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幕間 第二王妃1

 性的描写あり。だいぶセンシティブです。苦手な方はご注意ください。


※初稿より改稿しました


 第二王妃リーザが召し上げられたのは、第一王妃が亡くなって3年ほどたった頃だった。

 第一王妃の座は空座のまま、お披露目もなくひっそりとした入城だった。

 年は8歳ほど差があったが、17歳の娘が25歳の相手に嫁ぐこと事体、よくある事と割り切ったが、それを後悔したのは初夜の夜のことだった。


 王とは確かに夜を共にした。地獄のような夜だった。


「抱いては、くださらないのですか?」


 リーザは恥辱に耐えながら王に乞うた。


「おまえがつまらぬから、抱く気がわかぬ」


 王にそう言い捨てられ、ショックのあまり、リーザは放心した。

 そして、数日おきの夜伽の度に同じような辱めを受けた。

 日中は食事の席で顔を会わせる事もなく、孤独だった。

 自分はなんの為に、ここにいるのだろうか?

 父に願い出て、抗議して貰うべきだろうかと日々悩んだ。そうすればこの地獄から抜け出せるのだろうかと。


 ある日、妾腹だという王弟ロバートが挨拶に訪れた。

 リーザより一つ年下だという少年は、黒い髪と目元が王に似ていた。

 滅多に城には来ないという。

 着ている物も平民のそれで、挨拶に訪れたときは庭師かと思ったくらいだ。まだあどけなさが残る元気そうな少年だった。


「義姉上、この度はお輿入れおめでとうございます。どうぞ末永く兄上をお支え下さい」


 何も知らないのだろう。快活にかけられた言葉が、酷く心にささった。

 支えると言うのは、あの踏みにじられるような行為をすること?

 リーザは堪えきれず涙を流した。


「えっ、ちょっ……!義姉上?どうしたのです?お、俺、何か失礼なこと言いましたか!?」


 ロバートは突然泣き出したリーザに驚き、狼狽えている。


「わ、わたくしには王を支える事などできません。人として見られてすらいません。わたくしは、あの方が……恐ろしい…」


「兄上になにかされたのですか?」


 ロバートは顔色を変え聞き返した。

 みんなが黙殺して聞いてくれない事を王弟は聞いてくれた。

 同世代と言うこともあり気を許してしまったのかもしれない。

 リーザは嗚咽しながら、第二王妃とは名ばかりで、夜伽の時しか呼ばれず、そこでは口に出すのもはばかられる事を求められた上、抱いてすらもらえない事をつげた。

 夜伽のことを他の男性に話すなどもってのほかだろう。

 だが、リーザは吐き出せずにはいられないほど追い詰められていた。


「帰りたい、帰りたい…!お妃を迎えたのは世継ぎを残すためではないのですか?私は生きている限り、王にあのような辱めを受けるのですか?子も産めず…」


 リーザは嗚咽をもらしながら、ずっと胸に溜まっていた物を吐き出した。


「兄上には俺から進言しよう。妃にそんだな仕打ち………」


「止めてください!もっと恐ろしい事になったら、わたくし……!」


 リーザは蒼白になってぷるぷる震えている…。

 ロバートは、リーザの横に膝まづき、落ち着かせるように手を握った。

 大きく豆だらけな手…。ゴツゴツしていたがとても温かい。


「わかりました。義姉上、俺にできる事は何かありますか?」


 リーザの顔は涙と鼻水で酷いことになってるだろう。持っていたハンカチもびしょびしょだ。

 それでもロバートはまっすぐリーザを見て聞いてきた。


「わたくしには、この様に話を聞いてくれる者はいません。夜伽の翌日も、侍女たちすら無言で目をそらします。どうか…たまにお話しできないでしょうか?」


「ああ、俺はたまにしか城にこれないけど、それでいいなら」


 ほっとしたのか、リーザは初めてニッコリ笑った。

 ロバートはその笑顔に胸が締め付けられた。



 それからロバートは月に一度ほど、リーザのもとを訪れた。

 リーザは王には触れず、小さな頃の話や、好きな本や花の事、ロバートと同い年の弟の事などを楽しげに語った。

 だが、リーザ自身はだんだんやせ衰えてきているようだった。

 辺境の村で売っていた、滋養強壮の薬草を持って来たこともあった。


「やだロバート。プレゼントにこれってあんまりじゃない?せめてお肌にいいお茶とかにしてくれないかしら」


 何度か会ううちに、リーザの口調は砕けていった。もともと明るいお嬢様だったのが伺えた。


「リーザは痩せすぎだろ?まずは元気になれよ」


 ロバートの口調も自然、同様になる。

 元々敬語は苦手だ。


「うん…大切に飲む…ありがとう」


「まずいけど頑張って飲めよ」


 そうして1年もたった頃、王城では世継ぎに恵まれないリーザに対する糾弾が厳しくなっていった。

 実際、夜伽に臨んでも抱いてもらうことは無いのだからできるわけも無いが、リーザは口に出すことができず、ただ俯いていた。


 そうした状況のなか、ロバートは兄王に呼び出しを受けた。

 城に来る際は必ず挨拶の為に謁見を申し出でたが、様々な理由から断られるのが常だった。

 しかも、今日は王族のみが知る秘密通路を抜けてこい、とのことだった。

 ただ事ではない。


「ご無沙汰しております。兄上」


 王の私室に設えられた玉座の前に膝まづき、ロバートは兄王に口上を告げた。


「ふん、早速嫌味か?」


 対して兄王は玉座にふんぞり返り、片ひじをつき頬杖をついている。機嫌を損ねると首が飛ぶため、玉座の前に出る人間はたいてい震えている。

 しかし、この王弟はいつも淡々と従順だった。


「いえ、久々にお顔を見られて嬉しいですよ」


 ロバートは兄王の言葉をサラリとかわす。


「今日呼んだのは、妃の懐妊の兆しがないことについてだ。医師に見てもらっても、特に問題は無いそうだがな」


「何故、自分に?」


 ロバートは内心、冷や汗をかきながら答える。抱きもしない妃が懐妊するわけないではないか……。

 時折リーザの元を訪れている事を咎められるのだろうか?


「下々のものは、口さがなく噂しているらしいがな。実は、私は先の暴動で子作りができぬ身体になったらしい。」


「は……?」


「色々試してはみたがな。どうも不能のようだ。だから、そもそも妃を抱く気が起きぬ」


「そんな……。それじゃ、義姉上はその事を……?」


「知らぬ、が、そろそろ周りも世継ぎ世継ぎとうるさくなってきてな。他にも妃を召し上げろと言う声も上がっている。だが、その妃たちが懐妊しなければ、やはり私が不能だという事になるだろう」


 兄王は人ごとのように淡々と告げている。


「そこで、だ。お前、第二王妃を抱け」


「……。何を……」


 唐突に命令され、ロバートは何を言われているか理解できなかった。


「子が無いまま私が死ねばどうせお前が跡を継ぐのだろう。だが、やはり跡継ぎは私の子として継ぐほうが、面倒がないのではないか?」


 妾腹の王より表向きは正当な血筋を……。

 言外にそう語られている事を感じ取る。


「私にはそのような事……」


 リーザは兄王の伴侶だ。親しくはしていてもそんな目で見たことなど無かった。

 ただ、兄王を幸せにして欲しいと、二人で幸せになって欲しいとしか………。


「ふん、これでも気を使ったつもりだがな。第二王妃とは懇意にしておるそうではないか。お前がダメならどこの誰でもいい。そうだな。用が済めば始末できる者のほうが後腐れないかもな」


 王は仮にも世継ぎの父を、どこの誰とも知らぬものでも良いと言い放った。

 そしてそれは、王が不能である事を隠すためだけに。

 そのためだけに、リーザは1年も虐げられた挙句に、更には他の男に組み敷かれる事になるのか。

 兄王のあまりな思考に怒りがこみ上げる。

 だが、兄王を変えてしまったのはあの暴動だ。

 愛する妻子も、この先自分の血を遺せなかった無念も、当事者にしか理解できない事だろう。


「わかりました……。ですがせめて義姉上にはご納得の上で………」


 リーザが自分を受け入れてくれるか分からない。これ以上彼女が傷つくのは………。


「何を言う。第二王妃には私に抱かれていると思い込んでもらう。媚薬と暗示をつかってな」


 ところが兄王は、更に恐ろしい事を言い放った。

 ロバートは愕然と聞き返す。


「そんな事…できるのですか?」


「準備はできてるから、そちらに行ってみるといい。私はここで見ているから」


 兄王が顎で示したのは、部屋奥にある寝台だ。

 よく見ると、すでに誰かが横たわっていた。ロバートが諦めて寝台に近づくと、そこにはリーザがいた。薄い夜着を身に纏い、媚薬と暗示のせいか、ぼんやりと虚ろな目をしている。

 寝台に手をついた気配で気がついたのか、虚ろな目でこちらを見るとゆっくりと身を起こし、四つん這いで近寄ってきた。 

 昼間の清楚な雰囲気は一変し、黒く透ける夜着が生めかしい。


「今日は何をしたらよろしいですか、王……」


 ぼんやりとだが確かにこちらを見ているのに、兄王だと思っているようだ。

 自分だと認識してもらえない事は思った以上に衝撃を受けた。よく見るとリーザの腹部や太ももなど、普段は見えないところにアザや傷がある。寝台の枕元には縄や鎖、ムチといった道具まで置いてあった。

 リーザが何をされていたのか、いざ目の当たりにしてロバートは絶句する。報われることは何もなく、どれほど辛かっただろうか……。

 ロバートはたまらずリーザを抱きしめた。

 兄王と幸せになって欲しかった。だが、兄王の心は溶けなかった。

 リーザの背中をそっと撫でると、ビクンと反応が返ってきた。リーザも戸惑い気味にこちらを見る。


「今日は、お優しいのですね……」


 身体を離してうっとりとした表情でこちらを見るリーザが、どうしようもなく哀れだった。ただ抱きしめ背中をさすることだけで、優しいとは。

 ロバートの心は、リーザへの憐れみと、兄王への怒り、そして目の前の傷ついた女性を救いたいという騎士としての衝動と、一人の男としての初めての欲望がないまぜになっていた。

 せめて、この一夜だけは。

 兄王の道具としてではなく、ただ一人の男として、この傷ついた女性に、偽りの夢を見せてあげられないだろうか。たとえそれが、どれほど重い罪になるとしても。

 ロバートは、覚悟を決め、リーザが横たわる寝台へとあがった。






 裏ヒロイン リーザです!

 本編に載せるか迷いました。それぐらいストーリーが広がった子です。

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