18敵地王城にて ※9/23ラフ画追加
戦場で捕らえられたジェシカは、ブレイグの王城に連行された。
王城は、華美さがまるで無い、大きめの石積みの砦という印象だった。
比較的豪華な部屋に通され、戸惑う。
武器を奪われた状況ではなす術もなく、通された部屋で大人しくまつ。
しばらくすると女剣士がきて、湯浴みと着替えをするよう告げられた。
女であることが知れたらまずいので、湯浴みは拒否したが、女剣士は引かなかった。
「そのような血まみれのなりで、謁見は困ります。王は、美しく無いものを好みません。即座にに切り捨てられますよ。」
どうやらこのあと、悪名高き君主に引き合わされるらしい。
もしここで死んでしまったら王子はどれほど悲しむか…。何とか生き延びなければ。
「わかりました。でも湯浴みは自分1人でお願いしたい」
服を脱げば、さすがに性別を隠すことはできない…。
「いいえ。自害されたら困りますので。それに、あなたが女性なのはもうわかっていますから」
女剣士は事もなげに告げてきた
「なにを…」
ジェシカは呆然と聞き返した。
「王子妃が側近から召し上げられたのは、こちらでも把握しています。戦場で王子が自分の身よりも守ろうとする者など、他にはおりますまい」
ジェシカは固く目をつむり、己の迂闊さに唇を噛み締めた。
この時点で正体まで判明してるとなれば、自分は王子の足枷にしかならないだろう。どうしたものか…。
「さあ、早く湯浴みをお済ませ下さい。王は待たされるのは特に好みません。どんな目に合わされるか分かりませんよ」
ジェシカは観念して湯浴みに応じた。
久し振りに使う湯は、思いのほか心地よかった。温泉を引いているのだろうか?独特な硫黄の匂いと乳白色のとろみがある湯だ。
女剣士も共に湯あみしているので微妙に気まずかったが、しかたがない。
もと着ていた服は血まみれだったので、洗濯に出すという。
用意された服は、この国の貴族の服なのだろうか?薄いレースを下にまとい、その上に3枚ほど布を重ね腰の部分で帯を巻いて飾り結をされる。
首元に色の異なる布が重なって独特の美しさを醸し出していた。
「お似合いです。では、王のもとにご案内致します」
ジェシカは緊張の面持ちで謁見の場に向かった。
通された場は王の私室のようだった。
続き間には寝台が見える。
しかし、王が座っている椅子は2段ほど上に位置し、かなり大きく豪華な装飾があり、きらびやかな宝剣が並びに飾られていた。
私室に王座と宝剣を備えるなんて…。
ジェシカは違和感を覚えながら、王座を見据えた。
悪名高きブレイグ王。
ことごとく失政を重ね、時に暴動が起こるほどであったが、この10年は矛先がワーズウェントに飛び火し、領土をいくつか奪われていた。
しかし、その姿は意外にも理知的で、聞こえて来る噂の主には見えなかった。
これなら和平案も通るかも知れない…。
ジェシカは光明が見えた気がして口を開いた。
「国王陛下にお目にかかります。私はワーズウェントの…」
「王子妃、だな。知っている。ひと目見てみたくて呼んだのだ。存外平凡だ。これでは略奪する気も起きんな」
言い捨てられ、ジェシカは唖然とした。
理知的に見えた王は、口を開いた途端、嫌らしい笑みを浮かべている…。
「ワーズウェントはこれ以上、戦は望んでおりません。どうか、休戦の協議に応じていただけませんか?ブレイグの様子も、かなりの惨状と見受けられます。どうか…!」
ジェシカは何とか実のある話をしようと、早口にまくし立てた。
王はそんなジェシカを鼻で笑った。
「攻め込んできて、何を言う。戦とは、決着がつくまでするものだろう?最期の民が死ぬまでブレイグは立ち向かう」
およそ君主とも思えないその発言に、ジェシカは戦慄する。
民が死に絶えるまで戦うつもりとは、正気の沙汰ではない…。
「民が減れば国は立ち行きません!それでは仮に戦に勝っても損失が大き過ぎます!」
実際の所、ブレイグに勝機はない。
奪われた領土も取り返し、本軍はすでに国境を超え、近くまで迫っている。3日もすれば城は戦場になるだろう。その事実はわかっているはずだ。
「どうでも良い。現状を打破することは民が私に望んだことだ。今更やめて何になる。自分たちの望みが何を意味するかわかっていなかった民には、相応の報いがあるだけだ」
王は歪んだ笑みを浮かべながら、淡々と語った。
この王はどこか壊れている。
ジェシカは、これ以上何を言っても聞き入れられない事を悟った。
「ワーズウェントの王子が是非に、と望んだ妃だと聞いて興味が湧いたが、実に平凡な娘だったな。綺麗事は聞き飽きている。下がるがいい。本軍が城に到達した折には、切り刻んで城壁に吊るしてやる。楽しみにしていることだな」
3日後に処刑すると宣言され、ジェシカは王の私室から追い出された。
「すぐ切り捨てられず、良かったですね。冷や冷やしましたよ」
女剣士はジェシカに声をかけた。3日後には、切り刻まれて城壁に吊るされるというのに、この女剣士はまるで命が助かったような言いぶりだ。
「死ねと言われたことには変わらない」
ジェシカは憮然と言い返した。
「死ぬ事はおそらくないでしょう。どうか事を荒立てないよう…」
女剣士は小声でジェシカに囁いた。本気で身を案じてくれているようだ。
どの道、もう和平の申し入れは叶わないだろう。何とかここから逃げ出さねば。
ジェシカはため息をつきながら、再び部屋に戻った。
くだらぬ進言だ。
王は、先ほどのやり取りを思い返し、鼻で笑った。
民を思い、身を尽くした結果がこのザマだというのに、正論を説く娘に虫唾が走った。
ワーズウェントの王子も自分と同じ目にあえば、この心境がわかるだろうか?
底なし沼で、もがく程に引きずり込まれるような この苦しみが。
「そうだ、良いことを思いついた。ジルを呼べ」
王は冷酷な微笑を浮かべ、女剣士を呼んだ。
ブレイグ王登場です。
ほんと、壊れた人です。
彼の鬼畜っぷりは留まるところを知りません。




