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76 反省



 


 あっという間に時間は過ぎていき、無事に領民達との蟠りを解消したルークは旧ハリス邸に戻った。

 ゲイブは大喜びしてルークへ感謝し、夕飯もお祝いで豪華なものだった。


 ちなみに夕食はレヴィスが作ったのだが、この屋敷の料理長が奴の手捌きを見て感動し、私の居ない隙に引き抜こうとしたらしい。

 ケリスの話によれば、レヴィスは今の給料の三倍払うと交渉を受けたらしい。だが奴は「ご主人様の体で支払ってもらってますので」と良い笑顔で断りやがった。お陰でレヴィスさんは、私の愛人だと屋敷中で噂になっている。ひどい。




 ……まぁ、そんな事よりも今の現状だ。


 今現在、私の周りにはとんでもない殺気を出す五人の使用人達がいる。何人殺ってきた?という位の殺気と共に、あちらこちらから舌打ちと歯軋りの音が聞こえる。怖い。


 無表情の癖に、一番歯軋りの音が大きいサリエルが口を開いた。


「ご主人様、今「ウリエルに出会った」とおっしゃいましたか?」

「そうだけど、おっしゃった途端に何故縛る?」


 人生で、ここまで使用人に縛られる主人はいないだろう。今回は椅子に縛られている訳ではないが、手首を縛られベッドの柱にくくりつけられている。足だけは動かせれるが、それでもこの状況から逃げれるとは思えない。



 私がこうなったのも謎の男、ウリエルの所為だ。

 

 

 正直あの男の存在の仮定は考えているが、情報が少なすぎて完全には確信が出来ない。決定的な情報がほしい。

 そういえば、この屋敷が「方舟」と呼ばれているのもサリエルは知っていたし、他の悪魔にも聞けばあの男の事が分かるのではないだろうか?

 ……そう思い夕食後、私に構って欲しさに集まってきていた使用人悪魔達に「ウリエルって人に会ったんだけどぉ〜知ってる〜?」と軽く聞いたのだ。

 けど聞いたらこれだぜ?吃驚だろ?こんなんでも一応主人なんだぜ?


 少し離れているのに聞こえる、椅子に座るレヴィスさんのブチブチという音、多分血管が切れている音なのだろう。ちょっと音鳴りすぎて心配になる。

 レヴィスは音を鳴らしながら此方へ近づき、ベッドに腰掛け拘束された私の足をドレス越しで触った。


「もう駄目だ。足の筋を切ろう。そうすれば歩けなくなるから、勝手に変な縁を作らなくなる」

「なるほどぉ!レヴィス頭いいねぇ!」

「頭いーい!」

「馬鹿馬鹿馬鹿」


 なんてこった、血管切れすぎて頭がイカれてやがる。拘束された状態で暴れレヴィスから離れそうとするが、足を思いっきり鷲掴みされて阻止された。奴はそのまま足に顔を擦り寄らせるのだが……キレ散らかしている癖に、何故そんなに色気が有るんだ。

 レヴィスは足を見つめ、大人の色気たっぷりにため息を溢した。


「でも、最中に足で抵抗してくる主が見れなくなるのも嫌だな……まぁその時だけまた治せばいいか」


 倫理もクソもないぶっ飛んだ提案が聞こえた。

 だがそれを聞いたサリエルは頷いた。


「そうだな、治してまた切ってを繰り返せばいい。……だが、足が動かずにされるままで、悶えるご主人様も興奮するんじゃないか?」

「確かにそれは唆る」


 何でこういう時だけ仲良いんだよお前ら。……ケリス、奥でうんうんと嬉しそうに頷いているの、見えてるからね?涎も止めてね?イッちゃってる目も駄目だよ?


 取り敢えずこの状況を変えよう。このまま行くと私の足が動かなくなってしまう。縄で縛られながらも必死で上半身を起こす。下半身はもう、レヴィスが離れないから好きにしてくれ。


「ウリエルって人、そんなにお前達に毛嫌いされてるって事は……天使でしょ?」


 何も返事はない、肯定だろう。であれば、やはり私が仮定した答えは真実だったらしい。

 無言の圧を向ける使用人悪魔達へ、私は嘲笑う様な表情を見せつけた。


「本名がウリエルだからウィリエ・ルドニアか。お前達よりもよっぽど凝った名前だ」



 非公開の王の紋章を持ち、ルークを「血を受け継いだ者」と呼んだ。それが正しいのであれば男は王族だ。だが私はあんな男は知らない。

 服装も小汚いものだが、よく見れば歴史書に載っていた建国当時の民族衣装だ。となればもしや、この男が王族だったのは相当な昔なのでは?

 悪魔のステラにも見えなかった。だが私とルーク二人に見えるので幻ではない。となれば何かの術を使っているのだろう。……悪魔には悪魔の術は効かない。天使なら別だが。


 この時代にそぐわない服装、術を使える、王の紋章を持ち、ルークを血を継いだ者と呼ぶ。

 この地で囁かれるウィリエの噂。それが真実であれば、そして彼が寿命のない天使であるなら全てに辻褄が合う。


 その結果、ウリエルと名乗る男が初代ルドニア王、ウィリエ・ルドニアだと仮定付けたのだ。

 まさか歴史の有名人に出会えるとは、前の世界では考えられない事で吃驚だ。


 サリエルは顔色は無表情のまま、小さくため息をついた。

 

 


「……どれだけいい名前を付けようとも、僕達は兎も角、天使側は「裏切り者」と呼ぶでしょうが」

「裏切り者?」


 どういう意味なのか分からず首を傾げていると、足に触れていたレヴィスが一回指を鳴らす。直後に手首の縄の感触が消えたので、拘束が解かれたのだろう。


「大昔、この世界で地獄と天界の戦争があったんだ。確か、そのウリエルって奴は天界の最終兵器?をこっそり盗んで、船で逃げたんだったか?」

「味方の武器を盗んだの?何を?」

「俺も何かまでは知らない。けどその天使がそれを盗んだお陰で、戦争は地獄が勝ったんだ。……あー、あの時は本当に大変だった。どれだけ焼き殺しても、不味そうな天使がうじゃうじゃ出て来たんだ」

「天使を虫みたいに言わなくても……」


 思わず顔を引き攣ってしまうが……成程。昔から何となく気になっていた、この世界の悪魔の異常な多さの理由がようやく分かった。


 大昔の地獄と天界の戦争で、この世界では地獄が勝利したのだ。恐らくこの世界の統治権は地獄側が持っているのだろう。天使に邪魔されずに安全に人間を狩る事が出来るのだ。悪魔にとっては楽園の様なものだ。……まぁ、その所為で違法悪魔が多く出てしまい、私がいる訳だが。


 最終兵器を盗んだ、戦争をやめさせる為にした事だろうが……それでも天界側からしたら、最終兵器を盗んだウリエルの所為で勝利を逃したのだ。しかもしれっと人間の王になっているし、そりゃあ「裏切り者」と呼ばれても致し方ない。

 自由になった腕で背伸びをすると、私は皆に笑いかける。


「って事は、旧ハリス邸に隠されている「心臓」は、その最終兵器って事か」

「その通りですが、ウリエルがこの地に隠したのは、天界も地獄も既に周知されている事。戦争も終わり条約も結ばれた今では必要ありません。……ですが、クソ伝書鳩がこの地を求めたのは、それと関係ないとは思えない」


 サリエルくんは考えている様だが、今回は違法悪魔でもないし、その答えを言う義理はない。

 私は足を弄るレヴィスを振り払い、そのままベッドから立ち上がって歩き出した。


「ちょっとお手洗い行ってくるね」


 そう笑顔で伝えて、私はお手洗いへ……ではなく別の場所へ向かう為に部屋の扉を開けた。殿下との待ち合わせの時間ももうすぐだ、早く向かわなくては。


 がその扉は直後、美しい女性の手により閉ざされ、途端に私の足には力が入らなくなる。


 床に尻餅を付いた私は、今自分に何が起きているのか数秒理解ができなかった。……だが、力が出ない足を見て察した。どうやら悪魔の術で、切る事なく足を麻痺させた様だ。うわぁ頭いーい!


 私の動かなくなった足に、後ろから扉を閉ざしたケリスが優しく撫でてくる。先程のレヴィスよりも丁寧に触れる手は、非常にくすぐったい。


「ご主人様、私達も質問があります。……その裏切り者の天使は、ご主人様と出会って何を伝えたんですか?」


 耳元で囁かれる言葉は、普段のケリスとは違う声色だ。美しいが怖い。


「……えっ、何、を?」

「先程、ご主人様は「ウィリエ・ルドニアがウリエルだ」と確信されていましたが……私達は「ウリエルは天使だ」としか肯定しておりません。ですのに何故そこまで確信できるのですか?」

「……」


 ケリスの言葉に、後ろにいた残りの悪魔達が反応する。なんて事だ、まさかケリスがここまで頭が良いとは。引き攣る顔を必死に抑えながら、それでも冷や汗は止められない。

 

 大ピンチだ。しかし海辺の事は言うわけにはいかない。言ったら確実に、この執着の塊の様な悪魔達が面倒な事になる。



 必死に弁解を考えていると、可愛らしい足音を鳴らしながらステラが目の前に現れた。

 ステラはとびっきりの笑顔を向けると、エメラルドの瞳で真っ直ぐ私を見つめる。

 

 逸らすことができないその瞳を見ていると、体から力が抜ける気がした。

 

「ご主人さま、ウリエルに何を言われたの?」

「心臓の場所を教えるから、深夜に殿下と共に海辺に来てほしいって言われました」

「どうして殿下も一緒なの?」

「ウリエルはずっとこの領地で、自分の血を引き継いだルドニアの王族が来るのを待っていたと。心臓の場所は、その血を引き継いだ者にしか開けられないらしいです。その話を聞いて、私はウリエルがウィリエではと仮定し、確認するためにお前達へ聞きました」

「うん?じゃあ何で、ご主人さまも来てほしいってウリエルは言ったのー?」

「前回の狩猟大会での私の行動を見ていたらしく、悪魔を従えながら善を行う私を評価しているそうです。あと昨日殿下と海辺でイチャついてるのを見てたそうで、ウリエルに殿下の番だと思われています」

「…………ふーん。ウリエルに王子さまのツガイだって誤解されてるのに、ちがうって言わなかったのー?」

「殿下が一人で行動するのも心配ですし、ウリエルの言う「心臓」が何なのか非常に興味があったので、むしろ肯定しました。肯定した時の殿下の反応は、とても可愛かったです」


 勝手に口が動き、ステラが質問した答えを全て声に出してしまった。しかも感想もおまけにつけている。ふざけんな。

 その答えに、足に触れるケリスの手は怒りで小刻みに震えているし、後ろから威嚇の様な唸り声が聞こえる。


「お手洗いって嘘ついて、どこ行こうとしたのぉ?」

「可愛いクソガキの所に、浮気しに行くんだろ?昨日クソガキと何したら番だって勘違いされるんだ?俺達にも同じ事してくれよ」


 絶対に後ろは見てはいけない。恐怖で漏らす。しかし前のステラも不気味な笑みを向けていて怖い。全身を震わせながら、せめて視覚からの恐怖を抑えようと目を瞑る。


 目を瞑った時、後ろから革靴を鳴らしながら誰かが目の前にやって来た様だ。そのまま誰かは、私の唇に指でゆっくりと触れる。

 ……その途端、足の麻痺が全身に駆け巡り、私は座り込む事も出来ずに床に寝転がった。


「契約内容に、契約者を保護下に置く内容があります。しかし自ら危険な場所へ行こうとしているご主人様を、どう止めれば守れますか?」


 耳元からサリエルくんの静かな声が聞こえる。耳に触れるニュルニュルとしたものは奴の舌だろうか?ミミズみたいだ。


「サ、サリエ……」

「ご主人様を守る為に、多少は無理矢理でも止める事は契約内ですよね?怪我さえさせなければ危害じゃないですよね?そうですよね?」


 サリエルくんが物凄い早口で耳元で囁いてくる言葉が、どんどん小さく聞こえてくる。おそらく意識が遠のいているのだろう。


 それと同時に無数の手が体に触れる感触、そして興奮した息遣いが聞こえる。


 いや、止める事はいいが、もっとこう止め方違うのがあるだろうよ。



 





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― 新着の感想 ―
体で払ってる……まぁ……確かに…… ケリスさん嫉妬深い破廉恥淫乱メイドと思っていたけど、意外に直情型サリエルくんより冷静なとこあるのね  (( ̄_|
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