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3章 第35話 ハートコア

 「俺と先輩、二人の力を解き放つ――」



 僕――俺は。


 先輩のソウルコアを槍に重ねて装着する。



 CEDに予め取り付けた外装パーツが連動して、ソウルコアを受け入れるために駆動する。



 不定形のソウルコアはその場所に嵌めるために作られたかのように変化し、完全に一つになったことを示す装着音を鳴らしていた。



 「魔女に見せてやろう。人間の――俺と先輩の――力を」


 ――俺の呼びかけに応えるように、ソウルコアは新たな色を放つ。


 《ソウルコア・カラー・アンロック》




 「我の敵よ、消し飛ぶがいい――ッッッ!!!」


 魔女が右手を掲げ、水龍は俺を目掛けて突っ込んでくる。



 超巨大な水龍の攻撃。


 それはまるで津波が押し寄せてきたかのような光景だった。


 そこに逃げ場は存在しない。



 「これが俺、御園透の覚悟と――先輩の魂を合わせし」



 ソウルコアは持ち主が死したとき、その色を失い世界に溶けて消える。


 これが世界の真理。



 だが――これには例外が存在する。



 それは持ち主がソウルコアを移譲した場合だ。ソウルコアは持ち主に認められた者が受け継ぐことで――新たな力となって生まれ変わる。




 生まれ変わった力は通常のソウルコア出力を凌駕する――!




 「俺と先輩の全てを込めた――ハートコアの一撃を受けてみろ!」


 《ハートコア・カラー・チャージ》



 ハートコア。


 ソウルコアの新たな姿であり、受け継がれた力。




 これは持ち主の想いを受け継ぎ、認められた者だけが振るえる魂の色。


 ソウルコアを通常使用するよりも負荷が少なく、その威力は持ち主の色――その特性を色濃く受け継ぎ、人の限界を超える。


 また通常のCEDでは耐えきれない負荷を、外付けパーツが緩和してくれていた。




 ハートコアが生み出す先輩の色は世界を凪ぐ力だ。


 これが初めて使う力だとしても、俺がその使い方を理解する必要はなかった。




 隣には先輩がいてくれて、俺に寄り添い手を重ねてくれる。


 その重ねた手は暖かく、冷たい世界を塗り替えていく。




 「はああああああああ!!!」


 《ハートコア・カラー・チャージ――フルドライブ》



 槍にセットされたハートコアの発色が増し、溢れんばかりの色が槍の全体を包み込んだ。



 溢れるカラーは俺の体にも膜を張るように流れ、最大の一撃を放つために先端の穂先へと流れていく。槍の穂先を包み込んだ色は槍の形を新たな姿へと変化させる。



 「魂を力に変えて、万物断ち切るは雷纏いし戦斧槍! 槍は斧へと姿を変えて、破壊の力を顕現させる。優しき人よ。どうかあなたの力を貸してほしい。さすれば簒奪者を討滅せしめん」



 槍から斧の形を得て戦斧槍へと姿を変えた武器からカラーが溢れる。


 透明と黄色を混ぜたそれは青き世界を照らすように発色していた。



 「優しき世界のために。ボルテックス・スケルティア・ブレイカーァァァ!!!」


 《ハートコア・カラー――イエロー・スケルティック・フルブレイク》



 戦斧槍に変化したことで重量が増した武器、扱いの全く異なる武器を自分の手足のように動かし、俺は眼前の魔女へと解き放った。



 放たれた一撃は横薙ぎの一閃、先輩とともに放った一撃が水龍に迫る。



 水龍はその巨大な顎で迫る一閃を噛み砕こうとしていた。



 「おまえたちの一撃など、我の水龍が食いちぎってくれるわ!」



 「俺と先輩の想いを込めたこの一撃――止められると思うなああああああ」





 俺と先輩、魔女の最大火力がぶつかる。





 お互いに万全の状態ではないため、その決着が長引くことはなかった。





 結果――戦斧槍から放たれた一閃は巨大な水龍の顎を切断、貫通して――背にしていた建物ごと水龍を崩壊させた。



 

 完全に断ち切られて崩壊する水龍は大量の水となって地面に落下する。


 大量の水は戦場を湖に変え、濃霧で満たした。





 まだ戦いは終わっていない。





 お互いに大技は出し尽くした。2度目はない。


 ならば残りの力をかき集めて放つ次の一撃こそ、真の意味で最後の一撃。


 相手の攻撃を読み、先に一撃を与えた方が勝者となる。




 俺は濃霧の中で魔女の次手を考えて、意識をその気配に集中する――!



 「これは――」



 俺が霧の濃さに魔女を捕捉できずにいると、どこからか声がきこえてきた。


 それは笑い声の類で、濃霧の中で反響するように響いて俺の方向感覚を狂わせる。




 その中で魔女が囁く――俺への言葉。




 「人間、おまえは絶対に殺してやる」


 「――!」



 魔女は俺が声に惑わされている間に濃霧の中で俺の位置を特定し、一瞬のうちに間合いを詰めてきた。間合いに詰められてしまえば斧を振りかぶることはできない。



 大振りが基本行動の武器は近接武器でありながら超至近距離での戦闘は小回りが利かないため不利。



 ここまで近づかれては長斧で対処するのは難しい。


 だが、この武器は――ただの斧ではない。


 これは斧と槍を組み合わせた戦斧槍。




 敵の動きに対して自在に対応できる――俺と先輩の武器だ。




 「相手に組み付くのは――俺が1年前にやったことだ」




 相手の動きが読めている場合、この武器は完璧な対応を可能にする。



 俺は戦斧槍による一閃を放った後、突きの構えをとって静かに魔女を待ち続けていた。濃霧の中で魔女の奇襲に怯える姿を演じながら、この距離まで接近されるのを待ち構えていたのだ。



 「我は負けん、我こそが最強の魔女ぞ。生物の頂点に君臨する存在なのだ。小賢しい人間如きに負けてたまるかあああああ!!!」



 「おまえは人間の真似事をして負けたんだ。人間を、舐めるなあああああ!!!」



 俺は真正面から拳を振りかぶろうとする魔女に向け、全てを込めた戦斧槍による突きを放つ。



 

 しかし、魔女は俺が突きの体勢に入っているのを見て、強引にその動きを変えた。




 「こんなところで終われるか、終わってたまるか、我は終わらぬぞおおおおおお――深海ッ悪夢、龍ゥゥゥ!!!」



 「なにッ――」



 魔女は接近した態勢から無理やり身体を捻って回避を試みつつ、地面から水龍を呼び出した。その大きさは先ほどの大技と比べるまでもなく小さなものだったが、不意の一撃に俺の体は空中へと吹き飛ばされ、突きによる攻撃は不発に終わっていた。



 「人間如きが。空中ではどうすることもできまい。そのまま落ちて、終われ」



 このまま重力に身を任せて落ちていけば、地上で待ち受ける水龍の餌食となって俺は魔女に敗北する。



 人間は空中で戦えない? 


 それはそうだ。


 人間には翼がないし、最初から飛ぶようには作られていない。




 ――だから、どうした。



 俺は一年前とは違う。


 毎日毎日、自殺のような訓練を繰り返して特訓を重ねたんだ。




 人間が飛べない程度の理屈で俺の1年間を否定できると思うな。




 たかが理屈程度で俺がこの日にかけた想いを否定できると思うな。




 「俺の1年間を、先輩の想いを、その程度で躱せると思うな――魔女おおおおおおお!!!」



 《ハートコア・カラー――スケルティア・ブレイク》


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