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二〇二四年三月二十七日水曜日 午後二十時四十八分

「な~んだそんなことか! いいんスよ別に、むしろ分かってて勘違いさせるようなカッコしてただけッスから。わざとッスよわ・ざ・と!」



 自分でもどうかしているほど謝り倒すと、醍醐さんは(ほが)らかに笑って許してくれた。

 醍醐さんに倣って土下座すべきかと思ったが慌てて止められてしまったため、行き場のなくなった謝罪の言葉と両手が(ちゅう)(ただよ)う。

 私はおずおずと口を開いた。



「あの、どういった経緯であの恰好してたか聞いても……?」


「言うてそんな深い意味はないんス。このご時世じゃ夜中に女ひとりうろつくのってやっぱ危ないし、家族にも余計な心配かけさすじゃないッスか。運のいいことに、オレは同年代の女子と比べてガタイが良かったし、形だけでも男のふりしときゃぱっと見は気づかれないって分かって、以来そうして自衛してるんス」


「……いちゃもん付けられてまんまと殴られたのに?」


「あれに関しては例外でオナシャス」



 自衛という理由を聞いて私がすかさず茶々を言えると、醍醐さんは痛いところを突かれたように苦笑した。

 彼──改め彼女の男装の理由は、あくまで外出時の自衛だったという。現状においてこの判断はとても正しいと思った。ただでさえマフィアの構成員、しかも魔術師である可能性が高い集団に狙われているのだから、事前にひとつでも誤情報を流しておけば、いざというときに有利に働く。最初に土下座されてまで助けを求められたときはどうなることかと不安になったが、醍醐さんがタダで転ぶ女性ではないと理解した今、一日でも早く彼女を元の日常に返してあげたいと強く思う。

 ──それにしても、はたして祖母は彼女について知っていたのだろうか。私だけが気づけなかったと知れば高確率で未熟者扱いされるだろうが、帰宅したらさりげなく聞いてみよう。



「それに」


「?」


「リアルでもネットでも自分の身を守るためなら、相手にやべーヤツだと思わせて自然と回避させるのが一番の自衛ッスからね。そういう意味では()()()()大成功ッス」


「ふふっ……それは確かに言えてるかもですね」


「でしょ?」



 おどけたように言う醍醐さんの言葉に、私もつられて笑った。



「っていうかさっきから思ったんスけど、マーちゃん先輩オレ相手に敬語使わなくていいッスよ? 年とか関係なく、友達みたいに接してくれていいッス」


「え」


「そっちの方がお互い気が楽っしょ? あーでも、初対面で土下座した人間を友達っていうのはキツいか……?」



 私の中の友達と世間一般でいう友達の概念は、おそらく──かなり、ズレているという自覚はある。

 私のそばにはヤマトがいて、祖父や祖母がいて、姉がいた。人より友達と呼べる人が少なくても、寂しさを感じることはなく、家族に対する不満もなかった。それはそれでとても幸福なことだと思う。けれど、それと同時に私の世界を見る目が外に向くことは少なく、内で完結してしまうような未熟さがあった。

 ぼんやりと、同級生よりも大人たちに混じって会話を聞く方を好んでいたような記憶を思い出す。それはおそらく、早く大人になりたくて無理に背伸びしていただけの話だろう。

 私にとっての友達は、血の(つな)がった家族とは違う、私という要素を構成するもうひとつの家族のようなものかもしれない。

 そう考える一方で、一期一会だからこその関係性もあるだろうと思う。たとえ、進級をきっかけに簡単に離れてしまうような──糸よりも細く、香りより(つたな)く、硝子より脆いものだったとしても、そこで過ごした時間は幻ではない。

 だから、私はもう知っている。友達とは、ただ単に馬が合うだけの、その場限りの関係性()()()()()()ことを。



「あの」


「?」


「これから()、よろしく。……(あきら)ちゃん」


「! こちらこそよろしくッス!」



 照れくささを隠しきれず、差し出した私の右手を颯爽と握り締める小麦色の手は、とても熱くて、力強かった。

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