終章 第6話 カラーマーカー
アビスのソウルコアはヒトの体へ完全に取り込まれた。
ヒトはこの時初めて自分という存在の重さを感じた。虚無でどこまでも空っぽな自分の中に何かが芽生えた感覚を覚える。
生まれた時から何かが足りなかった。
あるべきはずのものが欠落していた。
それを――見つけたのだ。
それを――取り戻したのだ。
これが自分のものだと証明するように体に馴染んだアビスのソウルコアは、活性化してヒトのカラーを増幅した。感情と共に溢れるカラーが体を満たしていく。
見ればヒトの腹は妊婦のように膨れており、ヒトはソレを愛おしいと感じて優しく撫でた。すると膨れた腹はみるみるうちに凹んで元に戻り、ヒトはそのカラーが真に己のものであることを理解する。
その事実を確認したヒトは満足げにその場から立ち去っていく。
誰かの人生を追体験するような映像の意味はわからなかったが、そこに含まれた感情はヒトの心を大いに満足させていた。
今日、この日。
ヒトは多くのものを得た。
家族を、友を、先輩を得た。
魂を、体を、感情を得た。
虚無の内側から生まれた欲求と昏く青いソウルコアが共鳴する。
ここに魂と体は一つとなって――ヒトは完成する。
この体験を早くお父様に報告しなければと、ヒトの足取りはとても軽い。
ヒトは自分という存在の重要性を欠片も知らない無垢な心で、笑った。
世界を覆っていた昏き青は、いつの間にか赤い夕暮れに変わっていた。
私は足を止める。
私がその場所に着いた頃にはすでに、世界は赤い夕暮れに染まっていた。
どうやってここまで辿り着いたかなど、そんなことはどうでもよかった。
私がここに辿り着けたこと、それこそが重要なファクターだろう。
私の視界の先に広がるもの。
それは私が探していたもの。
『カラーマーカー』
世界の色を示す絶対の指標。
黒き神が白き神から奪った世界の構成要素。
世界をコントロールする鍵の中の一本。
ようやく見つけることができた。
人間と魔女が交錯することで、私の計画は進んでいく。
「やっぱり人間はオロカ〜だね♪」
種の垣根を超えた出会いこそ、運命で――奇跡なのだ。




