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婚約

 さて、ここからは本編の流れ重視で削ったエピソードを投稿していきます。10婚礼の前のエピソードです。

 本編ではいきなり婚礼に飛んだけど、婚約のエピソードもありました。


 順番的には3度目の求婚のほうが先なんでしょうが、そちらはいずれ書くつもりです。

 幕間・外伝ネタは思いついたら書いてるので色々時代が飛ぶかもですが、ぼちぼち投稿しますね。


 先日、晴れて婚約の内定があり、今日はお披露目の晩餐会が催されている。

 正装した王子はいつもにも増し、見目麗しかった。

 ジェシカも背中がぱっくり開いた淡い水色に金糸で刺繍されたドレスを身に纏い、入念な化粧を施されていた。

 晩餐会は王からの挨拶と婚約の発表で開始された。王子とジェシカが並んで礼をとると、招待客から割れんばかりの喝采をあびた。

 王子が呼び止められ隣国の大使と話をしている間、ジェシカは兄のアンソニーや同僚たちとしばし歓談をする。


「ジェスはほんとに女だったんだなぁ。そうしてドレスを着てればご令嬢に見えるけどさ。しかも王子と婚約するって聞いた時は耳を疑ったよ」


「そうよねぇ。とっても素敵よ。私もおそろいのドレスにすれば良かった!」


 アンソニーも話に乗ってきたが、今日はさすがに、礼服を着ている。が、みんなアンソニーならやりかねないと心の中でつぶやいていた。


「ありがとう。でもこんなカッコ、落ち着かないよ。あのキラキラした王子の横じゃどんなに着飾っても釣り合わないし」


「いやいや、王子は別次元だから。それに…釣り合わないこともないんじゃないかな」


「え?」


「ちゃんと、綺麗だと思うよ」


「えー!!いやいやいや、何言ってるの!」


 聞き慣れない単語を聞き、真っ赤になってうろたえるジェシカに同僚も照れ笑いした。

 ほのぼのとした空気だったが、そこに猛烈な勢いで王子が割って入ってきてジェシカの腕を取った。


「ジェシカ、ちょっと来てくれる?一曲踊ろう」


 ジェシカは王子にひっぱられる形でホールの中央に連れ出される。主役たちが躍り出て、招待客は拍手と歓声で迎えた。

 王子が目配せすると楽団がワルツを奏で始めた。

 優雅に微笑みリードする王子は、やはりキラキラしい。目が合いにっこり微笑みかけられ心臓が跳ね上がる。

 ジェシカは男性パートの方に慣れていたのでうっかりとリードしてしまいそうになりながら、慣れないステップを踏んだ。


「うっわ!ラブラブじゃないか!王子があんなに余裕無いとこ、初めて見た!」


 ジェシカの同僚やジェシカの男装に憧れていた女性軍団は、王子とジェシカの初々しい様子に騒然とした。


 曲が終盤に差しかかる頃には慣れない靴でジェシカの足が悲鳴をあげていた。

 それでも何とか最後のターンまでこなしたのは褒めてもらいたい。

 喝采の中、一礼をすると王子がささやきかけてきた。


「少し休憩しようか?」


「そうですね…」


 足の痛みもありジェシカは頷いて休憩室へ向かった。



 休憩室はいくつか用意されていたが、この部屋には誰もいなかった。

 ジェシカはドレスが皺にならないよう気を使いそっと腰掛ける。


「大丈夫?」


 王子が冷たい水をジェシカについでくれる。一気に飲み干すと、少し落ち着いてきた。

 

「酔って少し目も回りました。踵の高い靴で足も疲れていたので、こうして一息つけて良かったです。」


「ごめんね。無理に踊りに誘って。足が痛いの?」


 王子は少し待っててと言うと、休憩室から出ていった。

 備えてある水差しからグラスに水を注ぎ一息ついたところで王子が桶にお湯ついで戻ってきた。そしてジェシカの足元にかがみ込みそっと靴を脱がせ足お湯に浸す。


「わっ!わっ!王子、そんな事まで…!」


 足はとても気持ち良いが、申し訳なさでいっぱいになる。


「いいんだよ、これくらい。今日の君はとてもがんばってるからね」


 王子はにっこりと微笑み、タオルでふくらはぎも温めてくれる。

 ほどよく温まったところで足を拭き上げてくれた。


「あ、ありがとうございま…す!?」


 そこまでは良かったが…。

 王子は拭き上げた足の甲に口づけをした。


「ちょ、ちょっと、王子!!」


「ジェシカのドレス姿は嬉しいけど、他のやつには見せたくないな」


 拗ねたような王子の発言にジェシカは赤くなる。


「いや、私が着飾ったって、たかがしれて…」


「そんな事無い。綺麗だよ」


 そしてスカートの裾を更にまくりあげ、内腿に指を這わせた。


「や……っ、んん…」


ジェシカは一瞬流されそうになったが、はっと我にかえった。シワにならないようドレスの扱いには気を使っていたのに。


「時と場所を考えて下さい!!」

 

 ジェシカは憤慨して抗議した。


「だってもう、誰にも見せたくない。このまま、ここにいようよ?」


 王子は子どものように口を尖らせている。


「………っ!バカな事言わないで下さい!招待客の方に失礼でしょう!」


「でも、さっきは、他の男と楽しげに話してたじゃないか」


 グレンは足元から立ち上がるとジェシカの横に腰掛ける。


「同僚でしょう!」


 筋違いの苦情に、ジェシカは反論した。王子はどうしてしまったのだろう。独占欲の塊のようではないか。


「赤くなって君の事、綺麗だって言っていただろう?」


 なんていう地獄耳!招待客と談笑しながらこちらの会話にも耳を傾けていたのか…。


「社交辞令ですよ」


 ジェシカは呆れ返って呟く。

 

「男装の君しか知らない奴らは驚いていたよ。壇上ではみんなが見てたし」


 それは王子を見てたんじゃ?

 まさか、これから着飾るたびにこれでは?

 先が思いやられる………。


「自分の立場を思い出してください。会場にもどりますよ」


 ジェシカが靴を履いて立ち上がろうとすると、腰をつかんで引き寄せられ、よろけて王子の膝の上にぽすんと落ちた。


「危ないじゃないですか!」


 ジェシカが抗議しようと振り返る前に王子がドレスからのぞく肩甲骨あたりに強く吸い付いた。


「ひゃっ…!」


 背中がゾクリとし、ビクンと跳ね上がってしまう。

 

「君も自分の立場を自覚して。君はもう、僕のものだからね?」


「そんなに心配されるのも…信用されてないみたいで悲しいですね」


「だって君、隙だらけじゃないか」


 王子が悪びれもせず言った。どうも王子とジェシカでずいぶん許容範囲の差があるようだ。  

 婚礼までの間、まだ引き継ぎなどで側近業務を続ける必要があるが、それすら禁止されそうな勢いだ。


「婚約、早まったな……ここまで束縛されるなんて」

 

 ジェシカは独り言を呟き、項垂れる。こんなに自由を制限されるとは思わなかった。

 ただでさえ苦手なドレスや社交を頑張ってこなしているのに。


「え!?ちょ、ちょっと、どうしてそうなるの!?」

 

 ジェシカから出た不穏な発言に、王子が慌てふためく。


「私だってドレスは苦手だけど、みんなに綺麗だってお祝いされてすごく嬉しかったんです。幸せだなと実感しました。なのに……」


 否定された気がして悲しい。

 王子の妃になることは、今までの生活をすべて捨てなければならないことを改めて実感する。


「こんな事も耐えきれないなら、やっぱり私には無理です。身の程知らずでした。剣を振り回してる方がよほど似合ってます」


 言葉にするとますますそう思う。ジワリと涙があふれる。

 王子は肌を合わせる時以外見たことのないジェシカの涙と発言にひどく慌てた。


「ごめん!僕が悪かった。君が楽しそうにみんなと話してるのを見て悔しくなって…余裕が無かったんだ!お願いだからそんな事言わないでくれ」


 王子はハンカチでジェシカの涙をそっと拭った。


「でも…もうどうしたらいいのか分かりせん…」


 俯いた顔から涙がパタパタ落ちる。


「ほんとにごめん!何度でも謝る。そのままで良いから。僕を嫌わないでくれればそれだけでいいから!」


「ほんとうですか?」


 ジェシカは顔を上げ、王子を見つめる。


「うん、約束するから!」


 必死の顔で王子がうなずく。


「もう過度に、束縛したりしませんか?」


 念押しで尋ねる。


「う…うん…努力する」


 怪しい…。なぜ約束できない。

 ………が、言質が取れただけでも良しとしよう。


「それじゃ、ほんとに早く会場に戻らないと…」


「あ、ちょっと待って!」


 ジェシカが立ち上がり部屋を出ようとすると、王子が引き留める。


「言ったそばから…!」


 ジェシカが鬼の形相になる。


「違う違う!鏡見て!」


「鏡?」


 ジェシカは部屋の隅にあった姿見をのぞき込む。


「あああ!」


 ジェシカは叫び声をあげた。

 酷い。アイメイクが涙で崩れ大惨事になっていた。最悪だ!


「そのまま戻れないだろ?侍女を呼んでくるから急いで化粧を直してもらおう!ほんとにごめんよ!」


 王子は逃げるように部屋を飛び出して行った。



 王子は先に戻っているというので、何とか化粧を直してもらい一人で会場に戻る。

 王子は社交を続けていた。ジェシカも加わり一通りの挨拶を終えたあと、今度は思う存分、同僚達と笑い合い、酒を飲むことができた。

 アンソニーや同僚達とも短いダンスを踊り楽しむ事ができた。

 調子のいい父とも久しぶりにゆっくり話せた。

 ジェシカが男と思い込んでいた女性陣は、凛としたドレス姿にほぅ…とため息をつき、別の世界の扉を開いてしまったようだった。

 しかしジェシカは気づいていなかった。

 背中にはしっかり見える位置に赤い跡が残っていたことを。


「うわぁ……。あれ……」


「しっ。余計な事言ったら王子に睨まれるぞ。」


 王子の牽制はジェシカの知らないところでしっかり効いていたようだった。



 晩餐会も盛況のうちに終わり、みなそれぞれ引き上げていった。

 侍女に着替えの手伝いをすると言われたが、今日はもういいからと伝えると


「ふふ、お綺麗ですものね。ゆっくりお楽しみ下さい」


そう言ってニコニコ微笑み下がって行った。

 王子はジェシカを部屋まで送ってくれた。


「今日はせっかくの記念の日だったのに…ほんとにごめんね。ゆっくりお休み」


 そう言って額にキスをして、部屋に帰って行こうとした。てっきりこのまま寝室に連れこまれるものと思っていたジェシカは拍子抜けしてしまう。


「待ってください!」


 驚いた王子は振り返る。そこにジェシカが抱きついてくる。


「え…?ジェ、ジェシカ?」


「時と場所を、考えて下さい!」


 先ほどは拒否のために使った言葉だ。今度は…。


「時と場所……?婚約披露が終わったあと…。君の…部屋の前…?」


 ジェシカは口を尖らせて、王子の手を握る。


「自分の立場を自覚して下さい!」


「婚約者に…なったんたよね…。今日は怒ってると思って…その…」


「私も言い過ぎました。でもそのせいで気まずくなるのは嫌です」


 そう言ってジェシカから王子へ唇を寄せる。


「今日は…まだしてなかったから…あ…」


 軽く触れた唇を離し、王子をみると、紅がついて紅くなっていた。


「また化粧が崩れたら悲しいかなと思っていただけだよ。もう泣かせたく無かったしね」


 グレンは微笑みながらジェシカの手の甲に口づけする。


「それじゃあ僕の部屋に来てもらえますか?婚約者さま?」


 くすぐったい響きにジェシカは嬉しくなり、正式に王子の婚約者となったことを実感する。


「はい。今日は、優しくしてくださいね」


「いつも優しくしてるつもりだよ」


 どこが…。ジェシカは苦笑する。


「嘘つき…」


 王子はジェシカの肩を抱き、一つ上の階の王子の部屋へ向かった。

 二人の甘い夜はこれから…。ジェシカは夢見心地になった。




キラキラのドレスに王子様とダンス。

昔から憧れのシチュエーションです。

この日ばかりはジェシカも着飾って臨みます。

お約束の束縛・執着・キスマーク(笑)

ノリノリで仕上げました。


この日のためにアンソニーとキャロラインは盛大にジェシカをイジりつつ、女子力ゼロのジェシカをなんとか婚約式で恥をかかないよう特訓を始めます。

騎士団の仲間は半ば男だと思っていたので仰天します。

国王夫妻はグレンが独身を貫くかもしれないと冷や冷やしていた為、手放しで喜びます。姉姫のクラウディアはやっとくっついたかとニヤリとします。

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