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3章 第15話 カラーの回復

 目の前の相手が蟻型ということから侵攻ルートが地中になることは子供でも思いつく。



 大和コロニーの地下部分はライフライン専用の空間が存在しており、その中を進んできたのだろう。地下には清掃ボット用のメンテナンス通路もあるが、あれは狭いため蟻型CEMの大きさでは通れない。よってライフライン用の通路を掘り進めてきたと考えるのが自然だ。



 となれば地下のライフラインが破壊された可能性が高く、周囲の電力供給等に懸念がでるか。



 敵の侵攻ルートについて考えるのはここまででいい。



 CEMについて考えなければいけないことがもう一つある。それはその生物としての特性、そしてカラーが彼らにもたらす能力についてだ。



 むしろ予想がしやすい生物の特性よりも、予想が困難なのがこちらだ。カラー能力とは大雑把なもので、現在確認されているものでも青いカラーを持っているから水の能力が使えるというわけではない。青のカラーを持つ個体でも、水を使う個体、炎を使う個体、雷を使う個体と様々なのだ。



 これは青に限らず全ての色について言えることなので、目の前のCEMの色を見て過去にあった事例から参考程度に頭に留めておくのがいいだろう。




 カラーによって付与される能力を考え過ぎても戦いの枷になるだけ。



 想定できる部分だけを想定し、想定外の部分には臨機応変に対処する。



 それがカラードの戦い方だ。




 「ひっ、あぅ、うぁ、あぁ、ばけっ、もの、いやぁ」


 「ごめんよ――ちょっと飛ぶから、我慢してく、れっ」



 俺はいやいやと怯える新開を無理やり抱き抱えながら自分の直上、真上へと五メートルほど跳躍した。抱き上げた新開の体はやけに軽い。それでもその震えは直に伝わってくる。そして伝わってきたのは震えだけでなく、その恐怖に染まった気持ちも伝わってきていた。



 全てが片付いたら……謝ろう。


 だから今は、俺なんかの腕の中で我慢してくれ。




 「怪物ども、こういうのはどうだ! オーダー・ボルテックス・イン」


 《イエローカラー・チャージ――バースト》



 俺は片手に持った槍を中空から地面目掛けて投擲する。



 敵が湧き出す穴の出口に突き刺さった槍は黄色の光を帯びており、光は槍を通じてパチパチと音を立てながら地面に浸透していく。



 その色は――黄色。


 その光は――雷光だった。



 《ボルテックス・コンビネーション》



 設置していた光球が槍と連動――雷を増幅して怪物の集団へと炸裂させた。



 穴から地上への展開を開始していた蟻の軍隊に、増幅された雷撃が伝播していく。



 「ギャッ、ガッ、ギィィィィ!」



 雷に打たれた怪物は断末魔の叫びを響かせて仰向けに転がり、白煙を上げて溶滅する。



 「溶滅――確認。ふぅぅ」



 跳躍から着地した俺は新開を地面にそっと降ろして、改めて戦場を見回す。



 すでに殆どの個体が溶滅しており跡形もなく消える途中のようだ。



 俺は撃ち漏らしの個体がいないことを確認する。



 CEMの特徴の1つに溶滅という死亡時の特性があるが、今回はそれに助けられた形だ。戦場において個体数が多いということは倒す上で築かれる骸の数が膨大になるということでもあり、骸を盾にされての戦闘は注意散漫になるので戦闘時の危険が増す。



 CEMはその命が尽きたと同時に溶滅するため、死骸の山が築かれることはない。



 死んだふりをされることがないのもまた助かる部分だ。



 いや、この点に関しては俺が出会ったことがないだけで未知の部分があるので断言はできないか。



 ともあれ敵の特性に助けられるのは自分の実力不足を痛感するところだが、ここまで数的不利な状況ということで自分も許してやりたい部分もあった。



 「数的不利はまだ続く……解決するべきだができない課題だ。やれやれ。あぁ、すまない新開、大丈夫――か」



 「だめ……くる……わたしの――」



 俺は新開の様子に異変を感じ取っていた。



 先ほどの錯乱した様子とは違う。何かに怯えるというよりも、既知の存在を感じ取っているような……。



 「おーい、透―無事かー?」




 戦場に溌剌とした声が響く。



 気づけば赤也が近くまで後退してきていて、怪物の群れと俺たちの間には巨大な炎の壁が出現していた。怪物は炎の壁に遮られて前進を停止させ、そこに前進の勢いを止められない後続の怪物が衝突――結果、炎の壁に突っ込んで焼かれる個体が多数確認できた。



 赤也は俺が指示するまでもなく撤退の機微を察して、時間を稼ぐために残りの力を圧縮して放ったのだ。



 これで時間が稼げる。


 流石とおうべきか、頼もしい相棒だ。



 さて、新開のこともある。次の動きを考えなければ。



 「こっちは問題ない。赤也は大丈夫か?」



 「おう、なんとかな。炎は地上から地中の穴まで浸透してっから多少は持つだろ」



 赤也の全身は汗でビショビショに濡れてはいるが、あれだけの戦闘をこなしておいて傷一つ見当たらない。潜在的なカラー量もさることながら、その格闘センスにはいつも感心させられる。基礎体力に関しては、もはや勝つことを諦めそうになっていた。



 ともあれ赤也は最初に普通科にいたことが不思議に思えるほど、カラードとして能力を開花させ、命のやり取りをする戦場でここまで動けているのだ。それは努力の賜物で片付けられないほどに才能を感じさせる。



 俺は才能を羨むことはあっても、不満を抱くことはない。



 「相変わらずの筋肉バカだな。ほらよ……今のうちに水分補給しとけ」



 俺は補給用の給水パックを装備から取り出し、最大の賛辞を添えて赤也に渡す。



 「おっ、サンキュ。ていうかそれ、俺にとっては褒め言葉だかんな」


 

 俺はどんなに無理や無茶なことでも、日々の鍛錬と覚悟によって為せることがあるのだと、そう信じているからだ。



 「ははっ、そうだった」



 給水パックを受け取った赤也はパックを片手で潰すようにして一気に飲み干していく。



 給水パックの味に顔を渋く歪めた赤也を横目に、俺も水分補給を行いながら次の動きを練ることにした。



 「筋肉の話はさておき――ここまでの戦いで遅滞戦闘は成功といっていいだろう。蟻型CEMの数は想定以上だったが、俺たちに与えられた任務、目的は達成した。今、赤也の炎の壁が機能しているうちに新開を連れて学園まで後退する。この場所の戦闘は他のやつらに任せるほうがいい」



 「ぷはっ、俺はまだ戦えるぜ」



 「それはもちろんわかっているが……この状況は何かがおかしい。それが不可解でな。ただ考えるにも情報が少なすぎる」



 「通信の妨害のことか?」



 「ああ、それだ。他にも上手く言葉にできないところもあるんだが。ひとまずその調査も含め、まずは新開の避難を優先させたい」



 1年前に感じたものと同質の奇妙な不安に囚われていた俺は、赤也の通信妨害の話題に一瞬だけ答えを詰まらせてから返答した。



 もちろん赤也の言うように通信妨害についても調べる必要がある。



 そのためにはまず学園に帰還して東雲と合流し、状況の把握を済ませるべきだ。



 戦場で犯人――この事態の糸を引いている存在の情報が得られなかった分、今は新開の保護と状況の報告、共有を優先すべきだと俺は考える。



 「確かに通信の不具合は危険だよな。その犯人の意図もわかんねーし。バックアップなしの戦闘はヤバい」



 新入生が戦場にいることの危険性は赤也も身に染みて理解している。



 水分を補給したことによって頭も冷えてきたみたいだな。

 


 「でもまだまだ戦えるのは本当だぜ。学園に戻って体を休めたら、予め用意していた予備のカラーコアを補給してすぐに他のやつらの加勢にいくつもりだ」



 ここでいうカラーコアは当人のカラーを希釈して増やしたもののことだ。自身のソウルコアが生み出す純度の高いカラーよりも質が落ちることは否めないのだが、多少のカラーを回復することができるため戦場では重宝する。



 先ほどの戦いでも補給をしながら戦っていたが、CEMの数が想定よりも多かったせいで使い切ってしまったのだろう。



 俺も使い切ってはいないとはいえ余計にカラーを消費させられた。



 学園に戻って補給をしておくべきだな。



 カラードはその性質上カラーが尽きれば戦えない。



 学生の俺たちは軍人ほどカラーを使わない戦い方を熟知して訓練を行なっているわけではないため、多少は動ける程度のお荷物になってしまう。



 ゆえにカラードはカラーを回復させる方法をいくつか用意している。



 これはその中の一つだ。



 「加勢しに行きたいのは山々だが、それは東雲が許可を出してくれるか次第だ。もちろん赤也の気持ちはわかってる。俺からも東雲に提案してみよう」



 俺たちがいくら訓練を重ねても一騎当千とはならない。



 人間には人間の限界がある。



 これは悲観的な意味合いではなく、限界を知っているからこそできることがあるのだと、俺は考えていた。



 己の限界を知り、それを対策して、強みを伸ばす。



 己の原点を意識して、全てを見直し、強みを鍛える。



 それでもダメなら誰かを頼る。



 人と人の繋がりは無限の力を生み出すからだ。



 俺はその力を信じている。




 人が紡ぐ、その力を。




 「ありがとよ透。うっし、そろそろ学園に戻るか!」



 「ああ。早く学園へ――」



 言いかけて目に入った。


 見てしまった。


 認識し、た。



 それはまだぼやけた輪郭で、カラータグの機能で分析したわけでもないのに、俺はそれがなんなのか理解できた。



 いや、違う。



 これは俺だから。



 俺が御園透だからできたことだ。



 ああ、これは運命なのだなと、自分の中に実感が込み上げる。



 1年前に起きたこと。


 1年間考え続けたこと。


 今日1日感じていたこと。





 ――1年前から動き出した運命は、俺を捕まえて離さない。





 赤也のカラーによって作られた炎の壁に穴が開けられた。




 その周囲には蒸気が立ち込めている。




 蒸気が発生しているということは、炎の壁に水がぶつけられたのだ。




 赤也の炎の壁に穴を開けるほどの、大量の水。




 大量の水を操る存在を、俺は知っている。




 温かく湿った空気が不快感を増大させた。




 立ち上る蒸気の中から俺のイメージをそのまま現実に出力した人型の存在が姿を見せる。




 ああ、その姿は。



 

 頭の中に焼き付いたその姿は。




 ヒタヒタと音を立てて近づいてくるソレの正体は。




 ――以前よりも青く、暗く、透き通る色を讃えて。





 「ミsOノkUん――逢Iに、来tAよ」





 運命のあの日から1年後。



 

 ――俺は先輩と再会した。


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