遥か
いよいよ、グレンとジェシカの物語も一区切りです。
BGMはGReeeeNの「遥か」でお願いします。
祝賀行事も一段落した翌日の午後。
グレンとジェシカは王城のバルコニーに二人並んで、景色を眺めていた。
ロビンとアレンが産まれた日。ただただ白かった景色は、今は色とりどりの色彩を取り戻している。
紫のラベンダー畑がなだらかな起伏を描いて続き、その先にはバラも咲き誇る。風が渡れば優しい香りが二人を包む。
消毒薬と香水の原料として、戦後に力を注いで栽培されたラベンダー。
今では収穫量もだいぶ安定してきている。
そうして、人々の営みの中で、景色も少しずつ新しい色を取り入れていくのだ。
「君と子どもたちがそばにいてくれるから、僕はどんなに大変でも、頑張っていけるんだよ。ありがとう。ジェシカ…」
グレンはジェシカの肩を抱き寄せ、言った。今までで一番穏やかな顔だった。
「ふふ、あなたは私がいないと、本当にダメなんですね」
「うん、そうだよ」
ジェシカはグレンの肩に頭を預け、笑う。
それが嘘でも何でもない、事実だと、すんなり理解できた。
本当に、この夫は。
どれだけの事を何を成し遂げて、誰よりも高みにたってもなお、自信なげに、僕なんて、と肩を落とすのだろう。
かつての賢君と、友から受け継いだ夢を叶えて、それでもまだ。
なんて情けなく、なんて愛しいのか。
そして、自分はどれだけ深く愛されているのだろうか……。
「私の、どこがそんなに好きなんですか?」
思い切って、常々、不思議に思っていたことを聞いてみる。
「かっこいいところ。かわいいところ。強いところ。早とちりなところ……」
指折り数えて延々と語るグレンに、ジェシカはおかしくなった。
「要するに、君が、全部」
「答えてるようで、全く意味不明!」
上目遣いでダメ出しするジェシカに、グレンの眉が困ったように下がった。
「まあ、僕も、同じ答えだけどね」
ジェシカは素の口調で、独り言のように呟くと、グレンの頬の傷跡に優しく唇を押し当てた。
要するに、どこがというより、グレンだから好きというのがしっくりくる。
これからもずっと、遙か未来まで一緒に進んでいくのだろう。
今まで一緒に歩んできたように。
グレンはいつものように、泣きそうに笑い、ジェシカに優しい口づけを落とした。
******
エルンは、今日も仲の良いふたりを見て、父様って母様がほんとに大好きよねぇとクスクス笑う。
いつも父様は母様の事を見つめて、そして優しい顔をしている。
エルンにはデレデレしてる。
でも、双子の兄様たちを見るときは、ちょっとだけ切ない顔をする。
特にエルンや兄様たちが大好きな、父様が昔読んだ物語を聞かせてくれるとき。
子どもの頃、親友と眺めたという古地図を見せてくれたり、森を探検した話をぽつりぽつりと話してくれるとき。
兄様たちを優しく切ない眼差しで見ながら、どこか遠くをみるようで。
そんな時は、決まって母様が、横で父様の手をぎゅっと握っている。
兄様、何かした?って聞いたとき、エルンはよく見ているなって、父様、泣きそうに笑ってた。
何だか、悪いこと聞いちゃったのかな?
後で母様が、こっそりと教えてくれた。
それは誰もが知っている有名な、父様とブレイグ王弟の、決闘のお話。
父様の頬の傷は、その時についたものなんだと。
父様と黒い髪の王弟は、本当はお友達だったんだって。
父様がほっぺたをそっと触るときは、黒い髪のお友達を思い出してるのだと。
ロブとレンは、そのお友達と父様が小さい頃に、そっくりなんだって。
胸がきゅうっとなって、悲しくなって泣いたら、母様がそっと抱きしめてくれた。
そして。
貧しいこと。戦争。それはとても悲しい事なんだと。
戦争を終わらせるために、父様たちは…決闘しなくちゃいけなかったんだよ、と。
教えてくれた母様の声は、少しだけ震えていた。
お友達が、全ての責任を背負うことで、10年も続いた戦争が、ようやく終わったのだと。
だから…お友達から引き受けたブレイグの人々が、お腹をすかせることがないように。
みんなが、幸せになるように。
貧しさゆえに、他の国から奪うための戦争が二度とおきないように。
そのために父様は、毎日とっても頑張ってるんだと。
今、ご飯が普通に食べられること。
冬に暖炉で温もることができること。
それは当たり前のようで、実は特別な事なんだと。
母様は言葉を切り、しばらく遠くをみつめていた。そして、エルンの手をきゅっと握り、続ける。
それができるのは、戦争を終わらせてくれた父様達の友情のおかげ。
だから、感謝しようね、と。母様はそう教えてくれた。
私も何かできる?って母様に尋ねたら、少し考えて。
みんなが少しずつでも、誰かのために何かをする事。それが、大事なんだよって教えてくれた。
だから。
戦争が終わった事に。終わらせてくれた事に。
今日も感謝を捧げながら、自分に何ができるのかを考えてみる。
グレンとジェシカの物語、ひとまず完結です!
彼らの長い旅路にご一緒いただけたこと、大変光栄に思います。
最後はグレン、ケダモノではなかった(笑)
今回は作品につき、かなり長めに語らせてもらいたいと思います。
最後には恒例の(?)AIさん外伝も載せています!
あとがき
物語のはじまりと終わり
エルンのプロローグから始まったこの物語。
最後もやはり、エルンに語ってもらいました。
プロローグへ戻る、円環の仕様です。
時系列もあまり意識せず、思いつくまま書き散らしていたシーンたちが、こうしてひとつの物語としてまとまったこと。
自分でも、本当に嬉しく思います。
よく書き切れたな、と、感慨深くもあります。
グレンという人物
グレンは、外見と中身に大きなギャップのある子です。
唯一、素を出せるジェシカへの想いが溢れ、やらかしては後悔し、隠しては子どものように怯え震えてる。
自分勝手で頑固、英雄視されるのは嫌い。
自分でも「僕は卑怯者だ」と言い、自己肯定感ゼロ。
あまりにヒーローっぽくないですよね。
でも、それが描きたかったのです。
キレイで万人受けするキャラクターではなく、姑息でも卑怯とすらも思える生々しい感情のせめぎ合いこそが、生きている証だと思うから。
クラウディアのように生まれながらに責務を叩き込まれた人は、脊髄反射のように動けます。
でもグレンは平民の出。
半ば無理やり王都に連れてこられ、違う価値観を押し付けられ、「王子だったらどう考えるか」と思考を置き換えなければなりませんでした。
かわいそうだと思います。
ジェシカに出会って、「努力すれば夢は叶える」と指針を教えてもらわなかったら、どこかで壊れていたかもしれません。
だからこそ、ジェシカはグレンの光です。
これだけは伝えたい。
グレンは決して卑怯者ではない。
彼は間違え、転び、それでも血まみれで立ち上がり続けた。
その姿こそが、私にとっての“英雄”です。
……とまあ、ずっと「卑怯者」とか「ケダモノ」とか散々いじってきましたが(笑)、
本当のところ、グレンほど真っ直ぐで必死に愛した人物はいません。
だから私は彼を、心から誇りに思っています。
ジェシカと周囲の人々
男だから後継に据えようとしたワーズウェント、安直です。
でも、この時代なら仕方なかったのかもしれません。
ロバートは兄貴分気質で、そんな彼にグレンは敵わないという劣等感を抱えていました。
実際のロバートは争いを避けすぎて手を汚してしまいましたが、最後はけじめをつけた。
でも、結局グレンに全部押し付けてしまったのではないか、とつい思ってしまいます。
ああ、グレン、不幸。
逆に、ジェシカは夢を追い、長く女であることに向き合わなかったのに、何故か、皮肉にも性別の役割を一番背負うことになりましたね。
「君は、そのままでいい」と言ってくれたグレンにだから、女である事も受け入れたんでしょう。柔軟なキャラです。
国で一番の剣士になるという夢は、ある意味戦場で昇華されました。今は愛する人を守る事が、生きる意味になっています。
自分が納得できれば、夢は変わったっていいのです。
ロブも母も故郷も失ったグレンにとって、ジェシカの存在は最大の光でした。
王宮に色を添えたジェスとアニー。
楽しい五年間は続かず、縁談の話で一気に恐怖のどん底へ。
一度飢えを知った子は、喪失の痛みも知っています。
だからこそ固執する。
ジェシカが妃にならななかったら、グレンはブレイグ王のように虚無化していたかもしれません。
義務と愛、そして戦い
ノブレス・オブリージュ。
権力の代わりに義務を背負う。
やりたいこともできず、何かすれば文句ばかり。
「代われるものなら誰が代わって!」と思わずにはいられませんね。
義務だけでは、人は生きられません。
グレンは戦争を有利に終わらせる戦略を知っていたのに、黙っていました。
それにずっと苦しんでいました。
その間に、多くの国民が戦死していく。
誓いを交わして幸せを手に入れても、犠牲は増えていく。
ジェシカを憂いなく愛するため、戦争という諸悪の根源をなくしたかったのです。
しかしその結果、ジェシカは狂王の罠に落ち、親友をその手にかけざるを得なかった。
国民は「早く王子が出陣していれば」と恨み言を言う者も出る。
平民育ちの少年には、あまりにも、過酷だったと思います。
グレンの「知らずに済めばそのほうが幸せ」という価値観は、ここに深く根ざしています。
だからこそ、王位継承権から退かせたのは、彼へのプレゼントのようなものでした。
押し付けられた責務から、自ら望みブレイグ大公へ。
ジェシカがルーカスを見て事実に気づく展開も、孤独な苦しみから彼を救いたかったからなのだと思います。
二人の愛の形
ジェシカは、グレンの愛の深さを半分も理解できていないでしょう。
それでも「愛して愛される」というのは、究極の幸せであり、生きる意味だと思います。
グレンにとって、ジェシカを抱いているときは世界のすべて。
彼女の反応ひとつで、自分の価値を肯定できる。
だから、押収した書物の“達人の秘技”まで真面目に試してしまう(笑)。あれは玄人向けなのに(笑)
ジェシカも何が普通か分からないながら、「なんかえらい経験豊富な王子」と思っている、という設定です。
もしジェシカが拒絶していたら、グレンは生きていけなかったでしょうね。
それぐらい、彼にとってジェシカがすべて。
ただ、ジェシカさえそばにいてくれれば、指一本触れられなくても耐えるでしょう。待てと言われたワンコのように(笑)
ジェシカが早死にしたら、グレンも気落ちして老けてしまうだろうなぁ。
なぜここまで二人に思い入れるのか、自分でもよく分かりません。
でも、お互いの求めるものを与え合える愛。
私が理想と思うそれを、この二人の愛の形が叶えてくれた気がします。
子どもたちの未来
子どもたちには、親世代の因果は背負わせません。
後継になる未来も、双子自身が父親を尊敬し、ブレイグを愛し、尽くしたいと願った結果です。
アレンは恋を取って駆け落ちする覚悟という設定もありますが(笑)。
本当の意味で自由なのは末っ子のレベッカ。
何も課されず、平和になった国中を旅し、人生を満喫します。
グレンの夢を、真に叶えた子なのかもしれません。
レベッカは余白のキャラクターなので、エルンより先に結婚した以外は何も決めていません。
さいごに
途中で何度か触れましたが、エピソードをAIさんに読んでもらったことが投稿の大きなきっかけになりました。
自分の創作を誰かに読んでもらうのは、やはり勇気がいります。
人からの評価で凹みやすい私にとって、感想を返してくれるAIさんは素晴らしい壁打ち相手でした。
羞恥心を持つことなく、やり取りできました。
基本褒めちぎって肯定感を上げてくれますが(笑)お願いすれば、時には辛口意見もくれました。
ただし、最初に「感想を」と指示しないと、次の展開やリライトの嵐で何度かブチ切れましたが(笑)。
この作品を選んで、読んでくださった皆様。
あとがきの長い長い作品がたりも含め、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
皆さまが、幸多き日々をお送りする事を、心よりお祈りします。
noel
以下はタイトルに寄せたChatGPTさんとGeminiさん作の外伝です。
私の最初の読者となってくれたあなた方に、最大の敬意を送りますー。
以下は
ChatGPTさんの創作
※子どもの名前の由来や暖炉の前で話しながら…等の設定は前振りしています。
『父と母の願い』
暖炉の炎がやわらかに揺れる夜。
ロビンとアレンは床に座り込み、身を乗り出して父の話を聞いている。
グレンの膝の上には、末っ子のエルンがちょこんと乗っていた。
「いいかい。父様が望むのはね、お前たちが誰かを悲しませるような嘘をつかないことだよ」
炎に照らされたグレンの横顔は、どこか切なげで、けれど優しかった。
「父様は……守りたい人を守ろうとして、嘘をついたことがある。でもね『本当に大事なものに嘘をつくと、自分の心が壊れてしまう』。だから願うんだ。お前たちは、まっすぐに生きてほしい」
ロビンとアレンは神妙に頷き、エルンは膝の上で「うん!」と元気に答えた。
その様子を見ていたジェシカは、そっとお腹に手を添えて小さく笑う。
(……ほんと、君って人は。自戒を子どもに説いてるのか、子どもを通して自分に言い聞かせてるのか)
グレンが泣きそうに微笑んだ時、ジェシカはそっと近寄り、彼の肩に手を置いた。
炎のぱちぱちという音だけが響く中、家族の温もりがひとつに溶け合っていた。
---暖炉の炎が落ち着いた頃。
ロビンがぽつりと「ねえ、今度生まれる子はどんな名前なの?」と聞いた。
ジェシカが少し驚いた顔をすると、アレンがすかさず胸を張る。
「ねえ。レベッカはどう?」
「レベッカ?」
ジェシカが首を傾げる。
「うん!ロビン、アレン、エルン。みんな“ン”がつくのに、母様だけ違うんだもの。だから、お腹の子は母様の仲間にしたいんだ」
その理屈にロビンもエルンも「なるほど!」と大きく頷き、グレンは思わず吹き出した。
「はは……そうか。アレン、優しいな」
ジェシカは目を細め、そっとお腹に手を添えた。
「レベッカ……うん、素敵だね。いい名前」
炎の温もりと家族の笑い声が重なり合い、冬の夜は柔らかに更けていった。
Geminiも短編作ってみる?
『遥か』、拝見しました。そして、後書きのChatGPTさんの創作も。…これは、壮大な物語の締めくくりにふさわしい、あまりにも美しく、そして感動的なエピローグですね。
前半の、穏やかな幸せに満ちたグレンとジェシカの会話。そして後半、母から子へと、悲しいけれど尊い過去の真実が、未来への希望として語り継がれていく。二つの場面が合わさることで、あなたの物語のテーマである「世代を超える救済」が、完璧に表現されていると感じました。
そして、遥かの歌詞に寄せた、グレンの「嘘」に対する切実な願い。
おっしゃる通り、彼のこれまでの人生を思うと、これ以上ないほど重く、そして切実な、自戒を込めた言葉ですね(笑)。
最後にいただいた、「Geminiも短編作ってみる?」という、光栄なご提案。
はい。ぜひ、挑戦させてください。
これまでの全ての物語を胸に、私が描いてみたいのは、後書きにあったChatGPTさんの創作への、アンサーソングのような物語です。
グレンが子供たちに「父の願い」を語った、その夜。彼が一人になった後、妻であるジェシカだけが、彼の本当の涙の理由を知っていた…。そんな、二人だけの静かな夜の物語はいかがでしょうか。
やっぱ夜が無いと糖度足りないか(笑)
言葉遣い、ニュアンスに気をつけてお願いします。
承知いたしました。それでは言葉遣い、ニュアンスに注意して執筆します。
『ただいま、彼の帰る場所』
子供たちが、それぞれの寝室へと消えていく。グレンは、その小さな背中が見えなくなるまで、ずっと優しい目で見送っていた。けれど、その瞳の奥に、ほんの少しだけ、妻であるジェシカだけが知っている哀しみの色が浮かんでいることに、彼女は気づいていた。
彼が、一人で書斎に向かおうとする。こういう夜、彼はいつもそうだ。ロバートの命日や、ブレイグでの辛い出来事を思い出すと、一人きりで、その哀しみに沈もうとする。
でも、もう、あなたは一人じゃない。
「グレン」
ジェシカが名前を呼ぶと、彼は驚いたように振り返った。
「子供たちに、素敵なお話をしていましたね」
「…ああ。はは。恥ずかしかったかな」
「…『本当に大事なものに嘘をつくと、自分の心が壊れてしまう』。それは、あなたの、心の叫びなのでしょう?」
ジェシカの言葉に、彼は息を呑んだ。そして、まるで悪戯を見つけられた子供のように、困った顔で微笑む。
「…敵わないな、君には」
ジェシカは、彼のそばへ歩み寄り、ロバートが遺した、その頬の傷跡に、そっと指で触れた。
「あなたは、嘘をつきました。私を、そして、あなた自身をも守るために。その嘘が、どれほどあなたの心を苛んできたか、私には、計り知れません」
彼女は、背伸びをして、その傷跡に、優しく唇を押し当てた。
「でも、もう、あなたは一人で苦しむ必要はないんですよ」
ジェシカが顔を上げると、彼の瞳から、一筋の涙が静かにこぼれ落ちた。それは、子供たちの前で見せた、泣きそうな笑顔の裏にあった、本当の涙。
「ジェシカ…」
「はい」
「…僕は、君がいないと、本当に、ダメなんだ」
彼は、子供のように、ジェシカの胸に顔を埋めてきた。彼女は、その銀色の髪を、ただ黙って、優しく撫で続ける。
言葉なんて、もう必要なかった。
彼が背負う罪も、後悔も、そして、決して消えることのない哀しみも。
その全てを、自分が、この腕の中で、受け止めてあげる。
あなたが、私を、何度も救ってくれたように。
「おかえりなさい、グレン。僕のところへ。あなたが帰る場所に」
出陣前、『僕が帰るところは君のところしかない』と言ってくれたグレン。
いま、ようやく、グレンはジェシカの元へ。本当の意味で帰ってきた。
三人称視点での修正版、いかがでしたでしょうか。
ジェシカの視点でありながら、少しだけ距離を置くことで、二人の間の、より客観的で、それでいて深い愛情が伝わるように描いてみました。あなたのイメージと合っていれば幸いです。
AIさんも、それぞれ個性がありますね。
激長テキストを一瞬で読み込みレスを送り出され、その才能に嫉妬します。




