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6 似た顔




屋敷の中庭で、俺の作ったシフォンケーキを頬張る娘。顔を緩ませながら、味わう様に食べているその表情を見て、思わず喉が鳴りそうだ。


「ご主人様、今日はダージリンです」

「いい香り!いつも有難う」


 そんな娘へサリエルが、相変わらず無表情で淹れたお茶を渡す。娘はそれを嬉しそうに受け取った。

 娘は使用人の悪魔達に感謝を忘れた事がない。勝手に蘇らせて、無理矢理契約させたのだから、てっきり手酷く扱われると思っていたが。可笑しな契約者だ。


 三十年間、この娘は契約を守りきっている。必ず三日以内に規則違反の悪魔を見つけるし、なんだったら俺達の手を借りない事も多い。何年経っても言動は小娘だが、頭は悪くない。


 最初こそ御馳走を目の前に、犬のように待てをされているこの状況に腹が立ったが、今では一周回って心地よさが出ている。俺の作ったものを食べて、どんどん好みの体付きになる娘がたまらない。

 娘の座っているテーブルの向かいの椅子に座ると、美味しそうに頬張る姿を見ながら頬杖をついた。


「で、公爵家はどうだった?何か見つけたのか?」

「うん、夫人の部屋に髪飾りがあった」

「髪飾り?」


 言葉を繰り返す俺に、娘の隣にいたサリエルが答えた。


「レントラー家が持つ、国の西端の街にある店のものだった。宝石が買えない平民向けに作られたもので、職人が一人で作っている一点物だからか、街以外ではほとんど出回っていない」

「……貴族のご婦人が、平民の髪飾りをねぇ?」


 サリエルは「だった」と言った。つまりは奴が調べた内容なのだろう。契約者が悪魔へ調査を依頼したという事は、奴に対価を払ったのか。


 腹の底からドス黒いものが溢れてくる。それを隠すように、俺は口元に手を添えて笑う。


「主、対価はなんだ?また血か?」


 何を聞いても腹が立つ事に変わりないが、俺は娘へ質問した。……だが、その質問に娘は顔が赤くなっていく。どうしてそんな表情をするのか眉をひそめると、そのまま娘は、か細い声を出した。


「……舌を、しゃぶられた」

「………………へぇ?」


 ……口元へ手を添えていてよかった。目だけは笑えていたが、口元は怒りで歪んでしまった。顔の表情がちくはぐになった俺に気づいたのだろう、サリエルは嘲笑う様に目を細めた。……本当に、性格が悪い悪魔だ。


 まさか昨夜のケリスの言葉でか?誰も触れていないだろう箇所へ、奴が一番乗りってか?


 どうにか口元を戻した俺は、娘へ笑った。


「俺も今度の対価、舌にする」

「え!?何で!?」

「たまには変わり種もいいだろ?それに俺なら、サリエルよりもっと悦くできるぞ?」


 俺の言葉には、娘よりも先にサリエルが口を挟んだ。


「無理だな。ご主人様は僕ので、腰が立たなくなる程になったんだ」

「腰立たなくした位で偉そうに。トばす位してから威張れって」

「全く……品格もない野蛮な悪魔だな。それだからご主人様との同行が一番少ないんだぞ」

「俺が野蛮なら、お前は淫乱だな?」

「あ〜〜〜〜紅茶が不味くなる〜〜〜〜〜」


 イヴリンは顔を引き攣らせながら、品もなく紅茶を一気飲みしていた。





 ◆◆◆






 翌日、私とサリエルは髪飾りの店へ聞き込みをする為に、西端にある街へ向かった。


 近くで広大な鉱山があるからか、街の多くは宝石店だった。店の場所を知っているサリエルを前にして歩いているが、道行く人々が彼を見て立ち止まったり、頬を赤めらせている。


 確かにうちのサリエルは、まるで絵の様に整った神々しい顔をしている。なんと言えばいいのか……他の四人と比べて、悪っぽさがないというか?兎に角神聖な生き物の様に思えてしまうのだ。まぁ悪魔だけどな。しかも舌ベロベロする変態悪魔だけどな。


「ご主人様、この店です」


 サリエルはある店で立ち止まり、私へ顔を向けた。

 そこは賑やかな商店街の裏側、人通りが少ない場所にあった。看板もないこぢんまりとした煉瓦造りの店。だが店の前にあるショーウィンドウには、夫人が持っていた髪飾りと似たものが展示されている。


「サリエル」

「承知しています」


 この店の店主が、悪魔もしくは契約者の可能性もある。サリエルはいつでも攻撃ができる様に、付けていた革の手袋を取る。


 私はゆっくりと店のドアを開けた。




 ……店の中は、何個かショーケースが置かれていた。その中には、きめ細やかな硝子の細工が施された髪飾りや、ネックレスなどが置かれている。


 夫人の部屋や、外に展示されていたものから分かってはいたが、本当に美しい硝子細工だ。硝子で薔薇の花を作っている髪飾りなんて、可愛すぎるほしい。思わず見入っていると、横からサリエルの顔が近づく。


「我慢してください」

「………はい」


 うちの母、サリエルさんは財布の紐が硬い。



「いらっしゃいませ」


 穏やかな声が聞こえた。顔を向けると、ショーケースの奥にいる少年がこちらを見ていた。

 短い灰色髪に、焦茶色の目を細めて微笑んでいる少年の容姿に、私は目を見開いた。


 そんな事も知らない少年は、そのままこちらへやってくる。


「何かお探しでしょうか?」




 その少年は、レントラー公爵家長男、パトリックとよく顔が似ていた。



 


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