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3章 第37話 俺とオレの答え

 魔女との理想的な決着を前にして、俺の中から黒い何かが吹き出した。



 それは俺の中のオレだった。



 過去のオレはこの決着に不満を漏らした。



 槍を持つ手は勝手に動いて、再び刃を魔女に突きつける。




 ――力には力だ。好き放題するやつは力でわからせるほうがいい。




 俺ではないオレのカラーが先輩の槍へと流れた。力を使い果たした俺にはオレを抑え込むだけの力は残されていない。



 《レッド・カラー、グリーン・カラー、ブルー・カラー、シアン・カラー。マゼンタ・カラー、イエロー・カラー、ブラック・カラー、ピンク、スカーレット、オレンジ、グレイ、ブラウン、バイオレット、ゴールド、シルバー、ローズ、ワインレッド、オリーブ、ダークグリーン、インディゴ、セピア――――――――――チャージチャージチャージチャージチャージチャージチャージチャージチャージチャージチャージチャージ――》



 CEDがひっきりなしにカラー使用の待機状態を知らせる。



 それはもう一人のオレが持つ禍々しい黒の中に秘めたカラー、その一端だった。



 「ひっ、ひぃっ。おっ、お前はなんだ、なんなんだそれはッ!?。本当に、さっきと同じ人間、なのか……? ――お前は中にッ、何を飼っている???」



 魔女は武器を振り上げた俺を見て、震え上がり、後退る。



 俺たちはそんな魔女を無視し、武器を突きつけたまま体の制御を巡って対話する。



 ――魔女を、全てのCEMを駆除しなければ、お前が望む平和な世界は訪れない。敵を救うのは無理だ。諦めろ。優しさと甘さを履き違えるな。



 「……そうかもしれないな。お前の言うことは正しいと思う。でも殺してしまったら終わりだ。そいつに話を聞いてもらうことも、そいつの話を聞くこともできなくなる。だから俺はみんなに生きていて欲しいんだ。それで一緒に笑顔になれたらいいと思っている。後悔するっていうなら、それをひっくり返して笑顔にしてやるよ」




 世の中は理不尽で満ちている。


 不可能はある。


 戦いは簡単に終わらない。



 だけどそんな理屈めいた考えを吹き飛ばしてしまうような、そんなヒーローみたいな存在になりたいと俺は思った。


 誰かを助けることで、命を尊ぶことで世界を変える存在になりたいと思ったんだ。



 ――馬鹿が。お前の力はオレの物だ。自分は努力して強くなりましただと? 自分で出した答え? 笑わせるのも大概にしておけ。所詮お前は転生したオレの器にすぎない。オレにできないことはお前にもできない。世界を救うのは諦めろ。



 《バイオレント・カラー・ブレイク》



 槍に蓄積された黒き極彩色のカラーが暴力的な眩さを持って輝きを放った。


 これが振り下ろされれば、地面に穴が開くだけでは済まないだろう。



 一人のカラードとして、恐怖を超えて畏怖を感じるカラーがそこにあった。


 目の前の魔女が戦慄を覚えるほどのカラーに力で正面から対抗することはできない。



 だから俺は――言葉を尽くす。



 「俺はお前のことも忘れていないよ。お前が経験した残酷な世界の現実を俺は見て、知った。世界は残酷で狡猾で、お前の大切な人を奪った。だから俺に忠告してくれているんだろ。ありがとうもう一人のオレ。でも俺は――その上で誰かを助ける道を選ぶよ。それが味方であれ敵であれ、変わらない」



 ――何だと? お前……オレの過去を見たのか。魂の状態からそのような記憶の共有が起こっても不思議はない……だが、オレの始まりを、その結末を見た上で言っているんだな? 世界の残酷さを理解した上で言っているんだな?



 振り下ろされようとする槍がぴたりと動きを止める。もう一人のオレから馬鹿にするような態度が消えたのがわかった。



 少しは俺の覚悟が伝わったことに安堵しながら、オレの言葉に応える。




 「お前が受けた理不尽は俺も見た。見ただけでその感情の全てを理解したとは言わないが、とてつもない痛みだったことくらいは伝わってきた。だからこそ、お前がこの世界に転生してよかったと思えるように、俺がお前の分まで努力して、行動する。もしかしたら弱音を吐くからもしれない、お前に力を借りるかもしれない。それでも最後には必ず笑顔で終わらせてみせるよ」



 《スケルティア・カラー――チャージ》



 俺はもう一人のオレが生み出したカラーを包むように透明のカラーを先輩の槍に注いだ。


 槍の全身が優しい透明に包まれていく。



 ――てめぇ……オレを怒らせてぇのか? ガキがオレの人生を見てまともでいられるはずがない。それにアレを見てまだ、そんな夢物語を宣うってのは、よほど頭がお花畑なんだろうよ。もっと現実を見て現実的な生き方をしろ。でなければまた失うだけだ。そこのバカ女みたいにな。



 「はぁ……、――っ」


 もう一人のオレはこれ見よがしに先輩のことを引き合いに出して俺を挑発する。



 確かに先輩を失ったことは俺に責任がある。


 取り返しのつかないことをした。



 それでも奪われたから奪うことを繰り返していては、戦いが終わることはない。



 それにオレは俺が失敗しないように忠告してくれているんだ。伝え方は下手くそだが、俺のことを気遣ってくれている。




 だから――俺は吹っ切れたように一言置いてから。


 すぅっと大きく息を吸って。




 「さっきからごちゃごちゃうるさいんだよ! お前の過去は俺の過去なんだ! 全部背負ってやるからジジイはゆっくり午睡をキメてろ! 俺がその間に全てを世界に叩きつけて、ハッピーエンドにしてやるって言ってんだ!!!」




 色彩英雄譚に描かれるような、話をきくだけで笑顔が溢れる、怪物をも赦し笑顔にできる存在――だれもが求める色の持ち主になりたい。



 俺は夢想して、そのまま進んでいく。



 ――くく、ハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!



 オレは笑った。


 オレは壊れたように笑った。



 ――なんだそりゃあ。なんの根拠もねぇただの意気込みじゃねぇか。くくく、だが不覚にも笑っちまったからな――いいぜ、殺しはなしにしてやる。ちっとばかし長話をしすぎたようだしな。




 「いいのか? お前がそう簡単に自分のやり方を曲げるとは思えないんだが」




 ――ああ、見届けてやる。お前が語るハッピーエンド、それを現実に昇華させるのか、バッドエンドに潰されるだけの儚い夢だったのかを、な。




 「なるほど。俺は面白い見せ物ってわけだ」




 ――そして言っておいてやる。お前は必ず失敗するんだ。大切なものを次々と失い、悲しみに打ちひしがれる日々を送るだろう。そして世界に、人間という愚かな生き物に絶望する。最後には生きることに疲弊して、オレに全てを委ねることになるだろう! 残酷な世界の中で足掻いて見せるがいいさ。滑稽な見せ物の観客として、オレは常に中からお前を見ている。せいぜいオレを楽しませてくれよ。くっハハハハハははははははは!!!!



 オレが生み出した黒く禍々しい極彩色のカラーは、透明に混ざるように薄くなって白に還る。



 そして世界に霧散し、消えていった。



 「ふん、言ってろよ」



 俺は目指す。



 努力し、行動する。



 人と人が手を取り合い、許し、怪物と呼ばれるものたちへ優しさを向けられる――その日のために。



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