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幸せが溢れてる

性的表現があります。苦手な方はご注意ください。


そして月日は流れ…

「かーたま!どうしたの!?」


 双子が、寝不足でふらついたジェシカに駆け寄る。


「大丈夫。ちょっと寝不足でふらふらしただけだから…」


 皆で朝食をとったあと、立ち眩みがしたようだ。

 グレンがジェシカを抱き上げると双子はグレンの周りにまとわりついた。


「かーたま、いや!いかないで!」


 二人は不安そうな顔で見上げている。


「母様はだいぶ疲れてるみたいだから、ゆっくり寝かせてあげよう?アレンとロビンも、二人でいれば少しお留守番できるだろう?乳母もいるから、大人しく待ってなさい」


 父親にそう告げられた双子は、口をへの字に曲げ、しばらく俯いていたが、アレンが顔を上げた。


「うん、ロビンとまってる。かーたま、ねんねしてきて…」 


 それを聞いたロビンも慌てて同意する。


「いいよ、かーたま、アレンとまってる。いっぱい、ねんねしてきて!」


 健気な双子の成長に、ジェシカは目が潤む…。


「ありがとう。アレン、ロビン。少し休ませて貰うね。お利口に待っててね」


 果たして、お利口に待ってるかは神のみぞ知る事だが、最近、体力も限界を感じている。休ませてもらえるのは正直ありがたい。

 会話も出来るようになって、本当に大きくなったと実感する。

 乳母にあとを頼むと、ちょっと引きつり気味に頷いてくれたので、ジェシカとグレンは子供部屋をあとにした。



「ありがとうございます。あの子たちに言い聞かせてくれて」

 

 お姫様抱っこで寝室に向かう途中、ジェシカはグレンに礼を言った。歩けないほどではないが、そのまま甘えて運んでもらう。


「春先には二人とも3歳になるんだし、少しずつ手を離してもいい頃だからね。四六時中君とべったりだろう?みんなもいいけどたまには二人の時間も欲しいし…」


「え!?」


 そっち!?

 そういえば、子どもが産まれてからはグレンをほったらかしだった………。子どもの寝かしつけで気づけば朝という生活だ。3年も。

 あれほどおさかんだったのに、よく我慢したというべきなんだろうけど………。


「長男が別にいた……」


 ジェシカはボソッと呟いた。

 結局我が家の男たちは、ジェシカに夢中と言う事だった………。


「いや、今日はさすがに寝てていいよ!これから少しずつ親離れしてって話だし!」


 グレンは慌てて弁解した。 

 だが………。

 ジェシカはグレンの頬に手をやり、上目遣いに見上げた。


「いいんですか?」


 途端にグレンは真っ赤になった。

 子どもができる前は、積極的なグレンにこんな表情を見ることは無かった気がする。

 子どもが産まれてから、感情表現が豊かになって来たのかもしれない。


「あの……、いいの?」


 グレンはおずおずと聞く。


「どうしよう……。待っててくれる子どもたちの為に、早く休んだほうがいいんでしょうけど……」


 しばらく忘れていた感覚が沸き上がってくる。


「でも、少しだけ、なら…」


 ジェシカも頬を染め、グレンの胸に顔を埋めて呟いた。 

 グレンの鼓動が速い………。

 いつも寝ている子どもの寝室やジェシカの私室を足早に通り過ぎ、夫婦の寝室に直行した。

 ここをジェシカが使っていたのは、双子が産まれるまでだ。あとはずっと双子につきっきりだった。


 ジェシカは寝台の上にそっと降ろされた。

 グレンは扉に鍵をかけ、いそいそと戻ってくる。

 その様子が子どもたちを連想させてジェシカは可笑しくなった。

 そわそわ具合がおやつを待ってる子どもたちにそっくりだ。


「どうしたの?」


 横に腰掛けたグレンは、クスクス笑ってるジェシカに戸惑い、尋ねてきた。


「いえ、何でもありませんよ」


「気になるな」


 そう言いながら、グレンはジェシカに唇を重ねてきた。

 子どもたちの前では、頬や唇に軽く触れるだけの口づけしていない。

 だから、久しぶりの深い口づけに、二人ともくらくらと酔いしれ夢中で求め合う……。

 息を忘れるほどの長い口づけを交わし、きつく抱き合う。お互いの心音が早まってるのを肌で感じた。


「少しだけって、どこまでいいのかな?」


 グレンは唇を離して聞いてきた。

 そんな事を聞いてきたのはおもいがつうじあった最初の頃だけだったのに。

 あの頃よりずっと大人になったということか?

 でも、切なげな瞳が許しを待っているようにみえるのは、勘違いではないだろう。

 ジェシカはまたクスクスと笑い、グレンの頬に手をやりながら答えた。


「何度もはだめですよ。体力が持ちませんから」


「一度はいいってこと?」


 お許しが出たところで、グレンは目を輝かせ、遠慮なく身体を重ね合わせた。

 素肌の触れ合いも久しぶり過ぎて、なんだか恥ずかしかったが、すぐにそんな事を忘れるぐらい、二人とも夢中になった。




 グレンは身体を離すと、しばらく息を整えていたが、ジェシカの横に転がり頬に優しく手を添えた。


「久しぶりできつかったんじゃない?ゆっくりお休み」


 ジェシカも息が上がっていた。久しぶりに肌を合わせ、心が満たされて行くのを実感する。

 添えられた手が温かい。

 ジェシカはその手の上から自分の手を重ね、そのままグレンの胸に顔を寄せた。甘い空気が流れる。

 …が、ジェシカはなんだかモジモジして、何か言いたそうに顔を上げては俯いている。


「ジェシカ?どうしたの?やっぱり辛かった?」


 グレンが戸惑い気味に尋ねる。


「いえ、あの……、まだ、もう少し……だめですか?」


 ジェシカは自分が思った以上に、寂しかったのだと気がついた。

 求められることで満たされてきたが、心の奥底でもっととねだっている。

 

「僕はもちろんいいけど……。いいの?疲れない??」


 グレンは目をパチクリさせて聞いた。


「でも……。もっと、してほしい……」


「さっきと言ってることが違うなぁ。どっちが本音なの?」


 グレンは微笑を浮かべ、ジェシカにまた口づけをする。

 ジェシカは最初に肌を合わせた夜に聞いた言葉に、嬉しくなった。


「だってすごく…幸せだったから……」


ジェシカはグレンの頬の傷にそっと口づけする。


「もっとって、言ったのは君だからね?」


 グレンは再び深い口づけを落とす。

 ジェシカもグレンの背中に手を回し背中を彷徨わせる。

 昔よりも少し線が太くなったかも…。

 ジェシカはそう思ったが、体が緩んだのは自分のほうがもだろう。昔は日課だった剣の鍛錬もしていないから筋肉もかなり落ちた。

 腹部は双子がおさまっていたから、かなり伸び、肉割れの線もある。

 だが、グレンはそんなところすら愛おしげに口づけを落としていった。


「ロビンとアレンがここにいた証拠だね」


 そう言ってくれるグレンも、たまらなく愛しい。


「グレン…愛しています…」


 ジェシカの口から自然とその言葉が出た。

 グレンは目を見開いて驚いている。


「君から聞けるなんて………嬉しいよ」

 

 昔は気恥ずかしくて、口に出すのも躊躇われたのに、自分でも不思議だった。


「そう言われてみれば、いつもあなたからばかりでしたね」


 ジェシカはクスクス笑う。


「うん、もっと聞かせて」


「愛しています。世界で3番目に」


 今度はグレンが苦笑する。


「アレンとロビンの次に?さみしいなぁ」


「ふふ、じゃあみんな1番ならいいですか」


 二人は笑い合いついばむように口づけをかわす。

 ようやく訪れた甘いひとときに、ジェシカとグレンは幸せを噛みしめた。




 ジェシカが眠ったので子どもたちの様子を見に来ると、双子はグレンの元に駆けつけてきた。


「とーたま、かーたまげんきになった?」


「とーたま、かーたまはどこ?」


 乳母に聞くと、二人とも驚くほど大人しく待っていたようだ。

 グレンはしゃがんで二人の頭をなでた。

 2時間ほど経っているが、片時も離れない双子にとっては長い時間だったんだろう。

 だがジェシカは先ほど、気絶するよう眠ったばかりで、すぐには起きれそうにない。


「母様は、すごく疲れているんだよ。もっと寝かせてあげよう。そうだ、二人とも父様とお昼寝するのはどうかな?」


 二人は、忙しくて滅多に会えないグレンと一緒にお昼寝できると聞いて、目を見開いた。


「ほんとう!?とーたまと、いっしよにねんね!?すごい!」


 ロビンが目を輝かせて聞いてきた。


「とーたま、おしごといいの?」


 アレンは遠慮がちに様子を伺っている。


 双子の返しに、いかに自分が仕事漬けだったか実感する。

 仕事は寝る間も惜しんでしても、一向に減る気配はない。今日1日ぐらいは休んでも大差ないだろう。


「うん。二人といるよ。今日は仕事はおしまいだ。」


 グレンは、その場にあぐらをかいて座り込む。


「「やったあ!!」」


 双子は大はしゃぎでグレンに抱きついてきた。


「あ、とーたま、かーたまのにおいがする!」


「ほんとだ!かーたまのにおいー!ミルクのにおいー!」


「さっき母様を抱き上げたとき匂いが移ったのかな?」


 無邪気な双子にグレンは苦笑する。本当は肌を寄せ合ったせいだろう。


「ぼく、しってる!あれ、おひめたまだっこっていうんだよ。とーたま、ちからもち!すごい!」


 アレンは絵本が大好きだ。覚えた言葉を使うときは興奮して得意げになる。


「とーたま、かっけー!」


 ロビンは感嘆詞が多く表情豊かだ。素直な気質がまっすぐ出ている、


「はは、二人とも、もっとお兄ちゃんになって鍛えればできるようになるよ」


 グレンは双子に笑いかけた。

 二人を見ていると遠い昔を思い出し、嬉しいが、切ない気持ちになる。


「おにいちゃん!?ぼくもおにいちゃんになるの?あかちゃんがうまれるの!?」


「すっげぇ!すっげぇ!おとうとかな!?いもうとかな!?」


 ところが、双子たちの会話が明後日のほうに飛んで行った。


「ロビン、アレン、弟か妹が産まれたら、母様がもっと大変になるだろう?赤ちゃんがお腹にいると抱っこも出来なくなるし、二人がもう少し大きくなってからじゃないと…」


 グレンは慌てて窘める。

 この上さらに赤ん坊が増えたら、さすがにジェシカが可哀想だ。

 悪阻もあんなに辛そうだったのに…。

 それに、今日のように二人だけで過ごせるのもまた何年も先になってしまう………。


「やだ!はやく、にいちゃんになりたい!とーたま、どうしたらかーたまたいへんにならない!?」


 ところがロビンは諦めずに聞いてきた。


「かーたま、いっぱいやすめば、たいへんじゃなくなる?いっしょにねんねがまんすればいいの?そしたらあかちゃんがくるの?」


 いや、アレン…。色々無邪気に鋭いと言うべきか……。


「うーん……。言われなくても自分でできる事はしたり、母様がいなくても、ご飯を残さず食べて、歯を磨いたら早く寝て、朝の準備もできるようになったら、かなぁ。まだまだ難しいだろう?さあ、母様が困るから、赤ちゃんの話は内緒……」


「できる!!」


「ないしょにしてがんばる!」」


 双子は俄然やる気を出し、おもちゃや絵本をいそいそ片づけ出した。そして…。


「とーたま、アレンとふたりでねんねするから!おやすみ!」


「とーたま、おしごとがんばってね。おやすみなさい」


「え、ちょっと!?」


 二人は競うように着替え、子どもたちの寝室へ走って行ってしまった。乳母は慌てて追いかける。

 せっかく子どもたちとを過ごす決めたのに、仕事に行けと?

 寂しい……。父親とはこんなものか?

 一人残されたグレンは、呆然と子どもたちの走り去った扉をみつめた。


「弟か妹、か…」


 ロビンとアレンがあれほど楽しみにしているなら…。

 本当に子どもたちの手がかからなくなるなら。その時は。

 ロビンとアレンをジェシカが身籠ったときは、悩ましい経緯があり、責任感や後ろめたさが大きく、産まれるまで楽しむ余裕がなかった。

 それだけに、おそらく父親違いの双子というとんでもない奇跡に、感極まったけれど。

 きっと今度は、みんなで楽しみに待つことができるだろう。

 そう思うと、また子どもが欲しくてたまらなくなってしまった。



 後日、ジェシカは子どもたちが急に聞き分けが良くなり、夜も自分達で寝るようになって驚いたが、しばらくすると大きな長男がまったく眠らせてくれず、寝不足は続いたのだった。


 1年後、グレンは世界で4番目に降格することになる。






 3年お預けのグレンが以前の激しさから一転です。

 ジェシカ物足りない(笑)

 まあそれも子どもたちからの後押しで長くは持たなかったようですが。

 たまには甘い時間を過ごしたいよね。



 最初は子どもとグレンの交流をきちんと書きたかったんですが、子ども達が勝手に動き出し、あんな結果に(笑)

 子どもは思考が予測不能、もしくは単純明快なんですよね。

 まさか子どもたちがエルン誕生秘話を作ってくれるとは…作者も予想していなかった。

 代打満塁ホームランです。


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