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閑話 束の間の休息、をしたかった


 北区の事件も無事に終わり、屋敷の窓からも雪景色が見える様になった。

 この地域は中央区よりも雪の積もる量が多いし冷え込む。フォルとステラ、レヴィスが昨日は森から薪を大量にとってきていた。もうすっかり冬だ。


 故に朝は益々ベッドから離れられない。本当は一日中篭っていたいが、私の体調を一番気にする悪魔共はそんな事させてくれない。


 それもこれも、いつでも美味しく食べれる状態にする為だ。ふざけんな絶対に負けないぞ馬鹿共め。







「起きてくださいご主人様。朝です」


 今日起こしに来たのはサリエルの様だ。声を出しながらカチャカチャと食器の音が聞こえる。おそらく毎朝飲んでいる白湯の準備をしているのだろう。


 大きく欠伸をしながら起き上がれば、相変わらず引く程の美形っぷりのサリエルが白湯の入ったグラスを渡した。

 受け取り喉に通せば、輪切りで入れられている檸檬が後味さっぱりで美味しい。思わず顔もほころび目も覚める。


「お早うサリエル。今日はいつもより早いね?もう朝ごはんできたの?」

「お早うございます。いえ、朝食は後三十分後です」


 空のグラスを受け取ったサリエルは答える。…………うん?何故に早起きさせられた?


 グラスをサイドテーブル上のトレーに置いた奴は、普段通りの無表情でベッドによじ上ってくる。

 その意味不明な行動に嫌な予感がした私は、ベッドから出ようと体を動かしたが、それはサリエルの手によって止められた。えっ、起こしに来たんじゃないの?


「サ、サリエル?」

「クソ魚が自慢してきたんです。ご主人様が裸で擦り寄り、何度も口付けをしてくれたと……しかも対価もなしで。過去にもされているとか」

「げっ」


 はい予感的中。はい!こんなに早く起こしに来た意味が!判明しましたね!!


 腕と逃げる足を掴み、サリエルの体にズルズルと吸い込まれていく。なんとか逃げようともがいても、胸を突き刺し心臓を抉る馬鹿力サリエルには負ける。


 そのまま抱き込まれぐるりと反転されれば、私が覆いかぶさっている状況になってしまった。意味わからん。レヴィスといい、お前らこの体制好きだな。


「クソ魚に出来るなら僕にも出来ますよね?してください」

「いやいやいや!あの時はその、こう雰囲気の流れと言いますか!」

「出来れば、僕がいつもしてる様な口付けをして頂けると、とても嬉しいのですが」

「話を聞け!!まずは話を聞けお前は!!」


 この脳筋悪魔め。いつものサリエルくんがするやつだぁ?玄人すぎて、足ガッタガタする程なんざ出来る訳ないだろ!!処女を舐めるなよ!!


「この三十年、僕からする事はあれどご主人様からなんて一度もありません。前なんて、ダサいティーカップを条件でしかさせてくれませんでしたよね?」

「ダサい!?」

「あの悪魔にはして、僕にしない理由は何だ?」


 段々感情的になってきたのか、前の時の様に言葉遣いが変わっていった。

 顔もどんどん取り繕うのを止めていき、悔しさで歪んだ表情になっていく。とんだわがまま悪魔だ。



 ……なんだかそんなサリエルを見て、私は呆れを通り越して滑稽に思えてきた。



 三十年この悪魔達と過ごしているが、最初の頃よりも更に執着心が強くなったのは知っていた。

 特にサリエルとレヴィスは異常な程だ。奴等のせいで、私は早く喪失したいのに処女のままだ。周りで後腐れなく処女貰ってくれそうな、経験豊富な紳士達がいるのに。


 悪魔片一方と体を合わせれば、残りが怒りに狂うのが目に見えている。この二人以外、人間でならもう最悪だ。目の前で引き裂かれるだろう。やってられねぇ。



「本当、とんでもない悪魔と契約したもんだ……」

「僕の話を聞いているのか」

「聞いてるからこその発言だよ」


 私は不貞腐れながら、サリエルの整えられた黒髪を撫でる。髪が崩れるのが嫌なのか、奴は眉間に皺が寄っている。離れようとするのはもっと嫌なのか、腰には手が添えられる。

 途方もなく私よりも生きている癖に、本当にこの悪魔も他も幼い。



 別に、サリエルのお願いは契約ではない。故にしなくてもいい。



 だがまぁ、私に口付けされた事なくて、不貞腐れてる姿はちょっと可愛い。


 ……ああ駄目だ、レヴィスの時といい、悪魔に情をかけるなんて。自分を喰おうとしてるのに。


「あー……静まれ、私の庇護欲」

「君、今何を考えてる」



 右手を差し出してくるので、おそらくいつもの様に頭を掴もうとしているのだろう。

 私はそれを軽く手で払いながら、顔を近づけサリエルと唇を合わせた。



 悪いが、奴が望んでいる様な玄人のものは出来ない。軽い、子供の様なものだ。それでも払った右手は力無く下ろされていく。




 暫くして唇を離せば、目の前に物凄い息遣いが荒いサリエルくんがいた。しかも鼻血出してるし。えっ、なにその顔、怖い怖い怖い。

 奴は鼻血を出し続けながら、熱のこもったため息を溢す。


「っ……はぁ…………最高だ……」

「ヒイッ」


 



 そこでようやく思い出した。契約当初、サリエルはめちゃくちゃ感情豊かだった。


 後ろから興奮した鼻息は通常運転で、対価の時なんざ、お前薬やってるのかと言いたくなる程だった。

 当時の純粋無垢な私は、そんなサリエルが怖すぎて全力で避けていた。全力で逃げ回った。

 ……そうだ。そこからこの悪魔は無表情を貫く様になったんだ。あまりにも昔すぎるし、今のサリエルが慣れすぎて忘れてた。



 どうやら、初めて口付けられた興奮で、あの時のサリエルが戻ってしまったらしい。最近はよく興奮している姿を見るが、それでも今の姿はそれ以上……もう発情期の犬、いや蛇だ。


 えぇ、おま……口付け如きでぇ?今まで私とやる事やってんじゃんよぉ。攻められるの初めてちゃんかよぉ?

 

「サリエル、もうやったから離してよ」


 そう言いながら離れようとするが、腰を掴む手が強くなった。


「まだ一回だろう?クソ魚には何回したんだ?」

「いや、まずは鼻血止めようよ」

「ほら、次は舌を出してやるから、ちゃんとしてくれ」

「あっ駄目だ、こいつの耳イカれてやがる」


 必死に離れようと体を捩れば、今度は腰にずっしりと重い感触が襲う。

 思わず自分の腰を見れば、まるで大蛇の様な蛇の尻尾が腰に巻き付いている。


 うわぁ、これサリエルの尻尾だぁ、初めて見た〜〜すっごく長いしおっきいねぇ〜〜〜。


「……待て待て待て待てーーい!!この尻尾は契約違反でしょ!?」

「別に傷つけようとしてないだろう?尻尾の置く場所がないから、君の腰に巻き付けてるだけだ」

「嘘つけーーーーい!!お前の尻尾消せるだろ!?置く場所いらないだろ!?」

「耳がイカれてるから聞こえないな」

「テメェこのヤローーー!!!」


 先程の発言を撤回する。この悪魔は全く可愛くないし庇護欲も感じない。ただただ殴りたい衝動しか起きない。

 使っていない手を動かそうとするもお見通しなのか、冷たく滑らかなサリエルの手が掴んで離さない。やっべぇ詰んだ。


 めちゃくちゃに叫んで逃れてやろうと思うが、こんな姿を見たらあの悪魔共は俺も私もと寄ってきそうだ。過去のピーマン口移し騒動もそんな感じだった。


 

 私の考えている事を読んでいるのか、サリエルは顔を歪ませ笑っている。昔ならこの顔に恐怖を抱いていただろうが、今では悔しさしか出ない。


 挑発的に長い蛇舌を出してくる脳筋淫乱悪魔に、私は顔を引き攣らせながら大きくため息を吐く。



 次には、その蛇舌を噛み切る勢いのものをしてやった。ざまーないぜ!



 ……と思ってたら、奴は意地悪そうに笑いながら、お返しと言わんばかりのものをしてきた。

 私からやるだけじゃないのかよ。卑怯だぞ。










 口直しに再び白湯を飲む私へ、服装を整えながらサリエルが呟いた。


「言っておくが、君の全ては僕が最初に穢すし、君がどんなクソに誑かされ僕から逃げたとしても、君を必ず見つける。……そしてクソの目の前で穢す。絶対に君を僕から離れさせない」


 一周回ってプロポーズまがいの事言ってくるな、この脳筋。

 私は白湯を飲み干し、サリエルへグラスを強く差し出しながら睨んだ。



「頭の片隅に覚えておくよ。……お前が変態で、鼻血垂らす程に攻められたいと思っていた悪魔だって」



 サリエルは私の言葉に、目を大きく開き驚く。

 だがやがて、どこか嬉しそうな、薄気味悪い笑みを向けてきた。



「……その顔。契約違反した時に、どう無様に変わるのか楽しみです」




 本当に可愛くない。この悪魔。




 

次回から本当に、本当に王子様編です……!

この作品の主人公は、いい意味でも悪い意味でも欲に忠実です。

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