蜜月
10誓い の翌朝です。
婚礼の翌朝、ジェシカは重たい目を開けた。窓からさす光が部屋を明るく照らしている。
ああ、身体が重い…。
寝不足の頭をゆっくり傾けると、そこにはニコニコ笑みを浮かべたグレンの顔があった。
ジェシカに身体をピッタリつけて、添い寝している。
「おはようジェシカ」
グレンはそう言うと頬に手を添え軽く口づけをした。
夜半から空が薄っすら白んで来るまでグレンはジェシカを攻め続けたと言うのに、疲れなど微塵もない素振りだ。
体力はジェシカも自信があるが、流石にああ何度もでは、とても持たない。
そもそも受け手と攻め手でこうもダメージが違うのが不公平だ。
「ずるい…なんでそんなに元気なんですか。私はこんなにキツイのに」
ジェシカは恨めしげに王子を見上げた。
目が覚めた瞬間に目が合うなんて、ずっと寝顔を眺めていたのだろうか?
「そりゃようやく念願かなったんだから、当たり前だよ。ジェシカはそんなにきつい?」
グレンは苦笑しながら答える。
「今日はしばらく起きあがれそうにありません。婚礼の宴でクタクタのところにあれだけ激しくちゃ」
ジェシカは言いながら真っ赤になった。昨日の色々がまざまざと脳裏に蘇る。
改めて見ると身体中にいつもより濃い目に赤い痣が点在している。
妃として用意された衣装は胸元まで肌が出るものが多く、恥ずかしくて外には出られたものではない。
そういえば、入浴はこれから侍女がつくとの事だったが、この恥ずかしい身体を見られてしまうのか!?
色々思い巡らせ恥じらうジェシカにグレンも照れ笑いしていて甘酸っぱい空気の中ふんわり抱きしめられる。
「明後日までここで過ごすんだから、起きなくて良いよ。その間は二人きりでいよう?」
「でも、1日このまま過ごすわけにも…」
この部屋には昨日の夜着しかない。
いつの間にか畳んてナイトテーブルに置かれているが。
そういえば、あれほど汗をかいたのに肌はサラリとしている。
グレンが拭いてくれたのたろうか。相変わらず王子とは思えないほどマメだ。
「僕はそのままで構わないけど」
「〜〜〜っ!何をさらりと言ってるんですか!!」
真っ赤になってジェシカが抗議する。
「だってやっと本当に僕だけのものになったんだから。これくらいの独占欲はゆるして?」
甘えるように呟くグレンにジェシカの心臓は跳ね上がる。
だから、さらりと何を………!
「元々…あなた以外の人なんていません。そんな心配の必要は……」
ポロリと口からでた本音にグレンは、首まで真っ赤になる。
「ジェシカ、口説いてるのは僕のはずだけど、ホントに天然だなぁ…」
「………!」
まずい、この流れは………!
自ら墓穴を掘ったジェシカは後悔したが後の祭りだ。
「食事の前に、昨日の続きをしようか?」
グレンはジェシカの頭を引き寄せ、甘い口づけを落とす。
「ん……ん、ん…」
身体は限界のはずなのに、柔らかい唇の感触でまた熱がぶり返す。
「はぁ、はぁ…や、優しく…してくれるなら…」
ようやく唇を離してくれたグレンを見上げ、ジェシカは訴える。
「う〜ん、できるかなぁ。まぁ歯止めがきくまでは」
グレンはニコニコと恐ろしい事を口にし、ジェシカは自分の迂闊さにひたすら後悔する羽目にあった。
「食事は隣の部屋に運んでもらってるから、僕が取ってくるよ」
「お願いします………」
王子に給仕までさせるわけには…と思ったものの、もはやジェシカは立ち上がる事もできないほど疲弊していた。
そしてこの段取りの良さ…。色々想定済みではないか…。
ジェシカは枕を抱きしめながら、明後日まで頑張れるのか、不安になった。
身体はふき取ってもらっているものの、入浴もしたい…。一人でゆっくり入りたい…。
グレンの溺愛振りがずっしり重い……。
「身体は起こせるかな?」
グレンはニコニコと食事の乗ったカートを運んできた。
ジェシカを支えて起こし、枕とクッションを背中に当て、手際良く準備してくれる。さすがに裸のままは嫌で、長衣をはおり前をしっかり合わせる。
朝食にはウインナーとサラダ、白身魚ソテーとスープ、フルーツが程よい量もられていた。
「ありがとうございます」
ベッドに簡易テーブルと朝食を乗せたトレーが置かれる。グレンの分はサイドテーブルをベッドサイドに持ってきて、横に並んで座る形になる。
「君と朝食を食べられるなんて、幸せだな」
グレンはなんとも幸せそうに、微笑む。
夜の逢瀬は夜明け前に部屋に帰るのが常だった。寝坊して朝になっても朝食まで一緒にとったことはない。
「確かに新鮮かも…」
ジェシカも釣られて笑う。
「はい、どうぞ」
グレンは、ウインナーを切り分け、ジェシカにさしだす。
「じ、自分で食べられます!」
「僕が食べさせてあげたいんだ。だめ?」
グレンがいたずらっぽく上目遣いでジェシカを見あげる。
「いただきます…」
ジェシカは赤くなりながら差し出されたウインナーを口にした。照れる。
だがグレンはとても嬉しそうだ。
「僕には?」
「ええ!私もですか?」
グレンは更にいたずらっぽく微笑み口を開けてジェシカにせがむ。
ジェシカはとまどいながらも自分のウインナーを切り分けグレンの口に運んだ。
「ん、美味しい。あぁ、いいな…」
もぐもぐ食べてから、グレンは言った。
頬張って食べてる姿はいつもより幼く見え、なんというか可愛らしい。
そんなに喜んでくれるとは…。確かにちょっと楽しいかも…。
「もっと欲しいな」
「はい、どうぞ」
ジェシカが苦笑して更にウィンナーを差し出すと、グレンは素直に口を開け…そのまま彼女の指先に唇を寄せた。
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと!」
「ごめん、あんまり美味しそうで」
グレンは悪戯っぽく笑い、指先を離さない。ジェシカの耳まで一気に赤く染まっていく。
「……食事中ですよ!」
「うん。食事もスキンシップの一つでしょ?」
「ほら、口あけて」
グレンがスプーンを差し出す。仕方なくジェシカは口を開けて受け入れた。
……と思ったら、グレンはそのまま指先に唇を寄せてきた。
「 ちょ、ちょっと! だからご飯中ですよ!?」
「うん、だから特別に美味しいんだと思うけどな」
悪戯っぽく笑う王子に、ジェシカは唖然とした。どうしてしまったんだこの人は!
「だ、駄目です!何を食事中にそんなこと!」
「じゃあ……食後ならいいってこと?」
「ち、ちがっ……! そういう意味じゃ……!」
慌てふためくジェシカの抗議にグレンはクスクス笑い、今度はサラダを一口自分で食べ、唇についたドレッシングを指で拭う。
そしてわざとらしくジェシカに向かってその指先を見せた。
「ねぇ、拭いて?」
「っ……! い、いやです! なんてことさせるつもりですか!」
「……じゃあ、僕がしてもいい?」
そう言ってジェシカの頬にそっと触れ、まるでドレッシングでもついているかのように指をなぞり、そのまま軽く口づける。
「んっ……!? だ、だから駄目って言ってるのに……!」
必死に抗議しながらも、身体の芯が熱を帯びていくのを止められない。
食事はまるで進まず、ただただ赤面と抵抗に追われるばかりだった。
グレン、やりたい放題。
本編が真っ暗なので外伝ではひたすら幸せを味わってます。
まあ、新婚だもの。




