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80 見てないで助けろ

ちまちま自己紹介を追加しました。


 体に当たる硬い感触に、動けばガチャリと鳴る音。……ここは何処だ?


 確か海辺で、不審な男と会おうとしていたイヴリンと待ち合わせていた筈だ。

 ……だが、そこからの記憶が全くない。抜け落ちている。


 現在、どうやら僕は床に寝転んでいるらしい。少し動けば音が鳴るので、下に何かが敷き詰められているのだろう。


 

 気配を感じ、ゆっくりと目を開ける。目の前には僕を見下ろすように、あの黒髪の男性が立っていた。

 ウリエルは僕へ、顔を歪ませて笑った。

 


「気の遠くなる歳月を過ごして、漸く私は成し遂げる事が出来る」

「……っ」



 この狂った男に、すぐ言い返す言葉が思いつかない。


 この男は、出会った時から気狂だった。王の紋章を持っているとはいえ、僕の先祖だの血筋だのと意味不明な事を言っていたのだ。揶揄っているのだろう。……正直すぐに近衛兵を呼ぼうとしたが、それが出来なかったのはイヴリンの反応だった。


 男の言葉、超自然的な事を信じた彼女は、夜中にこの男と会うと約束を取り付けてしまった。……しかもその為に、僕の伴侶だと嘘までついて。……彼女の純粋な所は非常に好感を持つが、いささか純粋すぎやしないか?心配になる。


 しかし、あんな眩しい笑顔の彼女に「偽物だ」なんて言える訳が無い。それに確信して男を否定出来る理由もないのだ。だから僕も、彼女の話にあわせて男を信じるフリをした。剣も習っているし、彼女位なら守れる自信があったのだ。……今では、後悔しかないが。


 取り敢えず寝転んだ状態のままでは何も出来ない。僕は体を起き上がらせようと、地面に手を付く。

 ……その時、手を付いた箇所がやけに柔らかな感触だった。それと同時に意識が鮮明になっていき、強烈な腐敗の匂いに呼吸が止まる。


 僕は、ゆっくりと地面に目線を向けた。





 下には、顔が腐り溶けている人間がいた。

 人間、いや死体はそれだけじゃない。あたり一面に骨や、一部が欠けた死体が敷き詰められている。




 僕はその光景に、胃のものを全て吐き出しそうになるのを必死で抑えた。



「………っ、なん、なんだ……これは……」

「悪魔共へ鉄槌を起こす為の、尊い犠牲だ」


 目の前でしゃがみ、腐った顔を撫でながら、笑顔で応える男に恐怖が募った。


 助けを呼ぼうと周りを見ても、古い木造の部屋には窓がない。それに先程から波の打ち付ける音と、床が揺れる感覚がある。


 ……ここは、船の中なのだろう。それも木造で出来た船など時代遅れすぎる。我が国のものではない。……とするとこの男は、敵国の人間か?

 目の前の男を睨みつけ、僕は今度こそ体を起き上がらせる。


「……お前は一体誰に、僕を捕らえる命令をされたんだ?」


 強い言葉でそう問えば、男は目を大きく開いた。そのまま小さく、独り言の様に声を漏らす。


「命令?……ああそうか、いや、命令だ。そうだ命令なんだ」


 死体を撫でた手で、自分の頭を掻き毟りながら唱え、目はどんどん虚になっていく。

 あまりの狂気染みた行動に一歩後ろへ下がれば、床に散らばる骨が小さく音を鳴らした。


 その音に気づいた男は、虚ろな目を此方に向けた。



「……これは主が私へ与えた試練だ。この試練を成し遂げれば、主は私を再びお側に置いてくれる……主は再び私に!翼を与えて下さる!!」




 狂気を含んだ笑みを溢しながら、男は見えない天に向かって叫んだ。

 

 やがて男は、此方へ恍惚とした表情を向けながら……腰に付けていた、錆びれた短剣を向けた。




◆◆◆




 海に浮かぶ巨大な船、それはかつて、初代国王ウィリエ・ルドニア……いや、天使ウリエルがこの大地へやってきた際に使われたもの。

 戦争という、数多の負と涙で汚染された船。あの中には恐らく、六十年前からこの領地で行われた虐殺、その大量の遺体が乗せられているのだろう。


 可能性としては考えていたが、まさか本当に屋敷の右側、庭の下に巨大な船が隠されているとは。敵側が出てきてくれたのは幸運だ。だが海に逃げられるとは。


「……っていうか殿下を海から、どう助ければいいんだ」


 小さく呟いた独り言に、後ろで聞いていたレヴィスが意地悪そうに笑う。


「何言ってるんだ主、海に逃げてくれて最高じゃないか」

「え?………あー………」


 レヴィスの言っている意味が分かった。

 私は真顔で、奴に向かって親指を立たせる。


「よし!殿下の救出頼んだ!!」

「了解。危ないから、岸から離れてろよ。……フォル、一緒に行くか?主にいいトコ見せるチャンスだぞ?」

「行くぅ!!」


 フォルは嬉しそうにレヴィスの元へ駆け寄り、奴に頭を乱暴に撫でられている。

 他の使用人達やゲイブは私達の会話を分かっている様だが、パトリックは困惑した表情で周りを見ている。……まぁ、見た方が早いだろう。取り敢えず危ないのでここから離れなくては。


 私はパトリックの元へ向かい、首を傾げる彼の腕を引っ張る。されるままに引き摺られるパトリックは、こちらへ慌てて声を荒げた。


「イヴリン!?」

「パトリック様、危ないから離れましょう。ステラ手伝って〜」

「はーい!」


 嬉しそうに駆け寄ってきたステラは、私が掴む反対側のパトリックの腕を掴むと勢いよく引っ張る。ステラの方が力が強いのか、急に重さが変わった。

 女子二人にされるままに岸から離れさせられ、パトリックはプライドが傷ついているのか表情が曇っていく。


「何なんだ!?何が危ないんだ!?」

「見たら分かりますから」

「説明しろ!あと引っ張るな!!」

「童貞は黙っててー」

「おい見習い!そのあだ名はやめろ!!」


 暴れられながらも、無事に安全な場所までパトリックを運ぶ。止まれば掴んだ腕を勢い良く振られ、反動で私とステラの手はパトリックから離れた。全く、短気な童貞だな。


 私達の光景を岸で見ていたレヴィスは、軽く笑いながら背伸びをする。体操が終われば、嬉しそうなフォルと共に海へ入って行った。それを後ろから見ていた、サリエルとケリスはじっとりとした目線を奴に向けながら口を開く。


「レヴィス、クソ王子ごと燃やすなよ」

「五体満足よ、レヴィス」

「分かった分かった」


 レヴィスは背中を向けたまま、返事と共に手を軽く上げた。

 やがて二人は海に浸かっていき、最後には自ら潜っていった。



 



 



 二人が潜ってすぐに、海波が荒々しく揺れ動き始める。


 津波が起ころうとしている様に引き潮が起き、同時に晴れていた天気も曇りがかっていった。


 突然の異常気象にパトリックは目を見開いた。

 理由が知りたいのか、横から私の肩を掴んで顔を向けさせてくる。


「イヴリン!これは一体」


 

 恐らく「これは一体何なんだ?」と言っていたのだろうか?

 だがそれは、突然の爆発音によって聞こえなかった。



 爆発音と共に、海から出てきたのは竜だった。それも恐ろしい程巨大で、まるで物語に出てくる災いを起こす化け物の様だ。いっそ神々しさが出ている。


 先程まで巨大だと思っていた方舟も、竜の登場により小さく見えてしまう。それ位の大きさと威厳、そして恐怖を持っている。

 恐ろしい化け物の登場で、屋敷から出てきていた他の人間がつん裂く様な悲鳴を上げた。



 まさかこの神々しい化け物竜の正体が、あのレヴィスさんだとは誰も思わないだろう。ほら料理長、そんな口から泡出さないでよく見なさい。君が求めていたレヴィスだよ? 

 

 ……パトリックは何となく察しているのか、やや顔を引き攣りながら竜を見ていた。相変わらず聡い男だ。



 海の支配者レヴィアタンは、地鳴りが聞こえる程の勢いで方舟へ向かった。

そしてたどり着いた方舟に顔を向け、煙の出る口を大きく開けた。……えっ、開けた?


「ちょっと待って!?レヴィスさん!?」


 慌てて叫んだ私の静止も聞こえないのか、レヴィアタンはそのまま方舟に大きく息を吐く。

 口から吐かれた膨大な炎は、方舟をあっという間に包み込んでいった。つまり方舟を燃やしている。完璧に燃やしている。なんなら燃料に火が回ったのか方舟から爆発音も聞こえる。

 


 とんでもない暴挙に呆然としていると、側で見ていたサリエルとケリスがため息を吐いた。


「クソ魚……」

「馬鹿だわ……」


 その声に意識を戻した私は、奴らに向かって怒号を上げた。



「お前らため息吐いてないで行けええええ!!殿下助けろ馬鹿ーーーーー!!!」






 

〜ちまちま自己紹介〜


フォル(フォルネウス)外見年齢8歳//身長120後半

⇨屋敷の見習い使用人(30年目)常にステラと行動し、部屋も一緒。基本的には癒やし要員。どんな人にも好かれる能力を持っている。ご主人様にとって、癒やしの存在だということを自分でも分かってるので恐ろしい。ご主人さま大好きぃ、ご主人さまに甘えたぁい。という欲求が大きいので、他悪魔達のように純潔とかには拘っていない。でも色々な意味で食べたいのは他と変わらない。

素の姿は醜い鮫。レヴィス程ではないが水も操れる。

好きな部位は足(膝下)、嫌いな部位は腿

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