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77 後始末


 最悪だ。これ以上の言葉がない。

 大国の王太子、次期王との約束を裏切ってしまった。完全に完璧に素晴らしく裏切ってしまった。


 開けっぱなしの窓からは、朝の清々しい光と海風が部屋に入り込んでくる。だがそんな清々しさとは真逆で、部屋の中は脱ぎ散らかされた使用人服、後引き千切られた私のドレスが床に散らばっている。お気に入りだったのに。


 現在私はベッドの上で寝転がっているのだが、身動きが出来ない。

 それは右側にサリエル、左側にレヴィスが体に引っ付いているのと、胴体にケリスがへばり付いているのが関係しているだろう。両側と前に美形まみれすぎて、もう朝日よりも眩しい。


「……最悪の目覚めだ」


 つい自然にその言葉が出てしまった。

 この状況をどうすれば良いのか悩んでいると、部屋の扉が控えめにノックされた。


 返事も聞かずに開けられた扉からは、しっかり使用人服を着ているフォルとステラが、二人で協力しながらサービングカートでモーニングティーと朝食を持って来た。

 私が起きていると分かると、二人とも可愛い笑顔を向けてくれる。


「ご主人さま、朝だよぉ……」

「おはよーございまーす。きのうレヴィスが準備してたの、あっためてもってきたよー……」


 馬鹿悪魔三人を起こさない様になのか、フォルとステラは小声でベッド脇までやって来た。配慮の塊かな?

 

 二人の厚意を無駄にはしたくない。馬鹿共を起こさない様にゆっくりと動く。

 ステラに手伝ってもらいながら如何にか魑魅魍魎のベッドから抜けると、窓の近くに置かれている椅子に座った。側のテーブルには既にフォルが紅茶と朝食を並べてくれている。今日のオムレツは、匂いからして中にチーズが入ってる様だ。


「ご主人さま疲れてるでしょ?僕が食べさせてあげるからねぇ」

「あ、ずるい。私も次やるのー」


 コソコソと呟きながら、フォルはスプーンに朝食のオムレツを一口分のせて差し出す。昨夜の事が全て洗い流されるような癒しの二人に、私は思わず涙が出そうになった。


「ありがとう。フォル、ステラ」


 疲れすぎて掠れた声で感謝を伝えながら、私は天使のような悪魔に向けて口を開いた。

 二人は私の表情を見て、心から嬉しそうに笑いかけた。


「きのう楽しかったねぇ、ご主人さま」

「また五人でやろうねー」

「絶対に嫌だ」



 天使は舌打ちをした。







《 77 後始末 》






 取り敢えず、昨夜の事をルークに謝らなくてはならない。とても失礼な事をしてしまったが、優しい彼なら許してくれるだろう。


 ……しかし最近のルークは好意を全く隠さないし、若干腹黒さも出始めてきた。もしかしたらこの問題を大きく取り上げ、無理矢理婚約者にしてくるか……いやそれはないか、陛下ならしそうだが流石にルークはない。そこまで性格悪くない。




 そんな事を考えながら、ルークの部屋へ向かう為に廊下を歩いていると、向かいからパトリックが慌てた様子で、側にいた近衛兵に何か指示を出している。

 一体何があったのだと怪訝そうに見ていると、パトリックは此方に気づいたのか、早歩きで目の前までやって来た。


「イヴリン!殿下をお見かけしなかったか!?」

「殿下?」

「早朝から誰も見ていないんだ。部屋も窓が開けられていて抜け出した跡がある」

「……えっ」


 まさか、てっきり私が居ないから部屋に戻っただろうと……いや、そうか。そもそもウリエルが望んでいたのは自分の血筋、王族のルークだけだ。私はオマケみたいなもので、海辺にルークが居ればウリエルは気にせず案内しただろう。


 ルークも見た目と言動が落ち着いているが、まだ十五歳の子供だ。伝説の方舟に隠された「心臓」なんて、私以上にルークは興味を唆られているだろう。

 思わずパトリックの前で舌打ちをしながら、目線を下に落とす。


「ああもう、あいつらに何も聞かずに、さっさと殿下の所へ行けばよかった」

「殿下の場所に心当たりがあるのか!?」


 溢した独り言にパトリックは反応し、険しい表情をしながら両肩を掴んでくる。


「ここでは人に聞かれます。場所を変えて話しましょう」

「……人に聞かれると不味いという事は、また悪魔関係の事か」

「少し違いますが、まぁそんなもんです」


 私が肯定すると、パトリックは後ろにいた近衛兵へ捜索の命令を出した。近衛兵が離れていくと、そのまま私の腕を掴みながら廊下を歩いていく。

 パトリックは顔は向けずに此方へ話しかけた。


「お前の部屋はここから近いな?」

「え!?私の部屋ですか!?」

「悪魔関係なら殿下の身が危険だ、すぐに話を聞きたい」


 彼の言葉は最もだが、それでも今私の部屋に来てもらう訳にはいかない!なんとか軌道修正しようと、必死にパトリックを引っ張る。


「今私の部屋は無理なんです!べ、別の部屋に!!」

「部屋が汚い位気にしない。弟の部屋で見慣れてる」

「い、いや違うんです!!そういうのじゃなくて!!」


 流石に若い男の力には負けるのか、私が引っ張っている力以上の力で前へ進んでいく。本当に融通が効かない!!



 やがて私の部屋に着くと、パトリックはノックもなしに扉を思いっきり開けた。



 が、部屋の中の光景を見て、童貞は固まった。





「ケリス、僕の下着を知らないか?見当たらないんだ」

「サリエルの?こっちに飛んでるわよ」

「助かった。お前の下着はこっちだ、ほら」

「そ、それはご主人様の下着じゃない!!早くこっちに寄越しなさい!!」

「お前がその涎を拭いたらな」


「レヴィス!もう朝だから起きてよぉ!」

「…………あと五分……」

「それ言うの三回目だよー!せめて服着てよー!!」

「うるさい……寝かせてくれ……」

「もぉ!もう直ぐ昼食の準備だよぉ!」

「ご主人さまが、豚の作ったご飯食べていいのー!?」

「良くない……起きる……」





 部屋の中では、脱ぎ散らかした服を拾い着始めているサリエルとケリスと、フォルとステラに急かされながらも、まだ全裸でベッドで寝ているレヴィスがいた。

 あまりの光景に固まりっぱなしのパトリックだったが、此方の存在に気付いたサリエルが、シャツを着ながら顔を向ける。が肝心の下着は履いてない。隠せよ。


「……ご主人様、今度はその悪魔もどきと浮気ですか?昨夜だけでは足りませんでしたか?」


 サリエルの「浮気」ワードに反応したレヴィスが、勢いよく上半身を起こして睨みつける。まだ下着を履いただけのケリスも、鼻息荒く顔を引き攣らせる。服着ろ馬鹿共。


「主、アンタがまだ女も知らないガキで満足出来る訳ないだろ?こっち来いよまた相手してやるから」

「ご主人様!また蕩ける様な事を私といたしましょう?お許し頂けるなら何処までもお相手いたしますわ!」




 腕を握るパトリックの手が強く震えている。故に今すぐ走って逃げ出したいができない。

 最悪の出来事に、冷や汗が全身から噴き出していく。


 パトリックは暫くすると、ゆっくりと此方に振り向く。

 彼は青筋を立てた額を見せながら、背筋が凍るほどの目線を向けた。



「……おい、仮にも公爵家の別宅で何をしていた?」

「こっ、これには深い理由が」

「何をしていたんだ?」



 パトリックが恐怖の魔王になった。私は自分の命が惜しいので、素直に早口にウリエルの出会いから昨夜までの事を話した。それはもう早口にキビキビと話した。


 全てを聴き終わった後、パトリックはほぼ裸の悪魔達に向かって「主を敬え!働け!広い心を持て!!」と叫んでいた。全くその通りである。







〜ちまちま自己紹介〜


サリエル(サマエル)外見年齢23歳//身長180前半

⇨元熾天使。色々あって悪魔になった。イヴリンを一番最初に見つけ、絶対に自分の所有物にしたかったので契約(ほぼ無理矢理)を結んだ。頭良さそうに見えるが脳筋、全てを物理攻撃で済ませようとする。

⇨本来の姿は蛇の皮膚で、尻尾もちゃんとあるし、牙から毒も出せる。舌も人間のように変える事もできるが、色々使えるのでそのままにしている。

⇨好きな部位は血、嫌いな部位は舌(イヴリン除く)



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裸の悪魔たち>>>殿下の行方 童貞だしね(笑)
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