表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/69

幕間 兄妹

3再びめぐり の前後のお話です

「嘘だろ!?俺のかわりにジェスが登城しただって!?」


 足を骨折し、高熱で寝込んでいたこの1週間に、双子の妹は自分になりすまし、王都リバースへ向かったという。


「しょうがないだろう。もうすべて準備が整っていたのに、今さらやめられるわけないじゃないか」


 たぬき親父こと、父、オニクセル侯爵が飄々と告げた。


「ふざけるな!!」


 それで事が露見したら一族郎党、一巻の終わりではないか。

 この狸おやじも、妹も、行動が軽すぎる!

 確かに、妹は小さい頃から男勝りで、アンソニーに負けじと、ありとあらゆる武芸をこなしてきた。そしてそれだけの実力も兼ね備えていた。

 野党討伐までこなし、ついには更生させ、親分と言われる始末。

 自分と2人、オニクセルの双星とまで異名を取っていた。

 常日頃から、国で一番の剣士になりたい!

 騎士団に入りたい!と、夢を語っていた。

 だが本当はアンソニーは、妹にはそろそろ、女の子としての幸せにも向き合ってほしいと思っていた。

 同じ顔に向かって何だが、令嬢としてドレスに身を包む妹は、すこぶる可愛いのだ。つくづくもったいないと思う。

 早くに母を亡くしたせいで、身近に手本となる淑女が存在しなかった結果、男らしく育ってしまった。

 それでも2年ほど前は、女の子らしくしようとしていた時期があったのだ。

 だがそれも、長くは続かなかった。

 いつも、どこにでも一緒に出かけていた2人だったが、その日はアンソニーが侯爵家の跡取りとして隣の伯爵領に招かれ、妹を領地に残し出かけていた。

 帰ってみれば、妹は生き生きした目で語った。


『自分はこのままでいいんだ!夢を叶える!』

 

 なんでも、ブレイグへの外交から王都に戻る途中に立ち寄った、マーカス卿の側仕え見習いの少年に、そう言われたそうだ。

 興奮気味に、息巻いていた。

 ちなみに、無茶苦茶綺麗な男の子だったらしい。

 それからは、もうただひたすらに、剣の修行に打ち込んでいた。

 もちろん俺だって、妹に負けるわけにはいかない。毎日毎日毎日……。気がつけば、もう大人ですら、自分たちに勝てる者はいなくなっていた。


「ああもう!側にいなきゃ助けてやることもできないじゃないか!」


 アンソニーは唸った。

 かわいい妹に、万一のことがあったらどうしたらいいんだ。


「侍女にキャロラインをつけてやったし、何とかなるだろう。わが娘ながら、どっからどう見ても立派な男だ」


「堂々と、何言ってやがる!!!」


 どこまでも能天気な親父に、ブチっと切れた。


「心配なら、1日も早く直してジェシカと交代するんだな。ただまあ、杖無しで歩けるようになるまでは2か月以上かかるみたいだが」


「ああぁ!やってらんねぇ!!!」


 アンソニーは、だんだんアホらしくなってきた。




 自分ばかりが真面目にあれこれ考えているのが、ほんとにアホらしくなった。

 なので、意趣返しに、周りを困らせてやることにした。


「あら、今日のおやつは苺ショート?嬉しいわぁ」


 アンソニーは、ニコニコ苺を口に放り込んだ。

 妹はすこぶるカワイイのだ。

 つまり、自分だってカワイイはずだ。

 こんなにカワイイのに、隠しとくなんて、世の冒涜だ。やるからには徹底的にやってやる!


 そんなわけで、起き上がれないうちは口調から、松葉杖で歩けるようになってからは服装も。そしてスイーツにお化粧。

 どんどんエスカレートしていった。

 というか、とても楽しかった。

 ドン引きされたのは最初だけで、今や屋敷の女性陣はノリノリである。

 この殺伐とした屋敷に、潤いが蘇ったと。

 今日も優雅にお茶を飲み、アンソニーはうふふと笑った。


 3か月後。

 まだ王都からはなんのお咎めもない。

 時折来る手紙には、アンソニーの名で、元気にやっていると綴られていた。


「ほんと、満喫してくれちゃって…。こうなったら、こっちだって驚かせてやるんだからね!」


 すっかり完璧な令嬢に変貌を遂げたアンソニーは、意気揚々と王都に出発。

 オニクセル侯爵は、まあなんとかなるだろと、やはりのほほんと呟いた。


 そしてオニクセルには、ついに二人とも帰ってこなかった。

アンソニーが純粋な男の子だった頃のお話です。

妹大好きなお兄ちゃんだったんですね。


跡取り二人とも王家に取られて、オニクセル公爵は長い事引退できませんでした(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ