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二〇二四年一月二十日土曜日 午後十七時九分

 すでに日が落ちた灰色の空の下、私と相良さんはのんびりと最寄り駅へ向かう。

 極力早足で歩かないように、私は意を決して相良さんに話しかけた。



「相良さん、ちょっとお聞きしてもよろしいですか?」


「……はい。なんでしょう?」


「ずばり聞きたいんですけど、おじいちゃんとはどういう関係だったんですか? 私、相良さんのこと何も知らないので、できれば分かるだけ教えてほしいんです」


「マシューさんと、ですか……?」



 よほど意表を突かれたのか、相良さんはかすかに目を見開いた。

 突然横から切り出されたせいか、曖昧で答えにくい内容だったのかは読み取れないが、分かりやすく戸惑っている。

 そして、私の質問に二、三拍おいてから、彼はしどろもどろに口を動かした。



「彼とは……魔女としては大先輩で、道具作りのスペシャリストで、『魔導公安機関』のトップで、みんなの勝利の女神で……僕なんかがおこがましいと思うけど、た、頼れる戦友、みたいな……あ、僕が勝手にそう思ってるだけなので、あまり真に受けないでください。それから……そうだ。僕が使ってる武器を作ってくれたのは、彼なんですよ」


「……武器?」


「はい。彼の作るものは全部すごいんですよ。普通なら、両手に持ち切れない量の武器を魔力で再構築できるように、僕専用の武器庫を作ってくれて……本当に、彼には感謝しても、しきれない」


「……!」



 そこで、相良さんが初めて喜色(きしょく)に滲んだ表情をしていて、私は思わず口を開けて呆けてしまった。

 祖父が武器製造にも長けていた事実も十分驚きだが、相良さんの反応がこれまでにないものだったことにも驚きを隠せない。しかしそれ以上に、久方ぶりに人の口から祖父の正規の活躍を聞き、今は名ばかりの後継者である私も誇らしい気持ちで満たされた。相良さんが祖父を尊敬している態度が手に取るように理解できて、つい口角が上がってしまう。

 またひとつ祖父への知見が埋まったところで、不意に相良さんがこちらを顔を覗いてきた。



「あの……茉楠さん。魔女は見ただけで魔女を認識できるってこと、知ってますか?」


「……? それ、どういうことですか?」


「えっと……まず、魔女は体のどこかに必ず刻印を持っているんです。あ、刻印っていうのは契約のときに印される魔女の証みたいなやつで……聞いたところ、例外はないらしいです」



 そう言って、相良さんは左側の頬を指で軽く突いた。



「僕の場合、左の頬にあるんです。魔法を使うと魔力光(まりょくこう)のせいで目立つから、いつもは前髪やファンデーションで隠したり、ガーゼを張ったりしてます」


「へー……」


「えっと、要は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていう話で……紅さんもどこかに刻印があるはずなので、詳しい話を聞いてみてください」


「知らなかった……教えてくれてありがとうございます」



 相良さんの新情報のおかげで、彼の不思議なヘアスタイルにも合点がいった。


 当時の人々の認識のひとつに、魔女は肉体上に悪魔との契約の証として悪魔──あるいは魔女の印を残した、というものがある。

 その印は魔女裁判における確実な証拠になるとして、裁判官たちが発見に躍起になるほど重要視されたらしい。


 また、魔女の印は突いても痛みを感じない無痛点とされていた。その箇所(かしょ)を針やメスで突き刺して無痛かつ出血しなければ、それこそが魔女の印とみなされる。印が発見されると被告人へ自白を促し、得られなかった場合に拷問してさらなる自白を──というケースは、当時の魔女あるあるだったようだ。

 相良さんの話を聞くに、例の刻印と魔女の印との共通性は必ずしも同一とは断言しないが、すべてにおいて無関係と断じるにも早計だ。

 刻印については後ほど祖母に確認しておくべきだろう。私は心に刻んだ。

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