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二〇二四年一月二十日土曜日 午後十七時四十八分

「…………あ」



 そう考えたとき、私は根本的なことに気がついた。



「相良さん」


「はい?」


「いざってとき、連絡取れないと会えませんよね。連絡先、今交換しときましょうか」


「…………あ。そ、そうですね。確かに、その方が早い、ですよね」



 私に言われてようやく事の重大さに気がついたのか、相良さんは目に見えて動揺しながら慌てた様子でスマートフォンを取り出した。

 社会人として、先輩としてすごく頼もしいことを言った矢先に、肝心なところがぽっかり抜けている。もしかしたら新人の魔女の弟子を前に先輩として忠告しようと、慣れないことをしていたのかもしれない。相良さんは物腰柔らかで優しい人だが、自分から進んで教育者に名乗りを挙げるほど器用な人ではないことだけは理解している。どちらかといえば、叩き上げ上等の現場で働く仕事一本筋な専門職タイプの人だろう。そう思うと、普段慣れないことをさせてしまって少し申し訳なく感じた。



「すいません、自分から呼べと言ったのに気が回らなくて。僕、こういうところが本当に駄目で……」



 先ほどの大人びた雰囲気とは打って変わって、相良さんは気恥ずかしそうに頭を掻いた。



「いえいえ。私も言われて気づきましたから、おあいこですよ」


「えっと……どうすればいいんですっけ。あれ、動かない……」


「相良さん、まずアプリ立ち上げないと──嘘でしょ。も、もしかして、電源入ってない……?」


「……」



 寒空の下、最寄り駅を目前にして、ふたりでスマートフォンを突き合わせながら連絡先を登録しあう。

 人間(アナログ)から逆行したかのような魔女(アナクロ)が、手の中に収まるほどの科学(デジタル)に四苦八苦する。ただの人間であれ魔女であれ、テクノロジーに振り回されることは時代も世界も関係なく、生きるものの共通事項なのかもしれない。

 そう思うと、この状況は現代的なのに非現実的で、とても滑稽(こっけい)で、とんでもなく間抜けな光景に見えてしまうから不思議なものだ。



「茉楠さん。今日はいろいろとありがとうございました」


「こちらこそお疲れ様です。またいらしてくださいねー」


「わ、分かりました……さようなら、茉楠さん」


「さよなら~」



 無事連絡先を交換し終えた私たちは、改札口を挟んでのんびりと手を振り合い、しばしの別れを告げる。



「……」



 相良さんの姿が見えなくなったところで、私はゆるりとした足取りで(きびす)を返した。



「……ふふ」



 スマートフォンひとつにあたふたする相良さんを思い出して、ひとり微笑む。

 何はともあれ、またひとり魔女仲間が増えたことを素直に喜ぼう。

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