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3章 第9話 極彩色再び

 「おいおい、こいつはなんの冗談だ?」



 そこにいたのは巨大な怪物――そこらの建築物よりも高い二十メートルほどの高さからこちらを見下ろす巨大なミミズだった。



 その巨体は極彩色の色を放っており、いまの今まで気づかなかったのは迷彩のように周囲へと溶け込んでいたからだった。



 こちらの攻撃を受けたことで迷彩が解除されたのか、攻撃のために解除したのかは定かではない。



 しかしここまでの巨体を隠してしまう擬態能力には驚かされる。



 「この大きさ、それにこの色は」



 迷彩が解除されたその全身は現在視認できる状態にあった。



 俺はその巨体を見上げて隅々まで観察する。



 ミミズ型CEM――世界各地で確認されているものは目の前の個体の半分、いや四分の一程度の大きさだったはずだ。



 しかし色が極彩色であることからも通常の個体より強化されている可能性が高い。



 このミミズ型CEMは通常ならば脅威度ランク2に該当する種類だが、大きさと合わせて極彩色を纏う異様さを鑑みればランク3でも上位に入る程度に見積もったほうがいいだろう。



 俺はミミズ型CEMが放つ極彩色に、これが単純な巨大化のみの強化に留まらないと気持ちを引き締めた。



 そして、駆ける。



 「行くぞッ」


 《ブラウン・カラー・チャージ》



 大槌を手に巨大ミミズ型CEMへと迫る。



 擬態能力と炎を噴き出す攻撃方法持つ相手に対しては距離を取るよりも接近して殴り続けるほうがこちらに有利だと判断しての行動だった。



 対するCEMはその巨体を利用して押し潰そうとこちらに向かって直進を開始する。



 ミミズという生物は足を使って移動しているのではない。



 あくまで蠕動運動によって前方に向かって移動しているだけだ。



 つまり――移動速度が遅いのだ。



 それはCEMになっても変わらないようだった。



 通常サイズのミミズ型CEMに比べれば早いのだろうが、カラードの俺からすれば緩慢すぎる動きだ。



 その程度の移動速度ではこちらの攻撃を回避することも巨体を活かして押し潰すことも叶わない。



 俺は目の前のうすのろに対して攻撃をくれてやることにした。



 先制攻撃はあちらに渡してしまったが、ここからはこちらの手番だ。



 好きにやらせてもらうぞ。



 「オーダー・アース・ブレイクッ」



 カラーを込めた大槌による一撃をその巨体にお見舞いする。



 「――ッ!」



 しかしそれは狙い通りの一撃とはならなかった。



 ミミズの体表に張り巡らされた剛毛に接近を阻まれ、敵の前進を押し留めるだけの中途半端な一撃になってしまった。



 巨大なミミズ型CEMの剛毛は硬く、そしてしなやかだった。



 迂闊に接近すればこちらの肉に突き刺ささる硬度を持ちながら、こちらの攻撃の威力を分散させるほどのしなやかさを併せ持つ剛毛、やはりこいつの巨大化はただの巨大化ではない。



 通常サイズのミミズ型CEMでは考えられない剛毛の強化。



 極彩色の起こした変化に俺は歯噛みする。



 そして頭の中で想定していた危険度をさらにもう一段階引き上げ、次の一手を打つ。



 「いかんな……あの剛毛のせいで迂闊に近づけん。ならばまずは動きを封じ、大技を叩き込むとしよう。生半可な攻撃では足元を掬われるッ」



 次の動きを決めた俺を見下ろすように、CEMは先端の口にあたる部分から火を吹き出した。



 獲物に向けて直線的に伸びる炎が俺に迫る。



 俺はそれを横っ飛びで回避して、次なる一撃を叩き込むために大槌を構える。



 攻撃の対象は俺を見下ろすCEMではなく――その巨体が這う地面だ。



 《ブラウン・カラー・チャージ》



 「オーダー・アース・ブレイクッ」



 次なる一撃が地面に叩き込まれる。



 地面は二つに割れ、巨大な裂け目を作った。



 割れた地面はその大口にCEMを引き摺り込む。



 ――狙い通りだ。



 裂け目に引き摺り込まれたことで巨大ミミズの口はあらぬ方向に向けられ、吐き出される炎もまた明後日の方向へと飛んでいった。



 その巨体にとっては狭い裂け目の中でCEMの動きは制限され、こちらに上手く狙いが定められない。



 これでこちらが大技を叩き込むための状況が作り出された。



 「これで、決めるッ」



 俺はCEMが裂け目の中でもがいている間に、その周囲を移動していた。



 先ほど大槌による一撃を与えた箇所の前に移動して、再びその場所に狙いを定める。



 それはこの巨大なCEMに対してダメージを与えるための行動だった。



 まず、この巨大CEMの体に剛毛で覆われていない部分は皆無に等しい。



 遠くからでは視認が難しいが近づくとそのきめ細やかな剛毛が大量に跋扈していることがわかる。



 したがって狙うのは――先ほどの一撃で潰した剛毛、その場所だった。



 剛毛がクッションの役割を果たしたおかげで本体へのダメージは通らなかった。



 しかし先ほどの攻撃で緩衝材とした機能した剛毛は潰れてしまっている。



 潰れている剛毛は緩衝材として機能しない。



 折れ曲がっていることで接近を阻まれることもない。



 同じ場所に連続して攻撃する。



 それがこのCEMに対する戦い方だ。



 「おおおおおおおおおおおおおっ!」



 俺は自分の目論見通りにカラーを込めた大槌による一撃を与えようとした。



 だが――その時、CEMの体表に異変が起こる。



 CEMの潰れた剛毛が抜け落ち、その下から新たな剛毛が生え始めたのだ。



 それは異常な速度で成長する。



 だが俺はすでに攻撃すべき箇所へと肉薄しており、CEMが異常な速度で剛毛を再生させようとも間に合わないという確信があった。



 「その程度では足らんぞ。このまま決めるッ」



 それは恐ろしい再生能力だったが、まだ完全に伸びきっていない剛毛ならばこちらが接近するのに問題はない。多少威力を軽減される可能性はあったが、それを上回る攻撃を加えればいいだけの話だ。



 俺は当初のプラン通り、そのまま大槌による一撃を叩き込む――!



 その時、さらなる異変が起こった。



 その発生源はCEMではない。



 変わったのは世界だった。



 1年前と同じくして、世界は青へと変わる。



 青いフィルターをかけられたように青く染まっていく。



 その青がもたらすもの。



 ――それがCEMに変化を与えることを俺は知っていた。



 「くそっ、これは、この色はっ」



 その青は俺が恐れたままに目の前の巨大ミミズに変化をもたらす。



 周囲の剛毛一本一本が意思を持つようにして、その鋭い先端で大槌を受け止めたのだ。



 「ぐうううう、ぬううううううう」



 一本だけでは硬いだけの毛が、数百数千数万と集まることで異常なほどの耐久力を生み出す。



 俺の一撃は受け止められて、頭上を見上げればCEMの口が俺を見下ろしていた。



 炎がくるのかと防御のために義手を掲げるが、先ほどまでの焼けるような熱はやってこない。



 観察するように怪物の口を注視して見てみれば、極彩色に染められたCEMの体の一部――青色が強く発色していた。



 「なあっ!?」



 俺がその発光に気づいた時には、すでに攻撃が実行されていた。



 その攻撃は俺の展開した防御を貫通する。



 怪物の口から放たれたのは赤い炎ではなかった。



 それは青に染められた水。



 ――水は一点に圧縮された力を持って、俺のカラーによる防御ごと義手を貫いたのだ。



 圧縮されて放たれる水の速度は目で追うのが難しいほどに早く、直線上に放たれる炎の数倍は速い。



 ゆえに回避はできなかった。いや、怪物の攻撃が先ほどと同じ炎だと決めつけていたこと、それこそ俺の油断であり隙を生んでしまったのだろう。



 これは俺が招いた油断の結果だ。



 俺は悔しさを滲ませながら俺自身の手で、それがあった場所に触れる。



 切断されたことで顕になるその中身、機械の腕。



 無骨なその中身はショートしてパチパチと音を鳴らす。



 俺は1年前と同じく、強大な敵を前に片腕を失った。


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