いざ本日の仕事をば、と思った瞬間だった。

「鈴木ぃ!昨日のB社のデータは終ってるか!」

「え?来週提出のやつですか?」

「来週だぁ?そんなわけ無いだろ!今日っつたろう?今日!」

「はい?」

 隣の席の緑川さんに「来週って言ったよね?」とこそっと聞くと、うんうんと頷いてくれる。


「まだかぁ!」

 と、茹でダコ宜しく唾をばら蒔いている。

 ご自分の席で怒鳴ってくれているのが唯一の救いだわ。

「出来てます!共有フォルダのB社フォルダに格納済みです!」

「共有だぁ!メールで寄越せ!」

 と、何ともめんどくさい事を言ってくれやがるが、そんなことは予測の範疇。

 期日の朝に届くようにメールは予約済みさ。

 予約を解除して送信する。

「はーい。今送りました」



 五分後。

「鈴木ぃ!計算が出ないぞ!」

 やられた。

 なんでこの人は何にも出来ないくせに、セルにかけたロックは外せるんだ?

 もはや特殊能力だと思う。

 何だよ、計算が出ないって!

 どうせ関数に上書きしただけだろうよ。

「はーい」

 心とは裏腹の、うんとすっとぼけた声を出す。

 ん、大丈夫。最強だから。


 そこから、部長様の席に行って、共有フォルダの中から、バックアップデータを立ち上げて、「この、色の付いたマス以外は触らないで下さい」と強めに念押しした。

 物言いたげな目で睨まれてるのには気がづいたけれど、見てない。

 知らない。

 それに、確認していただけじゃないのか?出来上がったものになぜ手を入れようとする。

 ん。念のため自分のパソコンにさっきのデータは残しておこう。

 それを考えると、フォルダの元データは触らない部長様って、実はいいこなのかもしれん。

 と自分を納得させる。


「鈴木、お疲れ」

 席に戻ると、緑川さんがコーヒーを入れ直してくれていた。

「…パトラッシュ、僕はもう疲れたよ…」

「私もこれ見てショックだ。生きてけない」

 部長様の所に言ってる間に、ニュース記事で声優さんの訃報を見つけた緑川さんの目は、ほんのり赤くなっている。


「明日は金曜日だし、飲みに行こう。しんみりと追悼会しよう」

「いいね。うん。語り合おう。それを励みに明日まで生きるよ」

「鈴木ぃ!」

 あーあ、暖かいコーヒー、飲みたかったな。

 緑川さんが、声に出さずに『御愁傷様』と手を合わせるので、掌印で返したらウケてくれたので、余は満足じゃ。


「ただいまー」

 玄関にはコマの出迎え。

 相変わらず、がつっ!がつっ!と、尻尾を床に打ち付けている。

「おいで」

 て、両手を広げてスキンシップと思ったら、一目散に台所ですよ。

 おい、そんなに好きか、台所。


 金曜日。

 早起きのコマに顔を舐めまくられて起床。

 いい目覚ましだ。

 コマは散歩の途中に見つけた、中華屋から出た豚足に夢中だ。

 これ、よしなさいと注意をすると、素直に豚足を離したけれど、名残惜しそうに見つめている。

 ごめんよ、さすがに地に落ちたものを与えることは出来ないのだよと、豚足を中華屋のゴミ箱に入れる。

 くぅ~ん、くぅ~んと、聞いたこと無いような鳴き声。

 ううっ、今日は特大のガムを買って帰るから、我慢しておくれよぉ…

 うちに帰って、元気の無いコマにおやつ多めにする代わりに、ご飯を少なめに用意して、軽くシャワーを浴びてから会社に向かう。


 相変わらず、まだ誰もいないオフィス。

 机を拭いて、パソコンを立ち上げる。

 パスワードを入力して、立ち上がるのを待つ間にスマホを弄る。

「…あれ?」

 この声優さん……昨日亡くなったてニュースなかったけ?

 新作って…そうか、生前収録されたものなんだ……て、今日、舞台挨拶?あれ?

 そのままスマホで昨日のニュースを探したけど、見当たらない。


「おはよー今日は飲むからね、部長様に捕まらないでね」

「あ、緑川さん。おはよう、あのさ、今日の飲みって、この声優さんの追悼会だよね」

 スマホの画面を見せながら言うと

「何言ってんのよ、私の推し様を勝手に殺さないでいただけます?闘病からやっと復帰されたのを記念しての祝賀会よ。昨日ちゃんとそう言ったじゃん」

 勘違いにしては、泣き被った緑川さんをはっきりと覚えているのだけれど、生きているのなら追い討ちをかけることはないだろう。

 何より、緑川さんが嬉しそうだ。

 なんたって、推しが大病を克服したのだから。


「……あ、そうだね。そうそう。ごめんね、変なこと言って」

「そうよ、部長様じゃないんだから、日によって人が変わったみたいな変なこと言わないでよ」

「鈴木さん」

 緑川さんとふたり、思わずひえーってなる。

 聞き慣れた声の、聞きなれない言葉ーー『さん』だ…と…っ?!

「昨日はありがとう。他社の分までやってくれたんだね」

 えっとぉ…このヒヨコ頭は紛れもなく部長様だよね?アリガトウって罵倒の言葉あったっけ?


 緑川さんと目を合わせると、やっぱり二の句が継げない状態だ。

「どうした?元気無いぞ?週末なんだから、もうちょっと頑張ろう!」

 目を開けたまま夢を見ているのだ、そうに違いない。

 緑川さんとはアイコンタクトだけで通じたようで、うんうんとふたりして頷いていた。


 その後の部長様は、簡潔に朝礼を終わらせ、適切に指示を出し、その様子を見ながら緑川さんと、「槍が降るのかな?百鬼夜行が始まるのかな?怖いよー」と遊んでいた。


「鈴木さん」

 お昼過ぎ、不意に背後から掛けられた聞き慣れた声の、慣れない口調に、

「はいっ!」

 吃驚したのも手伝って、いつもより声を張ってしまった。

 緑川さん……笑いすぎです。

「げ、元気だな。驚かせたか?すまん」

 スマン?えーと、そんな雑言ありましたっけ?と、呆けていたら、

「いや、ちょっと目に入ったからな。ここ、VLOOKUPでもいいんだが、XLOOKUPの方が楽じゃないか?」


 へっ?

 あ、いや、たしかにそうだ。

 VLOOKUPを使うために、検索値を左側に表を作ろうとしたけど、会社のExcelは365だよ、XLOOKUPが使えるじゃないか。


 でもその事を?部長様が?教えてくださる?

 え?え?と困惑していたら

「新しい機能だから知らなかったか?教えるぞ?何、鈴木さんならすぐに使いこなせる」

「あ、え、う…あ、分かります。ご指導アリガトウございます。つい癖で…」

「分かるよ、パソコン変わったの先週だもんな。それまで古い機種で、よく頑張ってくれたよ、緑川さんもな!」

 部長様がExcelで出来ることは、破壊のスキルだけと認識していたから、緑川さんとただただ呆気に取られましたよ。


「異世界転移だと思う」

 乾杯もそこそこに、一気に生中を呷った緑川さんが真剣な顔で口火を切る。

「ここが異世界?それとも部長様が異世界から来たん?」

 酔っ払うには全然早いけど、面白いから聞いとこう。

 うーん…と、流石に異世界設定を膨らますには無理が有ることにお互い気が付いた。


「分かった!きっと奥さんにきこりの泉に投げ込まれたのよ!」

「……それはネコ型ロボットの話でしょ?」

「きれいな部長様」

「やめれ」

「だって、どー見ても別人じゃない。部長様が鈴木にExcel指南するなんて、世も末よ!」

「なんてことを。以前から『セルのロックを外す』て特殊能力持ちじゃない」

「いらんわ!そんな能力!!すいませ~ん、生中と、鈴木は?」

「ん、生で」

「生中二つお願いしま~す」


「でも、確かに同一人物とは思えないよね」

 と、真面目に話を振るも、緑川さんは焼きエビの殻剥きに夢中だ。

「どうせなら、毛ぐらい生やして貰えばよかったのにね」

 異世界設定を引きずっているのか、殻を剥き終えたエビを幸せそうに食べながら、緑川さんが言う。

「毛って…どんな異世界特典やねん…」

「あら、イケメン化でもよくってよ?」

「部長様のタッパに、先生の顔を乗っけて想像してみ?」

「ダメだ、面白すぎる」


 と、横の席から声が聞こえる。

「あれ?この中の人、昨日亡くなったんじゃなかったっけ?」

「なに言ってるのよ!長い闘病生活から生還されたのよ!流石✕✕の中の人!」

「あれ?そうだっけ?」

 と、不思議そうにしている。


 違和感はある。

「何て言うんだっけ?あの…パンダの尻尾は黒じゃなくて、白みたいなの」

 と、緑川さんに問うてみる。

 博学な緑川さんだ、なんか知ってるだろう。

「パンダの尻尾はただの早とちりでしょ。見たこともないパンダグッズを、パンダが来日前に作ろうとして、黒にしたって言う……もしかして雷ネズミの尻尾が黒じゃなくて黄色って言いたかった?」

「ああ、それ。沢山の人が当たり前に勘違いしてるみたいな状況。なんか名前あったよね」

「マンデラエフェクトの事?マンデラさんが死んだと思ってたけど生きてたみたいな?」

「そうそれ。それって意外と誰か別の世界線に入っただけだったりして」

「えー。今朝言ってた私の推し様の話?誰の世界線よ」

「えっとぉ、部長様?」

「パス」

「ですよねー。ま、も一杯どうぞ。焼酎に変えますか?」 

「もーいーや。この後どうする?カラオケでも行く?もち、アニソン縛りで」

 こんな元気な緑川さんに訃報のことなんか問い詰められない。


「すいません。実は今朝、うちの犬が…」

 それはそれと、今朝の一連の流れを話す。


「あらあら、それは大変。寂しいのかもね。精々良いおやつをお土産に早く帰ってあげなさい」

「おおっ、まるで先輩のようだ」

「私はミドリカワ。ご覧のとおり先輩だ」

 どこまでもぶれない人だ。

 お陰で笑いながら別れることができた。


「ただいまー」

 玄関を開けると、コマはそこにいたけれど、ぱたんぱたんと尻尾に勢いがない。

「そんなに気に入った?豚足」

 答えるように、くぅ~んと啼く。

「んーでもごめんね。これで勘弁してよ」

 と、袋から買ってきた大きいガムを出す。


 いつまでも舐め回して、ぐちょぐちょになる大きなガムは、ほんとは余り好きではないが、コマ様のご機嫌伺いのためだ、致し方無い。

 でも、コマはお気に召さないようで、とぼとぼと台所へ向かう。

 恋煩いみたいだ、と思った。


 それでも舐め尽くして綺麗になっているご飯皿を濯いで、買ってきたガムと、うちにあるお気に入りのおやつを乗せる。

 ……おやつ、しっかり食べたんですね。

 ガムはお気に召さないようで、新しくお皿に出したご飯ばかりを食べている……のは分かったから、ガムを飛ばさない!

 よくないのは分かってるけど、安くないんだからしばらく置いておくよ。


 その日の夢はヒヨコ頭の部長様が、先生並みのタッパでクールに術式を展開されておられました。

 とうとう夢にまで部長様が現れ出したよ。


 眩しくて眼を覚ますと、窓からは日が差している。

 いつもなら、明るくなる前に起こしてくれる筈のコマなのに、どうした?

 慌てて起き上がって台所に向かうと、コマは必死でガムと格闘しておられる。

 器用に前足でガムを押さえ込み、可愛いお顔を歪ませた鬼の形相。

 がりっ!がりっ!と音までして、飼い主はガン無視。

「おーい、散歩は?行くのかい?行かないのかい?」

 コマはチラッとだけこちらを見て、ふたたびガムへの闘いに挑む。

 こりゃダメだな。

 こんなときだけ柴の血が騒ぐとみた。


 それでも引き摺るように外に出る。

 散歩は大事だそ?折角のお散歩日和だぞ?件の中華屋の前を逃げるように駆け抜けてみたが、コイツもしや気づいてないのか?

 家に帰ると、またしても貪るようにガムにかじりついている。

 ふ、普段なにもやってないみたいじゃないか。


 次の日は車を出して、コマとドックランへ。

 日頃、一人でお留守番させててさみしい思いしてるからね、サービス、サービス。

 受付をしてドックランに入ると、おっきなアフガンがいて、きれいだなって眺めてたら、コマが追っかけ回し始めて大変だった。

 や、そんなお高い子に怪我させないでよっ!と思ったら、チワワに追っかけ回されて逃げ惑ってる。

 なんだ、それ。

 帰りはへそ天で寝てやがる。

 可愛いから許されてんだぞ。


 月曜の朝は、いつも通りコマの熱いキスで起こされ、散歩して会社へ。

 いつも通り、机を拭いてパソコンの電源いれて起動中にスマホを弄ろうとしたら…

「鈴木ぃ!」

 と聞き慣れた声の、聞き慣れた口調。

 ああ、やはり金曜日のあの部長様は幻だったのね、と思い知る。

「はあい」

 と、気が抜けた返事をして振り返ると、

 なんじゃ?どうした?部長様!

 突っ込んでいいのか?

 部長様は、カツラをお召しになっていた。


「この資料、この間のデータに足しとけ」

 と、補足データとは思えない量の紙の束を置いていかれた。

 マジか。

 まだ始業前なんですけど。

「いつまででしょうか?」

 と聞くと、

「あん?今週の水曜までって言っといたろうが!」

 ん。カツラ以外は通常運転だ。


「おはっよー、すず…あれなに?」

「さて?何でしょうね?」

「で?それは?」

「追加ですと。で、締め切りは今週の水曜日」

「金曜の部長様は出勤してないの?」

「どこかに移動されたのではないでしょうか」

 と、わざとらしく溜め息を付いてみた。


 緑川さんの雰囲気が、何か違う。

 ?何だろう?

「緑川さんさん、髪切りました?」

 無難な質問をする。

「え?切ってないよ。紅茶、淹れてきてあげるね」

 と、給湯室に向かって行った。

 紅茶?はて?


 緑川さんのモニター脇のアクスタが、二次元からアイドルに変わっている。

 あれ?

「お待たせ」

 渡されたのは赤い彗星のマグカップ。

 おや?

「ん?これ鈴木のだよね?先週買ったやつ」

 え?

「赤は緑川さんの推し色…」

「ん?だから一緒に眺めましょ?てお揃いで買ってきて来てくれたじゃない。ほら」

 と、見せられたのは自分のての中にあるマグカップと同じモノ。


「全く、鈴木ったらミヤ様の赤とかセンス有るよね!」

 もし、緑川さんさんに赤いものをあげるとしても、帝国軍人の赤だ。

「ミヤ…様?」

「やーね!スノオボールのミヤ様!赤担当!」


 男性アイドルグループ。

 彼らがアニメの実写映画に出演した時、怒ってなかったっけ?

 彼らのせいじゃないけどさぁ!て、前置きして。

「スノオボールの映画…アニメの実写の…」

「あれね!それなりに面白かったよ!アニメは知らないけど」

 自分の知ってる緑川さんじゃない。


 緑川さんの趣味と、部長様の外見以外は普段と変わりなく過ごしていた。

 やはり、世界線とかなんだろうか?

 それ、なんてシュタゲだよ。

 追加のデータを打ち込みながら、XLOOKUPが張られていることに気付く。

 このデータは先週の木曜に部長様に提出したモノで、VLOOKUPで仕上げてしまった筈のモノだ。

 あの金曜の部長様は実在したのか?


「ただいまぁ」

 いや、きっと疲れてるだけだ。

 緑川さんさんはアイドルの話をしてても楽しいし、ん。

 そうだ、温泉に行こう。

 玄関を開けると、そこにコマの姿はない。

 ?

 電気をつけて部屋にはいる。

 へそ天で寝ていたコマは、しまった!て顔して起きた。

 え?

 茶と白の毛をしていた筈のコマは、真っ白な子になっていた。


 漫画みたいに眼を擦って、何度も瞬きして、部屋のなかを見回して。

 確かに自分の部屋と確認できて…

 でも、飾ってある写真も、そこにいるコマも白い毛。

 あ、スマホ…と、画像ファイルを見ると、やはり、白い毛のコマ。

 これも、これも撮った覚えはあるけど、コマの色だけが違う。


 ………駄目だ。

 疲れだ、疲れ。

 仕事のせいだ。

 今週末はスーパー銭湯行くぞ!

 まだ月曜だけど。


 その日は凄く疲れる夢が展開されたのだけど、覚えていない。

 ただ最後にコマの声で目が覚めた。

 ん。ご苦労。でも吠えるのは止めようね。


 朝の散歩途中で、またしても中華屋の前に豚足発見。

 コマはなぶるように前足で器用に転がしてる。

 普段、ボールでも遊ばないのに珍しい事だ。

 齧らなければ遊ばせとくか、とも思った矢先に口を開けたので、取り上げる。

「齧るのは、めっ」

 と言うと、ぷいって顔を背けた。

 拗ねやがって、可愛いやつ。

 家に帰って、コマのご飯の準備をしてたら、おや?ガムがない。

 まだ、半分は残ってた筈なのに、食べちゃったのかな?


 少し憂鬱を引っ張りながら、会社に到着する。

 おや?緑川さんだ。

「おはようございます。緑川さん。お早いですね」

 と言うと、短くかっこ「おはよう」とだけ告げて先に行かれた。

 どうしたんだろう?何か急ぎかな?


 席に着くと、緑川さんは当然もう着いていて、給湯室で他の女子社員と話している声が聞こえる。

 そうだよね。

 自分だけじゃないよな、て少し寂しく思ったけど、緑川さんの机を見ると、アクスタがない。

 ??

 ぱたぱたと席に着き、鏡を見ながら髪を整えたり、リップを塗り直したりする緑川さんさんに違和感しかない。


 ふと、自分の机を見ると、乗っかってるのは紫色のマグカップ。

 手触りは青いものとまるで同じ。

 ――――

 八時に部長様が到着する。

 女子社員の黄色い声。

 緑川さんが、オタトークをしていたときのように高揚してる。

 けど、その先には……


 絵に描いたような高身長イケメンの、恐らく部長様がいた。


 


 


 


 


 



 

お読みいただきありがとうございます。

拙すぎて、なんじゃこりゃと思われるかも知れませんが、

最後の部長様は別として、この位の変化って割とありません?

毎日、違う事言う上司は、別の世界線から来てるって思う事にしてれば

きっと何かを諦められる。多分。


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― 新着の感想 ―
感想返信、ありがとうございます。 とても丁寧に補足していただいたので、「これ以上はくどいか…?」と不安に思いつつ、軌道修正的な追加感想をば。 まず、哲学的なタイトルと、シュタゲ・世界線って言葉に引き…
ふむ。 誤字も多く、元ネタが分かる様な分からない様な固有名詞とマンガセリフが混ざり、なかなか読み解きにくい。 パラレルワールドないし世界線の混雑と言うテーマに惹かれて読んでみたが、かなり残念。 何…
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