二〇二四年一月二十日土曜日 午後十六時十五分
魔女の弟子になって歴史の勉強を始めたとき、一番驚いたのは「男の魔女も存在すること」だった。
というより、これは単純に表記への第一印象とイメージの問題だと私は思う。
魔女イコール老女という方程式が出来上がった一因のひとつは、魔女──賢女と呼ばれた老女たちの実践的な民間療法と知恵袋を軽視し、医療行為から排除する者たちがいたからだ。すなわち、医学的知識を独占しようとした都会の大学出身のエリート男性たちが、彼女たちの知恵を攻撃し、遠ざけようとしたからに他ならない。
貧しい女性だけでなく、社会の中でも平均的な村人でさえも魔女として告発された。さらに時代が流れると、もはや身分すら無視されて告発され、対象は富裕層や貴族、聖職者さえも標的にされたという。果ては老若男女の垣根などまるで意味を成さなくなるようだった。とことん救いようがない。
魔女裁判に掛けられた被告のうち、八割は女性で二割は男性だったらしい。五十代から六十代の年配者が多数だったことは共通しているものの、国や地域によって男女比の割合は異なるという。要因としてはそれぞれの伝統的な習俗や文化の下地、当時の政治的・宗教的背景なども大きく関係しているそうだ。
閑話休題。
つまり、今回の気づきは第一印象で本質を判断してはいけないという、いい教訓になった一例なのである。
「よくもアタシの前でそんな恰好を見せられたもンだね、小僧! 無造作に生やした髪! 萎びた服! 半端な無精ひげ! いい年した大の男が……ああもう見てらンないね、アタシがきっちり整えてやるから大人しく洗面所に来な!」
「いやいやいやいや、やりますやります、やりますから紅さん。ちょっと忘れてただけですから……」
「もうその手の言い訳は通用しないよ! アンタっていう男はね、ひとりじゃ生きていけない運命なンだよ! さっさと受け入れな!」
祖母の知り合いということで引き合わせた途端、邂逅三秒でふたりの力関係が見て取れてしまった。
祖母もまた、相良さんのそこはかとなく醸し出される駄目人間ぶりが目に余ったらしく、押し問答──というより、祖母の一方的なお節介が遺憾なく発揮されている。
世話焼きモード全開の祖母は、孫の私でも押し止めるのは難しい。物理的な押しにも弱いのか、容赦なく襟首を掴まれた相良さんは、じわじわと祖母に引き摺られていった。
「そうだ! この際だからアタシが特別にスーツを仕立ててやるよ。ほらちゃっちゃと服脱ぎな! 採寸すンだからちゃきちゃき動く! 織姫、仕事だよ! まずは……」
「ああああ……」
祖母の溌剌とした声と、相良さんの悲しげな断末魔が遠ざかっていくのを聞きながら、我関せずな私はリビングへ直行し、冷蔵庫を開ける。
触らぬ神に祟りなし。相良さんには申し訳ないが、どこを見ても直し甲斐しかないような出で立ちで祖母の前に現れたことが運の尽きだったと、早めに諦めてほしかった。




