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94 人探しの依頼


 最近、サリエルの周りに花畑が見える気がする。つまりは機嫌がいいのだが、態度は全く変わらない。でも花畑が見える程に機嫌がいい。恐怖だ。でも気にしたら負けだ。


「ご主人様、今日の朝刊です」

「おっ、おう」


 相変わらずの無表情(後ろに花畑はある)で新聞を差し出してくるので、私はそれを受け取りパンを食べながら捲る。奥にいるケリスが行儀が悪いと睨んでいるが気にしない。もらった新聞の記事は、多くは私の聖女認定の事だ。どうやら私の聖女認定は難航しているらしい。……何だろう、こう、陛下とか中央区の商人とか公爵家の力をひしひしと感じる。まぁ有難い事だ。


 それでも何枚か捲れば世間の情勢、あと最近起きた殺人事件などの記事だ。どこかの夫が妻を殺しただの、どこかの国同士の戦争状態だの、普段と変わりない話題。


 さて、今日は何をしようか?久々に街へ出て散策するのもいいし、北区の国立図書館へ行くのもいい。やりたい事は沢山ある。花畑の幻想を気にしている時間はない。


 そんな事を思っていると、外から馬の鳴き声と馬車を引く音が聞こえた。

 特に誰かが来る予定もなかった筈だが……そう思い窓を見れば、屋敷の門の前に紋章をつけた馬車が見える。確かあの紋章はヴァドキエル家のものか?


 使用人悪魔達も窓から馬車を見る中、出て来たのはアーサーだった。だが普段よりも落ち着きがない、というか慌てている。その姿を面白そうにフォルとステラが笑った。


「じけーだんの人だぁ、あわててるねぇ」

「えーっと、アーホーだっけー?」

「アーサーだよ。頼むからそれ本人に言わないでね」


 どうやら只事ではない様だし、お貴族様を門前払いする事はできない。私は後ろにいるサリエルを見ると、奴は小さくため息を吐きながら窓から離れ、アーサーを迎えに行く為に玄関へ向かった。





《 94 人探しの依頼 》






「《アリアナが二日前から姿を消したんだ。一緒に探してほしい》」

「…………」


 話を聞かなければよかった。まさか新年早々違法悪魔探しをしなくてはならないとは。しかも何だぁ?あの高飛車お嬢ちゃんかよ。

 私はアーサーの向かいのソファに座りもたれて、ダージリンティーを飲みながら一応、基本的な質問をしてみる。


「自警団で調査はされていますか?」

「勿論している。侯爵家の自分の部屋からは、シーツを何枚か結んで即席の縄を使い出て行った様なんだが……そこから妙に、何の手がかりもない。恥ずかしいがお手上げだ」


 おお、あのお嬢ちゃんやるじゃないか。平民達が想像する、高慢な貴族そのものだった彼女がそんな手段を取るとは。……それに、そんな手段でなければ出る事が出来なかったという事は、アリアナは監禁まがいの事をされていたらしい。あの侯爵、娘にも容赦ないな。


「駆け落ちなどの可能性はありますか?」

「あり得ないと言いたいが……アリアナは君との件があってから、相当落ち込んでいたから」

「自分の身から出た錆ですがね」

「全くその通りだ……父上が「こういう事件はイヴリンに頼るのがいい」と」


 閣下め、悪魔関係だと察したな。大当たりだよ畜生。


「俺は父上の言った意味が分からなかったが、君なら分かるだろう?」


 アーサーは苦笑いをしながら、自分に出された紅茶を飲んだ。サリエルの淹れた紅茶は口にあったらしい、一気飲みしている。品性のかけらもない。


 確か、ヴァドキエル家は悪魔と契約していた。それならその悪魔が居場所を知っているのではないだろうか?アーサーは前回、侯爵家に同行していなかったのであの家の秘密を知らない。ヴァドキエル侯との約束もあるので、私は一捻り加えて提案する。


「その依頼受けましょう。……が、流石に何の手がかりもない中で「見つけろ」なんて無理です。私に侯爵家を……アリアナ様の部屋を見る機会を下さい」


 ついでにあの悪魔にも話を聞こう。そう想い提案したのだが、アーサーはその言葉を待っていたかのように、嬉しそうに頷いた。


「そう言うと思って、既に伯父上には許可を取っている。今から向かおう」


 カップをテーブルに置いたアーサーは、立ち上がり私へ手を差し伸べた。

 ほー!北区の事件では坊ちゃんだった彼が、随分と気がきくようになった。まぁパトリックには負けるが……ん?なんで今、奴の名前が出た?


「イヴリン、行くぞ」

「そうですね、行きましょう」


 どうやらいい相棒になれそうだし、今日のお供は彼の為にケリスにしてやろうか?鼻の下伸ばして頭が空っぽにならないといいが。

 そう考えながら差し伸べられた手…………を掴もうとした所で、出した手は横から革手袋を付けた誰かに、掠め取られるように掴まれた。


 驚いて私とアーサーが横を向けば、そこには無表情の……いやなんか後ろに禍々しいものを感じるサリエルくんがいた。私の手を掴んだまま、瞳孔鋭くアーサーを見るものだから、坊ちゃんが小さく悲鳴をあげてしまった。おい使用人。


「ご主人様に気安く触れないでください」

「えっ!?あ………わ、わる……」

「エスコートも何もかも、僕がしますので結構です」

「わ……わわ………分かった………」


 坊ちゃん!謝らなくていい!むしろ使用人が貴族相手に何してるんだと怒っていい所だぞ!?しかしアーサーは性根がいい奴なのか、もしくはビビリなのか、真っ青になりながら震える声で脳筋執事に謝っている。

 私は必死に掴まれた手を抜こうとするが、全くびくともしない。どうした脳筋!?花畑出して機嫌がいいと思ったら、次には貴族相手に喧嘩売るなんて、お前それでも執事か!?


「サ、サリエル離し」


 声を出せば、サリエルの鋭い目線は私の方へ向く。


「お供、僕にしますよね?」

「え」


 美しい顔面が、目の前にやってきた。

 その恐ろしい形相に、先程のアーサーと同じく悲鳴を出してしまう。


「僕ですよね?」


 負けるな私!脳筋の思う壺にさせるか!!


「い、いやケリ」

「僕ですよね?」





 何なんだよ本当に!!!

 怖すぎて頷いちゃったじゃないかよ!!!




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