即位と叙爵
クラウディアの即位と、グレンの大公位叙爵です。
ブレイグ戦乱終戦10年の節目に合わせ、ワーズウェントの王都リバースでは、クラウディアの女王即位式とグレンの王位継承権返上に伴う大公位叙爵式が同時に行われる事となった。
ブレイグの地名は改めてはどうかとの意見もあったが、そのままで良いとの王子改め大公の意向のため、グレン・ブレイグ大公を名乗ることとなった。
「本当に頑固なんだから……。おかげで私が王様やらなきゃいけなくなったじゃないの。この貸しは高いわよ」
クラウディアは即位式前の礼拝堂の控室でグレンに恨み言をぶつけた。
しかしその顔は吹っ切れたように明るい。覚悟が決まったのだろう。
白いローブドレスには銀糸の刺繍とルビーの装飾があり威風堂々とした威厳にあふれた姿だった。
「我儘を聞いてくださり、本当に感謝しています。姉上。いえ、女王陛下。これより先はこのグレン・ブレイグ、身命を賭し、ブレイグを治め、ワーズウェントとの永遠の友好のために、この身を捧げることを固く誓います」
グレンはグラウディアに、このあと叙爵の儀で捧げる予定の言葉とともに、片膝をつき深く頭を垂れた。
ジェシカと3人の子どもたちもそれにならう。
「ふふ、言ったわね。しっかり働いてもらうから覚悟しなさい」
クラウディアは優雅に微笑み、その手ををグレンの肩に置く。
「グレン・ワーズウェント。本日これより、そなたをブレイグ大公に叙する。民を慈しみ、良き統治者となることを期待する」
これまた、後ほど儀礼の際に行われる口上だった。
「いっやあああんっ、クラウディアお姉さまっ!素敵いぃ!!最高っ!愛してるっ!」
クラウディアの後ろで、王配となるアンソニーが歓声を上げる。クラウディアと対になる刺繍と宝石があしらわれた立派な王配の姿でキャピキャピ騒いでいる。
クラウディアとアンソニーの年子の王子、アーサーとカインはそんな父の様子に動じる様子もない。いつもの事なのだろう。
相変わらずの兄の様子にジェシカはくすくす笑った。ずっと会ってなかったのが、嘘みたいにそのまんまだ。
グレンとジェシカの子ども達、ロビン、アレン、エルンは、母と同じ顔をした叔父のはじけっぷりにポカーンとしていた。
「アンソニー、相変わらずだね。王配殿下になられるのに、そんなんでいいの?」
ジェシカは自由すぎる兄にツッコミを入れた。
「あらあ、大公妃殿下。私は今でも社交界を一気に引き受けてるのよ?このまんまで!誰も文句なんて言わないわよ?」
アンソニーはパチンと片目を瞑ってにんまり笑う。
まぁ、言えないんだろうな。
ジェシカは振り回されてる社交界を想像し楽しくなった。
実に10年ぶりの帰国で、何もかもが懐かしい。
窓から見えるあの湖も、素晴らしい快晴の青空の下、キラキラと煌めいていた。
「母様、あれが、星の湖?」
アレンがジェシカのドレスの裾をツンツンと引っ張った。
王都リバースに伝わる伝承は小さい頃から聞かせていた。昔から物語が大好きなアレンは、実物を見てそれは感動していた。
「そうだよ。ほら、まんまるでしょう?星が落ちてきて、大きな穴が出来て、そして水が湧き出してきたんだよ」
「星の贈り物…ダイヤモンドがたくさん採れたんだよね!?」
アレンは興奮気味に言った。
「そうだよ。あとからクラウディア様が被られる宝冠にもたくさん使われているから見ててごらん」
アレンはほっぺたをピンクに上気させ、キラキラした目で歓声をあげた。
「湖は、すぐ深くなってるから気をつけないといけないよ。母様は昔、あそこで溺れかけたんだ」
グレンがジェシカの黒歴史を持ち出し子供たちに注意を促す。
「それを父様が助けたんだよな?カッケーな!」
「かあさま、気をつけなきゃ。あぶなーい」
ロビンがカラカラ笑い、エルンにたしなめられる。
グレンとの懐かしい再会は、そんなハプニングだったなぁ。
ジェシカは苦笑いしながら子どもたちに応じた。
そして、礼拝堂から式典開始の壮麗な音楽が聞こえてきた。
「さぁ、もうすぐ式典が始まるよ。みんなお利口にして、父様の晴れ姿を見届けようね」
ジェシカは子どもたちの肩に手を置き、礼拝堂へと促した。
礼拝堂の祭壇にはステンドグラスの光が降り注ぎ、聖女キャロラインの像が、慈愛のほほ笑みで皆を見下ろしている。
各国の参列者が見守る厳粛な雰囲気の中、まずはクラウディアとアンソニーが父王の前に進み出で跪き、宝冠と王笏を譲り受けた。
続いてクラウディアが即位の口上を厳かに告げた。
「我がワーズウェントの民、そしてこの地に生きる全ての命に対し、平和と繁栄を約束する。聖女の加護のもと、この国を導き、未来へと繋ぐことを誓う」
王笏を掲げ高らかに宣言するクラウディアに、参列者より歓声と喝采が鳴り響く。
続いて、グレンの王位継承権返上と大公叙爵がクラウディアより言い渡された。
「お前の選んだ道だ。ならば、ワーズウェントの王として、その決意を承認しよう」
そして、クラウディアは王笏をグレンの肩に当て、控えの間での誓いと口上が再び繰り返された。
先ほどの親愛がこもったやり取りとは異なり、厳粛な空気が場を支配した。
こうしてグレンは、ようやく、長年の憂いから解放される事となった。
そして、親友と同じ名を背負うことに、不思議な気持ちがしていた。
懐かしの面々勢揃いです。
ロイヤルファミリーの和気あいあいとした様子と厳粛な儀礼をお送りします。




