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二〇二四年三月二十七日水曜日 午後二十時五十四分

 新たな友情を生み出してほどなく、何かに気づいた(あきら)ちゃんは弾かれたように顔を上げた。



「マーちゃん先輩、ターゲットが来たッス!」


「!」


「──そんじゃあ、こっからは手筈(てはず)通りに」


「はい、よろしくお願いします」



 浮ついた思考を即座に切り替えて、私は見た目通りの作られた皮を(かぶ)る。

 姉の姿をした瑛ちゃんが右手を挙げてアピールすると、ひとりの男性がこちらに近づいてきた。



「こんばんは。あなたが醍醐(だいご)さんのおっしゃっていた、佐々木(ささき)修也(しゅうや)さんでお間違いないでしょうか」


「……そうです。その、あんたたちが例の……」


「初めまして。中原探偵事務所の調査員、鈴木と申します。こちらは所長の中原です」


「……」



 事前に打ち合わせておいた瑛ちゃんの噓八百な紹介に与り、男性に向かって私は静かに会釈する。

 私たちの間のカウンター席に座り込んだ男性は、険しい顔を崩さないまま両手を組んだ。家を出る前にあらかじめ布石を打ったはいいものの、急な話であまり信用する材料がないのだろう。当然ながら、こうして警戒されるのは織り込み済みである。

 どう切り出すべきか私も思案していると、男性は眉を下げて瑛ちゃんの顔を見た。



「あの……話す前に、ちょっといいすか」


「はい、どうしました?」


「あいつ──本当に大丈夫なんですよね?」


「……!」


「恨みを買って構成員()ったとか、そのせいで余所者連中が殺気立ってるとか、周りは好き勝手言ってるけどよォ……ちょっと夢見がちで気のいいあいつが、そんなクソシャバい真似できるはずがねェんだよ。これは何かの間違いだ。ただの言いがかりだ。そうだろ? あいつと会ったあんたらなら分かるだろ? あいつは何も悪くねェって!」



 その告白は、純粋に友を案じる人の心の声だった。

 男性は、私たちに聞かせているというよりも自分に言い聞かせているかのような、切羽詰まった苦々しい表情でまくし立てるように吐露(とろ)する。



「正直、これがどこまであいつの力になれるか、償いになるかは分かんねェんけど、あいつをここに誘ったのは他でもない俺だから……責任、取らねェと、一生あいつに顔向けできねェ」


「……」


「今さら俺が言ってもあれかもしんねェんですけど……俺からも、お願いします。俺はあいつの無実を信じてここに来た。どうか、醍醐(だいご)を助けてやってください。友達を、死なせたくないんです」



 そう言って立ち上がり、深く頭を下げた男性を見て、私は瑛ちゃんの様子を窺う。

 もちろんここで正体を明かすわけにはいかない。そのため、仮に瑛ちゃんが失言したとしても最大限フォローできるよう、ふたりの言動に注視する。

 すると、瑛ちゃんがこちらを見て、頷く。彼女の力強さに満ちた表情からして、余分な心配だったようだ。私に言われずとも、この土壇場で失言できるほど彼女の決意に揺らぎはなかったらしい。

 瑛ちゃんは、男性の肩に優しく手を置いた。



「──もちろんです。必ず助けます。我々も、そのためにあなたの話を聞きに来たんだから」


「……お願いします。つっても、俺も素人調査だから細かい事情までは詳しく知らねェんで、そこは了承してください」


「分かりました。あなたも、今日のことは他言無用でお願いします」


「はい。まずは──」



 再度席に着いた彼は、いよいよ私たちが待ち望んだ情報を渡すべく、すべてを打ち明けた。

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