エルンの功罪
だいたいの父親は娘に弱い
「とーしゃぁ!だっこ!!」
ようやくよちよちと歩き始めたエルンは、執務の合間に顔を出したグレンに天使のような笑顔を向け、抱っこして、と両手を広げた。
「!!!エルンっ!!!」
グレンはデレデレと娘を抱き上げた。ああ、顔が緩みきっている。
エルンがきゃっきゃと笑い、グレンの髪をぐいんぐいん引っ張る。
「こらこら。めんめだぞー。父様あいてててだぞぉ」
「めんめぇ?めんめー!」
きゃっきゃと笑うエルンは、たぶん理解していない。
どう見ても、父が喜んでいるようにしか見えないのだろう。
あーあ。親バカだなぁ……。
ジェシカはグレンとエルンの様子に苦笑した。
双子のときはここまで崩れなかったのに。女の子だからかな?
ただまぁ、確かにエルンは愛らしい。
柔らかく、軽く、小さな手足がムチムチして、ほっぺはプックリしている。
小さい子っていうものは、いるだけでじんわりと心が温かくなるのだ。
グレンでひと通り遊んで飽きたのか、エルンはキョロキョロとあたりを見回り、ジェシカと目が合う。途端ににそわそわしだした。
「ふぇっ……かーしゃぁっ!!」
「エ、エルン!?どうした!父様じゃだめなのか!?」
うろたえるグレンに、エルンはますます号泣する。
「うぇええええんっっ!!!」
やれやれ…。
どうやってグレンの自尊心を傷つけないよう、エルンを引き取るか…。
ジェシカが超難解ミッションに思慮していると…。
「うわっ!父様、またエルを泣かせやがった!だめだなぁ!」
「父様、あんまりしつこくすると嫌われちゃうよー?エルン、兄様たちと一緒に遊ぼう。ほら、絵本読んであげるよ!」
双子のロビンとアレンがグレンに容赦なく突っ込んだ。
「にぃにぃ…!やぁ!おろちて!おろちてぇ!」
エルンは兄たちを見つけると、大慌てでグレンの手から逃れようと暴れ出した。
グレン、悲壮な顔をして涙目だ。
渋々エルンを降ろしてやると、エルンはいそいそと兄たちに手を広げ、よち、よち
と歩き出した。
必死にバランスを取り、ゆっくり兄まで歩みより向かう姿に、みんな息を飲んで見守る。
「がんばれ…もう少し…っ」
「うっ、うっ!」
「おおーっ着いた!すげえぞエル!」
兄たちのところまで手をつかず歩いた!
そこで一度ペタンとおしりをついたが、エルンはキャーっと誇らしげに笑った。
12歩!最長記録だ
その後は兄たちが両側からエルンの手をつなぎ、廊下への大冒険へ飛び出して行った。
「階段の方に行っちゃだめだからね!」
ジェシカが双子に声をかけ注意すると、双子からわかってるって!と返事が返ってきた。エルンも、うーっと何か叫んだ。
部屋に残されたのはグレンとジェシカだ。
急に静まり返った部屋にポツンと立ち尽くしている。
「………4番目」
グレンがポツリとつぶやいた。
「何がです?」
唐突な呟きに、ジェシカがキョトンとして聞き返した。
「僕の序列……みんなの中で4番目……」
グレンがジド目でこちらを見る。
「………?ああ!気にしてたのか!」
ジェシカはポンッと手を打ち、吹き出した。
本当に、意外と子どもっぽいんだから。
大きい長男、健在である。
「みんな、一番好きだよ!」
ジェシカは拗ねるグレンにチュッと軽い口づけをした。
グレンの口はしばらくとんがっていた。
グレン、エルンにポイ捨てされて憐れです。
功…グレンに笑顔で幸せを振りまく
罪…飽きたらポイ捨て




