90 神父と商人
二章がはじまります〜。
12/3.8 加筆+修正しております。
旅をしていた酒場で、ある商人に出会った。
その商人の男は性格がサッパリしていい奴で、気づいたら酒を一緒に飲んでいた。その途中で俺の職種に気づいて驚いていたな。
まぁそりゃそーか。聖職者ってのは殆どの奴が禁欲禁酒を掲げている。聖職者の証である腕輪がなかったら、俺はただの呑んだくれだ。馬鹿馬鹿しい。禁欲禁酒なんざ、人生損してる。
どうやらその商人は、仕事でこの国に来ている様だったので、俺達は再び会う事を願い連絡先を交換した。俺にしちゃあ珍しい対応だ。いやなに、また酒を奢って欲しくてな。
そして後日、俺はその商人に頼まれて、ある教会の神父の職を得た。まさか酒の誘いだと思った連絡が、仕事の誘いだとは思わなかったが……まぁいい、俺もそろそろ安定した住処が欲しいと思っていたんだ。
他国より圧倒的に先進した国、大国ルドニア。聖人アダリムの生まれた場所で、今でもその子孫が治める信仰高い大国。
馬車の中から街並みを見ているが、昔よりも随分変わったらしい。変わらないのは、中央区のどこからでも見える城くらいだろう。頬杖をつきながら外を眺めていると、向かいに座る商人が声を出した。
「急な提案だったのに、新年早々に来てくれて有難う」
商人の名前はエドガー。褐色の肌に白髪と、随分と目立つ容姿の美丈夫だ。無害そうな男だが、俺に提示した給料を見る限り、その歳で相当権力を持った商人の様だ。あと話が上手い。
「新年でも何時でも、俺は適当にフラついてるだけだから気にすんな。……で?俺の職場はまだか?」
「もうすぐ着くよ。君が気に入ってくれると良いけど」
「酒が飲めて、金が入るなら何処でも気に入るさ」
「それは仕事外で頼むよ」
「流石に、孤児院のガキの前じゃあ飲まねーよ」
俺を何だと思っているんだ、こんなでも神父の資格は持っているんだが?
苛立ちを収めるために、馬車の窓を開けて新鮮な空気を取り込もうとした。……が、窓を開けた途端、外から何かが入り込む。素早く掴むと、どうやら新聞社の号外の様だ。
掴んだ号外の面はエドガーの方を向いている。奴はその内容を見て、少し顔を硬らせた。商人が素を出す程の内容なんて、一体何か書かれているんだ?
「エェーっと……「新たな聖女誕生となるか」だって?」
「国王と王太子を病から救った女性が、聖女認定を受ける可能性があるらしいよ」
「はぁ?王太子はともかく国王の病って、もう三十年も前だろ?なんで今更」
「その治療方法が、三十年間明かされなかったんだ。だから世間は黒魔術やら怪しい薬やらと噂して、彼女を「辺境の魔女」と名づけ恐れていた。……それが最近になって、彼女の体、聖なる血で治療していた真実が王太子によって公表されたんだ」
やけに静かに、そして苛立ちを含んだ声と表情だ。どうやらこの聖女認定を受けそうな女と知り合いらしい。俺はため息を吐きながらエドガーを見つめた。
「……もしこれが認められれば、その魔女様は聖人アダリム以降初の、二人目の聖人って事になるのか。そりゃあとんでもないな」
俺の言葉に、エドガーは何も答えなかった。……あー成程?そう言う事か。そりゃあ災難だ。想い人が聖女になれば、この信仰高い国じゃあ確実に王族の伴侶にされるだろう。
「……エドガー。俺なら聖女認定を受ける前に、速攻で手を出すぜ?」
「そうしようと思ってる」
即答された。どうやら災難なのはその魔女様らしい。
……しかし、こんな良い男に想われている魔女様とは、一体どんな女だろうか?
まぁ確実なのは、とびっきりの美人で、胸も尻も最高の女だろうが。
◆◆◆
無事に年を越して、私の異世界生活は三十一年目を迎えた。朝食中に執事サリエルから告げられた、私の体の真実。
思わず「冗談だろ?」と言いたいが……だがそれよりも、天使の吐いた言葉への答えが出てしまった。
「神と人間の子供が何になるって……いや、人間じゃん?」
「その通りです」
パンケーキを食べながら、私は目の前にいる執事サリエルの言葉に呆れた声を出す。
隣の椅子に座りながら、同じく聞いていたレヴィスは、果物ナイフでリンゴの皮を剥きながら、私へ顔を引き攣らせた。
「まさか主が、神の子供なんてな」
「神の子供って珍しいの?前の世界には神の子の伝説沢山あったけど?」
「ああいうのは殆ど天使の子供だ。俺は相当生きてるが、本物の神の子供なんて初めて見た」
「へぇー私凄いんだね。実感ないけど」
「凄い凄い。……悪魔は、純粋な人間を汚すのが最高の快楽だ。汚れない神の子供なんて、そりゃあ旨いわけだ」
「……まぁ汚れないってのは、ギリギリセーフだけどね」
レヴィスは、皮が剥けた林檎を口に押し込みながら、うっとりと私の顔を見つめてくる。突っ込みすぎて口が苦しい。
「創造主の子供って事は、多少は他の人間と作りが違うんだろ?じゃあ俺との子供もつくれたりするんじゃないか?番になれたりするのか?」
「私に竜を産めと?」
もし私が本当に神の子で、なんやかんや悪魔との間に子供がつくれる体だったとしても、流石に竜は無理だ。腹がいくつあっても足りない。
レヴィスの言葉にやや眉を顰めたサリエルだったが、何も言わずに今日の新聞と号外を差し出した。それを受け取り、既に知っている号外の内容に苦笑いをする。
「神の子供だの、ご主人様の生まれ方はどうでもいいです。それよりもこの暴動をどうにかしなくては」
「私が聖女認定されるかも、だっけ?こんな爛れた生活してる私がねぇ、ジョークでも笑えない」
聖女様ってのは、もっと清らかで美しい、蚊も殺せない女性だろ?私は問答無用で蚊は殺すし、人は騙すし、酒に酔って暴れるし、悪魔にしょっちゅう弄られている。早く処女喪失したくてウズウズしているし……そんな女が聖女様だぁ?馬鹿か?
「ご主人様は聖女になれば、確実にクソと番になってしまうでしょう」
「もう殿下がクソになってる」
「今日のクソとの茶会で、クソの真意を確かめて下さい。万が一記憶を消す可能性も考えて、今日は僕がお供に行きます」
「いいけど、殿下の前では頼むからクソって言わないでね」
再びレヴィスによって林檎を口に突っ込まれる。突っ込み方が乱暴なので、どうやらレヴィスも頭にきているらしい。だがレヴィスよりもサリエルの方が酷い。情報源が天使からってのもあるかもしれないが。
この前の年越しで、元同僚のゲイブからこの話を聞いたらしいが……あの天使は何がしたいんだ?今度ウィンター家にでも行ってくるか。
〜ちまちま自己紹介〜
エドガー・レントラー 30歳//身長180前半
⇨中央区では名のしれた商人。お飾り公爵もしている。敗戦した他国の貴族を母に持つ為肌の色が褐色。商人なりたては相当苦労したらしいが、すぐに頭角を現したらしい。
幼少期にイヴリンに偶然であっており、それによって被虐性癖を持ってしまった可哀想な男。中央区の情報を与える代わりに色々イヴリンにやらかしている。本人は純粋な恋心だと思ってるから怖い。
好きな食べ物はマカロン、嫌いな食べ物は辛いもの全般




