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幕間 昔語り

敵地王城にて のあとのやりとりです

ジルはジェシカの耳元でささやく。

あなたの大切な人が、お迎えに来ていますよ。


    

********


 ブレイグ王との謁見後、ジェシカは最初に通された部屋に戻された。

 女剣士は少し遅れて部屋にやって来た。 

 彼女は中に入ると窓を開け部屋の換気を行う。もう日も暮れようとしていた。

 ひんやりとした空気が窓から流れ込んで、部屋に香っていた品のいい香の匂いが薄れた。

 しばらくすると食事が運ばれ、机の上に配膳された。


「どうぞ食事をお取りください。疲労に効くお茶もありますよ」


 換気が終わったところで窓を閉めた女剣士がジェシカに食事を勧めてきた。

 食欲など、とてもわかない。

 敵地で出されたものに手を出すほど警戒心は薄くない。 


「ブレイグ王はとても正気とは思えないな…。民を何だと思っているんだ。…あ、えーと…」


 ジェシカは女戦士に話しかけたものの、彼女の名前を聞いていなかった事に気がついた。


「申し遅れました。私はジル・バレインです。民が現状打破を王に訴えたのは事実です。今さらこんなはずではなかったでは虫が良すぎるというものでしょう。無知とは罪なものです。知らなかったではすまないのに」


 女剣士…ジルは何でもない事のように淡々と語った。


「僕は…もう知っているみたいだけどジェシカだ。僕が死ぬ事は無いっていうのはどういう事かな?」


 ジェシカは先ほどジルが告げた、自分の処遇について尋ねた。あの王は処刑すると言ってるのだから、気休めに過ぎないが。


「あなたが役に立つ駒である事は事実です。ワーズウェント軍が攻めてきたら盾にすることができます。王子は、貴女を切り捨てることはできないでしょう」


 痛いところを突く…。ジェシカは歯噛みした。


「我が王はあのとおり短気です。怒らせて斬れと言われれば、私は斬るしかない。わかりますね?」


「今すぐ城壁に吊るせと言われたら?」


「指示があればしますよ。今ここで」


 ジルは腰に下げた剣に手をかけた。揺るぎないその姿勢。

 彼女なら本当にそうするだろう。

 

「ですが、王は3日の猶予を設けました。今は切りません。あのように怒らせる事などせずに、何か手段を考えるべきです」


 自分が連れてきたくせに、ジルはジェシカの心配をしているようで不思議だった。

 この女剣士は実直で嘘がつけないのだろうな…、と感じた。剣を合わせた時も律儀にジェシカの問いに答えていた。


「ジル、ならなんで僕を連れてきたの?」


 それなら、素直に聞いてみたらいいのかもしれない。


「あの場では双方の被害を最小限にするのにあれが最善だったでしょう?私とて、無駄に兵を死なせたいわけではないのです」


 ジルは複雑な笑みを浮かべた。

 冷静な判断だと、ジェシカは感心した。

 激高し手当たり次第に切り込んだ自分とは大違いだ。


「あの時言っていた、ブレイグの過去ってさ、本当なの?ワーズウェントも他の国もそんな卑劣な事をしたなんて」


 飢饉に乗じて援助と引き換えに領土割譲を迫ったと言う話だ。ジェシカは聞いたことがなかった…。


「ええ、事実と思われますよ。複数の歴史書に矛盾なく記載されています。あなたはオニクセルの出身でしたね。文字として残らなくても口伝や習慣など、ルーツというものは意外に残っていますよ。歌や踊りとして伝わっていませんか?」


 そう言ってジルは唐突に歌い出した。

 意外なほどキレイに澄んだ歌声が紡がれる。それは、ジェシカもよく知っている子どもが皆習う踊りの曲…。


「やはり、ご存知ですね。これはブレイグの冬が少しでも慈悲を施すよう、神に捧げられる舞の音楽ですよ」


 ジェシカのハッとした様子にジルの顔が緩んだ。


「知ってる…。冬至の夜に皆で踊るんだ。そんな歌詞も、あるんだね……」


 ジェシカが知ってる歌詞とは違ったけれど、懐かしい旋律に子どもの頃を懐かしく思い巡らす。


「私の故郷では祭祀や呪い師が語り部として子々孫々に伝える役割を担っています」


 ジェシカの出身地や歴史書の話など…ジルは博識だ。


「ジルは…どうしたらいいと思う?やはり領土を取り戻したいの?それで、本当にブレイグは豊かになるの?」

 

 敵に聞くことではないだろうが、ジルの意見は聞いてみたいと思った。


「それは…」


 言いかけてジルは口をつぐんだ。


「いえ、私は王の剣に過ぎません。民が王に戦を望み、王がそれを具現した。言いましたよね?今更やめられないと。もはや王を止めることは誰にもできません……。私も止めようとは思っていません」


「どうして、そこまで…?」


「さあ…私にも責任の一端があるというところでしょうか。おしゃべりが過ぎましたね」


 ジルは窓を閉め、消えかけていた香を継ぎ足した。


「お疲れでしょう?後ほど下げに来ますのでどうぞ食事をおとりください。せめて今日はゆっくりお休みください」


 ジルが去り、ジェシカは1人部屋に残された。

 やはり、疲れたな…。

 ジェシカはぼんやりとする頭を振り払った。頭がうまくはたらかないまま、食事に手をつけ、お茶を飲んだところでどっと眠気が押し寄せてきた…。




ここで出てくる舞は、昔グレンの前で踊ったやつです。グレンはあれがブレイグ特有の舞ってのは知らなかったということで…(笑)




ジルさんいかにもジェシカの身を案じる話しぶりで薬盛る。ほんとに冷徹……。


そして美声という設定です。


香の匂いで暗示の導入、媚薬のお茶です。

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