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3章 第34話 全てを隔て、全てを重ねる色

 霧が晴れた。




 世界は色を取り戻して、俺に問う。




 ――お前の答えは? と。






 俺は崩壊する水龍の真下に立っていた。



 魔女はその光景を見つめ、立ち尽くしていた。



 世界に立つのは2人の姿のみ。


 邪魔をする者はどこにもいない。



 俺はずぶ濡れのまま、いまだ降り注ぐ水を一閃の元に切り払い、魔女を見つめる。




 「返してもらったぞ。先輩の――魂を!」


 俺は左手に優しく握られた不定形の物体――先輩の色を天に掲げた。




 先輩の優しさと暖かさ、心の色。


 その全てを内包した――ソウルコア。




 「なっ、なぜだ! 我が完全に掌握したはずの魂、肉体、なぜ動かない! できるわけがない、できるわけがないのだ、人間が我から魂を切り離すなど――」



 「不可能だって? じゃあ教えてやるよ。1年前にお前が取り込んだ先輩のソウルコアには俺のカラーが混ざっていた。俺の透明は全てを重ね、全てを隔てる色。だからお前は先輩の魂を完全に食らい尽くすことはできずに――1年間、その行動を停止させていたんだよ。どうだ魔女、人間を乗っ取ったつもりが、逆に乗っ取られていた気分は!」



 1年前に生まれた透明は魔女の中で膜のように機能して、先輩の魂を守り続けた。




 それは俺たちに必要な時間を作るために。




 俺には強くなるための時間を。


 先輩には大和の闇を暴くための時間を。




 そして全ては、今日――この日のために。




 「な――そんな、そんなことが……世界最強の生命体である魔女を欺いたというのか? ふざけるなよ、人間。そんなことはあってはならない。魔女こそが最強なのだ。魂に刻まれし色の力こそ最強の証明なのだ――まだ、まだだ。我は魔女。この世界を統べる存在、負けるはずがないのだッ!」



 俺の言葉に焦り、怒る魔女は水から龍を生み出した。


 その数は――十を超えている。



 「人間如き下等生物が我の逆鱗に触れたな……全力で潰してやるぞ」



 「お前を倒して証明する。人間の可能性を!」



 相手が万全の状態ではないのは助かるが、こちらも余裕があるわけではない。



 長期戦は望めない。



 だが、俺に焦りはなかった。


 先輩が俺に無限の力を与えてくれる。


 どんな状況になろうとも負ける気がしない。



 「人間風情に、我が、世界最強の魔女が――負けるものかああああああ!」



 先輩から受け継いだ槍は透明と黄色を纏って刺し穿たれる時を待っている。



 左手に握られた先輩の色が、生命の鼓動を伝えるように明滅していた。



 それに対して魔女は、こちらを上回る力を誇示するように青きカラーを振るって襲いくる。



 青から生み出された水龍に黄色の雷を纏わせることで魔女は技の強化を図る。



 これは1年前にとった戦法と同じものだが、あの時とは水龍の数も大きさも比較にならない。



 俺たちと魔女の差が歴然であることは疑いようもなかった。だが――



 「な、に――これ、は」



 青のカラーで構成された水龍に黄色が生み出した雷が付与されている。



 それは最強の一撃になるはずだった。



 しかし――水龍の纏っていた雷は突如として消失した。


 それに続いて十体を超える全ての水龍の体が崩壊を始める。




 大量の水が魔女へと降り注いだ。


 その雨は恵みの雨ではなく、魔女に現実を教える驟雨となって降り注いでいた。

 


 「これは……なんだ? 我に何が起こっている……?」



 魔女――先輩の体は透明な色に包まれ、その深き青さが急速に失われていく。




 「たとえ女の魂を取り返されようと、女の身体は我の魂に馴染んだはず。我自身のカラーもあるのだぞ。同じ魔女の力でもカラーへの干渉など容易ではないというのに……人間、我の魂に何をした!」



 魔女は目の前の光景に理解が及ばず動揺していた。自分の手足のように使えていたものが急に言うことを聞かなくなった衝撃は、いかに魔女とはいえど大きいようだった。



 「魂と体を繋ぐカラーのパスを切断しておいた。いまのお前は自分の技に上手くカラーを供給できていない状態だ。お前の技はどれも発動後に微細なコントロールが必要なタイプだろ。それは一年前に先輩の体を乗っ取ったとき、技の細かい制御ができていないことからわかっていた。だからコントロールできないようにパスを切断してやれば、その技は発動しても維持ができなくなる」



 カラーには発動後も制御が必要な技と不必要な技がある。


 たまたま目の前の魔女が前者のパターンだったというだけの話。



 たまたま俺が透明のカラーを持ち、カラーの接続を断つことができるカラードだったというだけの偶然。



 「そうか……そうかそうかそうか! あの時の透明はそういうことか! 我のカラー――魂を遮断して支配を無効化した透明……それが貴様のカラーが持つ特性というわけだ。その特性は我のカラー制御さえも封じると。お前の言葉は受け入れ難いものだが、どうやら事実のようだ」



 「まぁそういうことだ。運が悪かったな魔女――俺とお前は相性が悪い」



 生きていれば運が悪いことなどいくらでもある。



 現実とはそういうもので、ただ受け入れて生きるしかない。



 ただその現実を嘆いて運が悪いと逃げるのか、現実を変えるために行動するのかは当人の自由だ。



 それが生きるということだと、俺は思う。



 「説明はもういいよな。じゃあ返してもらうぞ。お前が操る先輩の体を」



 俺は先輩の魂を魔女から切り離すことに成功した。



 そして残った体も魔女の魂と切り離されて解放の時を待っている。



 ――魂と体の両方を解放したとき、真に先輩を魔女の呪縛から解き放つことができる。



 「認めてやる――今からおまえは、我の敵だああああああああああ!!!」



 魔女の叫びに呼応するように崩壊を続けていた全ての水龍が融合――1つとなった。



 1つとなった水龍の大きさは……軽く50mはあるだろうか。


 複数から単体の制御に切り替えることよって崩壊を防ぎ、なおかつ一撃の威力を向上させる。一見して1年前と同じことをやっている様に見えるが、1年前の魔女は奪った体に馴染めていないせいでその能力を十全に発揮できず、本来の体で出せるレベルの全力は出せていなかった。



 今回も自身の体に予期せぬ不具合が起きた状況下で無理矢理にでも高出力のカラーを生成できるのは、カラーという分野において魔女の資質と能力の高さゆえだろう。



 「ゆるさん……ゆるさんぞ、人間……はあああああああああ!!!」



 魔女は胸の中心から深き青を溢れさせ、巨大な水龍へと直に注いでいた。体を経由せずに魂から直接カラーを出力することで、強引に技を繰り出すつもりなのだろう。



 人間で例えるならば、心臓から血液を必要な部位へと直接注いでいるようなもの。



 あまりの力技、怪物だからこそできる芸当に頭が痛くなる。



 「はっ――これだから怪物ってやつは。人間がやったら卒倒ものだぞ」



 だが、逆に考えれば魔女だからできる強引な方法を選ばざるをえない状況を作ったということ。



 あの方法を選択したこと自体、魔女が追い詰められている証なのだ。



 おそらくあれが魔女の繰り出す――


 最後の一撃で、最大の一撃で、最凶の一撃だ。



 この一撃に対処することができれば魔女に勝てる。


 俺はそう確信した。




 しかし、カラーを消耗した俺が1人だけの力で魔女に対処するのは不可能だ。



 そう、この場所にいるのが俺一人だけならば。




 この場に人間は、二人いる。




 俺は1人じゃない。




 俺たちの力を見せてやる!!!


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