擬態
どんな動物の姿にでもなれる怪物がいた。その怪物は、人間を自らの仲間の奴隷にするために人間社会へと潜り込むことにした。
その怪物は人の赤ん坊に姿を変えると、孤児としてある児童養護施設で生活することとなった。
怪物はそこでスクスクと育つと、人を支配するための知識を溜め込んでいった。
やがて怪物は少年から青年へと成長し、周囲から立派な人物だと言われるようになる。
弱きを助け強きを挫き、不正を許さず、私生活にも乱れはなかった。仲間とも連絡を取ることはなかった。
どんなところから計画がバレるかも分からない以上、下手な動きは出来なかった。
そんな怪物が、大学を卒業する直前となったある日、不意に警察に逮捕された。しかし怪物は全く慌てることなくついていく。
「刑事さん、僕が一体なんの罪をしたというのですか? 身に覚えがないのですが」
「ああ、だろうな。お前の過去を洗ったが、どんな軽犯罪の痕跡すら見つからなかった。お前は本当にどんな罪もしていないな」
「それなら、なんで僕はいまここに連れてこられたのですか?」
しかし警官はその言葉に返事をすることなく拳銃を抜くと、いきなり怪物に向けて発砲する。銃弾を受けた怪物は転がると、なぜ、と弱々しく疑問を口にする。
それを見下ろして警官は答えた。
「そんなに清廉潔白な人間がいるわけないだろう」
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