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 公爵夫人、アデリア・レントラー。

 彼女は一ヶ月前、自身の部屋にて何者かに首を絞められ亡くなっていた。


 中央区に屋敷を持つレントラー公爵家は、使用人の数も多く、夫人の部屋は人目が多い屋敷の中央に位置する。その為犯人を見かけた者がいるはずで、犯人探しはすぐに終わると思われた。たが予想に反して犯人の痕跡は見つからないし、目撃者もいない。


 犯人探しは難航し、夫人を亡くした悲しみで、レントラー公は毎日の様に何処かへ彷徨い歩いているそうだ。






 と、ここまでがパトリックとルークに教えてもらった事だ。というかパトリックは渋ったのでほぼルークだ。


 夫人はとても聡明な方で、貴族平民問わず優秀な者に支援もしていた。感謝こそされるが、とても恨まれるような人ではなかったそうだ。……何でそんな母親から、あんな差別主義の男が産まれたんだ?


 だが、夫人の事件の内容を話す彼らの声はノイズがかっていた。夫人の死は悪魔が関わっている。それも何か規則を犯した悪魔だ。


 屋敷に帰ると、楽しそうにフォルとステラが他の使用人へ今日の事を告げていた。皆内容に目を大きく開き、そして嬉しそうにこちらを見ている。

 ……無理もない。この三十年間、貴族の依頼もあったが公爵家は初めてだ。それに私はその家の後継者に嫌われている。つまりはろくな証拠も貰えない可能性がある。この悪魔達にとっては、今回の事件は最高の依頼なのだ。




 その晩、食堂の長机に座った私は、夕食の鮭のソテーを食べる。レヴィスの作る食事は全て絶品だが、やはり魚料理は格別だ。顔を綻ばせながら食べていると、それを見ていた使用人達は、サリエルを除いて微笑んでいた。

 左側、一番近くで座っているケリスはやや頬を赤くしながら、色っぽくため息を吐いた。


「ご主人様がお口を開ける度に見える舌、はぁ……思わずしゃぶりつきたくなりますわ」

「うん、聞こえなかった事にしておくね〜」


 これはいかん、とんでもない変態メイドだ。だがそれに頷く他の使用人達もおかしい。うちの屋敷の使用人は変態しかいないのか?悪魔って皆こんな感じなのか?

 食後のデザートで葡萄のゼリーを持ってきたレヴィスは、それを私の前に置きながら問いかけた。


「今回の依頼主、主を売女と言ったんだって?」

「げっ、なんで知ってるの?」


 右側の席で同じデザートを食べているフォルとステラは、慌てながら目線を逸らす。レヴィスの言葉に、ケリスは表情を一変させ、怒りで険しい表情になりながら立ち上がった。


「ご主人様を売女ですって!?何て無礼な男なの!?それに本当に売女だったらどれだけ良かったか!!」


 その言葉にはフォルとステラ、そしてレヴィスも頷いた。


「そうだそうだぁ!売女だったら、とっくの昔に快楽漬けにして食べてたよぉ!」

「そうだそうだー!」

「いやー……売女の主も、旨そうだなぁ」


 ぶん殴っていいか?この変態悪魔共ぶん殴って良いよな?人を売女だったらよかったとか、仮にも契約者、主に向かって何て事を言っているんだ。

 だが悪魔達に人間の私が力で勝てるはずもなく、私は悔しさでゼリーを無言で食べる。クソッ、美味しい食事に感謝しそうになってしまう。


「ご主人様。今回の依頼は、誰を連れて行くつもりですか?」


 すると後ろで見守る様に立っていたサリエルが、少し顔を近づけて問いかける。サリエルの問いかけに、他の四人も騒ぐのを辞めてこちらを見た。



 そう、他の人間と契約した悪魔と対峙する可能性があるので、必ず依頼には五人の悪魔の誰かを連れて行っている。

 だが今回は貴族の頂点、公爵家で起き事件だ。平民の私に子息も公爵家の者達も協力的ではないだろう。それに一ヶ月も過ぎた現場に、悪魔の手がかりなど無いに等しい。


 そんな時は、「契約の四番目」を使うのだ。今回はそれを使う可能性が非常に高いので、皆食い入るように指示を待っている。

 私は少し考えた後、顔を近づけていたサリエルを見た。


「今回は公爵家だし、やっぱり礼儀正しいサリエルかな」

「……かしこまりました」


 私の指示に、他の四人の悪魔達は不機嫌そうに顔を歪めた。私はそんな彼らに表情を引き攣らせ、机を思いっきり叩く。


「本人の目の前で売女が良かっただ、旨そうやら言うド変態なお前らを!公爵家に連れてくと思うのか!?」

「えぇ!ちゃんと良い子にするよぉ!!」

「ご主人さまの前で悪いことしないよー!がまんできるよー!!」

「フォル!ステラ!お前らは絶対に連れて行かない!!」

「「ええーー!!!」」


 慌ててこちらに駆け寄り、腹に擦り寄り媚を売り始める二人だが、それをサリエルが後ろから二人の肩を掴み止めた。


 「良い加減にしろ、ご主人様が決めた事だぞ」


 サリエルは変わらず無表情だが、少々言葉には棘があった。フォルとステラは肩を掴まれた事で私から離れ、頬を膨らませて彼を見る。


「サリエルが一番変態なのにぃ!ご主人さまの前では猫被るのズルイよぉ!!」

「頭の中でご主人さまの事、絶対にぐちょぐちょべちょべちょにしてるのにー!!」

「僕はお前らと違って、表には出さないから良いんだ」


 おい、否定しろそこは。ぐちょぐちょべちょべちょって何だ?恐ろしすぎて聞けないじゃないか。そもそも選べる悪魔が酷すぎるだろ、もっとまともな悪魔はいないのか。今なら契約してやるから出てこい。


 そんな私の心情を分かっているのかいないのか。サリエルは二人を掴んだまま、赤色の瞳で真っ直ぐこちらを見た。


「では明日から三日間、ご主人様の下僕として最善を尽くしますので、どうぞよろしくお願いいたします」

「う、うん……よろしく、サリエル」



 ステラの言葉でやや心配になってきたが、それでもそれ以外で行く方が恐ろしい。表に出す変態より隠す変態の方が良いに決まっている。私はサリエルにやや引き攣った笑顔を向けて応えた。


 私の表情に、彼は少しだけ目を細めた。




 

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