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共感、そして…黎明

ついにご対面


 第二王妃に会わせてほしい…

 何の隠し事もなくなったいま、差し支えないだろうとグレンに訴えた結果、ジェシカが第二王妃が現在住んでいる家へ訪問する形で許可された。


「ごきげんよう。大公妃殿下。エリザベスです。お会いできて光栄ですわ。いつぞやはわたくしの愚行を止めて下さり、ありがとうごさいました」


 第二王妃はジェシカに深々と頭を下げた。

 敗戦の責を取り、死を願い出たことを言っているのだろう。

 あの時とは違い、自分は男装していなかったが、あれが当時王子妃妃であった自分だと気がついているようだった。

 長かった髪は短くなり、だいぶ印象が変わっていた。

 穏やかに対応する姿はあの取り乱していた姿からとはかけ離れていた。


「いえ、無理に面会していただいて申し訳ありません。第二王妃………」


「よろしければ、リーザと呼んでいただけませんか?ロバートにもそう呼んでもらっていました。第二王妃が生きていてはいけませんから。今は別の名を名乗っていますが、今日は、懐かしいこの名前で呼んでいただけますと幸いです」


 王弟の名前が出てジェシカは複雑な思いを感じた。


「そうですね。ではリーザ。あなたのお子様についてお尋ねしたいのです」


 回りくどい説明は不要だ。要件だけを聞こう、とジェシカは本題を切り出す。


「はい。なんでしょう?」


 リーザはさして気を悪くした様子もなく答えた。


「あなたのお子様はブレイグ王の子ではなく、その…」


 いざ聞くとなると、言葉が詰まる…。

 ジェシカは言葉を選びながら慎重に尋ねる。


「ロバートの子です。王の子ではありません」


 リーザは穏やかにまっすぐとジェシカに告げた。


「やはり、そうなんですね。先日グレンから聞いてはいましたが…」


「王が死に、ロバートはわたくしに会いに来てくれました。そのときに授かったようです。あの時はわたくしを止めて下さり本当に感謝しています」


 リーザは慈愛に満ちた眼差しで微笑んだ。


「私の第一子、ロビンがあなたの子に似ているのです」


 ジェシカは思い切って言葉を紡ぐ。


「……………」


「私はブレイグとの戦闘で捕虜となり、王城へ連れて行かれました。王とも面会しました。けれど、気がつくと王城の隠し通路にいました。目隠しをされていたのも覚えています。どうやら薬を盛られたらしく…」  


 言い淀んで、少し間をおいてつづける。  


「ずっと不思議に思っていました。ロビンは目の色が私と同じ以外には、私たちにまるで似ていないのです。双子の第二子アレンはグレンそっくりなのに……。でもあなたの子に会って確信しました。だから、グレンを問い詰め、本当の事を聞きました」


「本当の事………」


 リーザは静かにジェシカを見つめていた。それで、理解した。彼女も、真実を知っていると。


「王弟が私の事を…その…」


「ロバートから聞いていました。だからそれ以上は大丈夫です。ロバートが亡くなった日に大公殿下ともお話したことです。大公殿下がおっしゃれたわけではなく……会話の中でわたくしが気がついた事を察せらたのです」


 言い淀むジェシカに、リーザは首を横に振り、優しく言葉を引き取った。


「わたくしが、そのときにお願いしてしまったのです。一度だけお子様にお会いしたいと。大公殿下は応じてくださいました。それで。この前ロバートのお墓の前でお子様方にお会いしたのです。妃殿下にはくれぐれも事実は伏せてほしいということを念を押されて…」


 リーザは伏し目がちに続けた。


「私のわがままのせいで、知らずに済んだことを……本当に申し訳ありませんでした」


 リーザは涙をこぼし、また深々と頭を下げた。

 ジェシカはそんなリーザをしばし見つめていた。

 そして、大きく深呼吸し、深く息を吐ききると、長年の苦悩を吐露した。


「私は…もしやあの狂気の王の子を身ごもったのかとも思い、ずっと悩んでいました。長年の疑問が解消し、複雑ですが、ほっとしています」


「妃殿下…」


「元はと言えば、自分の不覚が招いたこと。王弟も私だと知っていれば拒否した事でしょう。自警団でお会いした彼は、とても優しい人でしたから…」


 ジェシカはリーザの手を両手でそっと包みこんだ。


「今は…受け入れています。ロビンは私の子であることには違いありませんし…」


「妃殿下、大公殿下はあの時、妃殿下にお子様が産まれても間違いなく自分の子だと、おっしゃっていました。事実を伏せられたのは妃殿下を思っての事だと思います……」


 リーザはジェシカの手にさらに手を重ねる。重なる手が温かい。


「ええ、そうだと思います。私のためを思ってだったと…。今ではよくわかってはいるのですが、ロビンがあまりにもグレンと似ていなくて、ずっと腑に落ちなかったのです。王弟に似ている事も…」


「私の子よりも似ていると思います。本当に…あの人に、そっくりで……」


 リーザは顔をクシャリと歪ませ、そして微笑んだ。


「妃殿下、感謝いたします。ロバートの生きた証を受け入れて下さって…」


 リーザのその複雑な表情は、ロバートへの深い愛ゆえなのだと…ジェシカには感じられた。


「グレンは…双子に一緒にブレイグの統治を任せたいと言っています。自分たちの夢を託したいと…グレンと王弟の夢はブレイグを豊かにする事だったそうです」


「既にその夢は叶っていると思いますが…そうなったら本当に素敵ですね……。ブレイグという国の形は無くなりましたが、冬の凍死者が激減した事、医療分野に力を入れていらっしゃること。素晴らしい事だと思います」


 リーザは穏やかに微笑む。


「施策は、ブレイク王がもともと提案していたものだそうですよ。費用面や諸侯の反対で実現できなかったそうですが…」


「まぁ…、そう、だったのですね…。確かに王は以前は改革派だったと聞きました。人が変わられる前は……それは聡明な方だったと。けれど成し遂げられたのは、大公殿下でいらっしゃいます。誇るべきことですわ」


 ジェシカも、そう思っている。

 考える事よりも、それを実現する事こそが本当に大変なのだと。

 それを、あの夫はウジウジと……!!!


「ありがとうございます。リーザ。あなたとお話し出来て、本当によかった」


 ジェシカはリーザに礼を述べた。

 ブレイグ戦乱に運命を翻弄された者同士、なんとも言えない絆を感じた。

 そう、息子同士は兄弟なのだ。

 それを息子に知らせる日はきっと来ないけれど。


「私も、感謝いたします。妃殿下。どうぞこれからは、健やかにお過ごしくださいませ」


 リーザの慈愛の微笑みに、ジェシカもようやく心の底のわだかまりがすべて解け、微笑み返した。




 その後、リーザとその息子とは、特段の交友は持たなかった。

 別々の人生を歩んでいるのだ。

 それぞれが精一杯に生きればいい。

 そう思っていたが。


 兄妹のうち、仕事に研究にと明け暮れ、最後まで伴侶を持たなかった娘エルンが、遅まきながら結婚の報告に来た。

 連れてきた相手は、なんとリーザの息子だった。

 そんな事があるのだろうかと驚いた。

 これでロビンとルーカスは本当に兄弟と呼べる仲になったのだ。


 人生は奇跡の連続だな。

 ジェシカはグレンと顔を見合わせ苦笑した。

 






 表裏のヒロイン、感想戦です。

 関係性で言ったらかなりアレですが。

 あれ、ロバートを巡る話みたいになっててグレン蚊帳の外じゃないか(笑)

 ここで終わりにしたらグレンがあまりにも不憫すぎかしら?


 タイトルは元々は共感だったのですが、改題。

 グレンとロバートの決着の物語、「陥落、そして…喪失」と対を成します。

 ジェシカとリーザの語らいから未来への希望を込めて「共感、そして…黎明」。

 黎明は夜明けを指す言葉。美しい響きですね。


 エルンはずっと仕事と研究に没頭していましたが、その横には常にルーカスの姿がありました。

 エルンにとってロビンにどこか似た顔立ちの彼と過ごすのは、当たり前の日常となっていました。

 ルーカスはエルンがリーザの命を救った日から尊敬と信頼を寄せていました。 

 兄たちがさっさと結婚、妹にも先を越されましたが、エルンもようやく腰を落ち着ける事になります。どちらにしても一緒にいるんだから、結婚してもなにも変わらないわ、と。

 出産で少し仕事を休みましたが、子どもたちの面倒はルーカスが一手に引き受け、エルンは大好きな仕事に一生を捧げました。医療分野の発展に著しく貢献し、後の世まで名前が語られています。

 リーザはいつも微笑んで二人を、子どもたちを見守っていました。時折愛おしそうに空を眺めて…。

 


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