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二〇二四年三月二十七日水曜日 午後十六時三十三分

私も祖母も、醍醐さんを見ただけで理解した。

 なんとか気丈に振る舞おうとする醍醐さんの手が、少し震えていたのが映った。



「殺してない……けど!! でも、まさか、し、死ぬなんて思わなかった!! 確かに殴られはしたけど、こ、殺すなんてそんな……お、恐ろしいこと、考えたことない!!」



 ありえもしない怪奇現象に怯え、未知への恐怖に上擦ったその声は、あたかも夜道に迷う年端のいかない子どものようだった。

 罪悪感に満ちた醍醐さんを非難するように、祖母は呆れかえった様子で首を振る。



「すっとぼけンじゃないよ白々しい。じゃあ何だ? アタシらに殺人の罪でもなすりつけにのこのこやって来たってェのかい?」


「違う!! お、オレは……ただ、あの賽子を返してほしかっただけで……殺すなんて、そんなことできない……」


「どうだかねェ。魔女は一線踏み越えりゃ情け容赦なンざありゃしねェよ。アンタには報復する動機だってある。それに、アンタは死人が出たことを否定しなかった」


「違う、違う……殺す気なんてなかった……考えたことなんて……」



 祖母は、やり手の豪腕刑事の尋問のごとく、言葉で醍醐さんを追い詰めていく。

 最初は強く否定できていても、根明で正直な性根と積み重なった罪悪感には耐え切れなかったらしい。徐々に涙声で何かを呟くほどに、醍醐さんの抗議の言葉は小さくなっていった。

 私は、必要以上に相手を虐めて愉しくなってきているであろう祖母と目を合わせて、互いに頷き合う。どうやら醍醐さんには、まだこちらに話していない事情があるらしい。もっともらしい嘘をついてその場しのぎができるような人ではないことは、取り乱した醍醐さんの顔を見れば分かる。この人は、故意に人を傷つけるような人間ではない。そうでなければ、わざわざ占ってまで私たちを訪ねることなどしなかっただろう。

 しかし、死んだらしい相手は魔術師ではない一般人だ。やや因果応報とはいえ、死因は魔法による事故死、端から見れば不審死に該当するだろう。届け出てしまえば、決定的な証拠がないとはいえ警察が動かないはずもない。

 死人が出てしまった以上、この依頼はただの賽子探しとして見るわけにはいかなくなった。



「……ごめんなさい。あなたたちを騙そうとか、そんなことは考えてたわけじゃないんッス。ただ、これ以上詳しいこと喋ったら、ふたりを巻き込むことになるし、危険だし、危ないと思って。それで……」


「アンタがアタシらを頼った時点で十分巻き込ンでンだ。いいからさっさと吐きな」


「大丈夫ですよ醍醐さん。醍醐さんが嘘をつきたかったわけじゃないのは、なんとなく分かりましたから」


「……ッス」



 祖母の後押しで決心したか、あるいは観念したのか、醍醐さんはこれまでの経緯を洗いざらい説明しようと、薄く乾いた唇を開いた。

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