帰郷
里帰り、親戚顔見せ巡りは一大イベントです
もうすぐ、ブレイグ戦乱より、10年の節目を迎える。
それに合わせ、クラウディアが女王に即位すると共に、ついにグレンが王位継承権を返上し、大公位を賜ることとなった。
叙爵に伴う式典のため、家族そろって王都リバースへ向かった。
グレンは何度か帰国していたが、ジェシカにとっては実に10年ぶりのワーズウェントへの帰国だ。
子どもたちも初めての長い旅に大興奮だった。
まずは孫の顔見せも兼ね、オニクセルに入港し、侯爵邸へ滞在する。
ここはジェシカとアンソニーが16歳まで暮らしていた屋敷だ。
小さいころの思い出が色々蘇ってくる。
「おお!殿下、お久しゅうございますな!お前たち、よく来た!」
オニクセル侯爵は破顔し一行を迎えてくれた。双子が産まれたときにブレイグへ来てくれた事があったが、それ以来になので子どもたちはほぼ初対面だ。
「おじいさま?はじめまして。エルンです」
真っ先にエルンがスカートを摘んでお辞儀をする。
5歳になったばかりだが、完璧な立ち居振る舞いだ。ピンクのパフスリーブのワンピースが最高に似合ってる。
礼儀作法はジェシカに任せていたらおしまいだとキャロラインが引き受け、丁寧に教えてくれていた。正論すぎる。今日のおしゃまな淑女ぶりに感謝感激だ。
ああ、グレンがまた顔が緩んでるな…。
ジェシカはこっそり苦笑した。
「お爺様、お初にお目にかかります。アレンです。お会いできてとても嬉しいです」
エルンに続き、アレンもお辞儀をする。
グレンに似た端正な顔立ちで、一見すると美少女と見まごう愛らしさだ。
少し引っ込み思案だが、勉強熱心で剣技も要領よくこなし、品格もある。
完璧な王子様との呼び声も高かった。
「爺様、はじめまして!俺はロビン!ずっと会ってみたかったんだ。嬉しいよ!よろしくな!」
ロビンは…まあ、とにかく明るく元気いっぱいだ。
オニクセル侯爵はロビンの挨拶に一瞬ポカンとしたが、そのあと大笑いし、ロビンの頭をワシワシなでた。そのあともちろんアレンとエルンの頭も。
「そうか、儂に会いたかったか。それは嬉しいな。今日は、みなゆっくりして行け!」
……さすがロビン。
壊滅的な挨拶で、一発でこの狸おやじの心を掴むとは…。
ロビンを見てると、人には努力ではどうにもならない何かがあるのだな、とつくづく思う。いったい、誰に似たのやら。
子どもたちは歓声を上げ、侯爵に纏わりついている。
ああ、あなたもか、父よ。
賑やかな子どもたちをデレデレと見る侯爵の顔は威厳など微塵もない爺バカだ。
侯爵は屋敷を案内してやると、子供たちを引き連れぞろぞろ出ていった。
急に部屋がシンと静まりかえる。
振り返れば、穏やかに微笑むグレンと目が合った。
「ここ、僕が初めてワーズウェントに来たときに泊まった部屋だ…懐かしい。見るものみんな珍しくてね。マーカスに部屋にいるよう言われていたのに、こっそりと抜け出したんだ。そこで、君と会ったんだよ」
感慨深げに部屋を見回すグレンに、ジェシカも懐かしさが込み上げてきた。
ワーズウェントの王城に比べれば、田舎の屋敷にしか過ぎないのだけれど、当時のグレンからすれば別世界のようにキラキラしていたそうだ。
そして、二人で庭園や厩を覗き、馬を借りて港を一望する高台まで向かった。
時間があの日に戻ったかのようだった。
あの出会いからなんと色々あった事か。
ジェシカは今までの長い日々を感慨深く振り返った。
エピローグ後の時代まで来ました




