閑話 教会へ向かう前夜
前話の前、教会へ向かう前夜の話です。
明日は朝一番に教会本部へ向かう。
そこで得られる内容は、恐らく私の思っている通りのものだろう。そして仮説は立証され、真実を明らかにする。
それが私がずっと行ってきた事で、それが生き続ける為に必要な事だ。
……だが、どうしても今回の事件は後味が悪い。
私は寝室のバルコニーで、特に何もする事もなく呆然と星空を見た。もうすぐ冬の季節がやってくる。私の吐く息は、寒さで白くなり空中を舞う。
そのまま星空を見つめていると、急に後ろから腕がまわされた。その次に背中に感じる重みと温度と、甘い香り。……後ろから抱きつく相手へ、私は大きくため息を吐いた。
「レヴィス、重たいんだけど」
「我慢しろよ。寒そうな可愛い主を温めてやってるんだから」
ありがた迷惑すぎる。面倒なので振り払おうにも、後ろから苦しい程に抱きしめられているので難しい。行動で無理なら言葉で止めさせようとしたが、先にレヴィスが耳元に息を吐いた。
「らしくない顔して、どうした?」
「えっ」
「アンタ、帰ってからずっと変だぞ」
擦り寄りながら掛けられる言葉に、私は驚いて後ろを振り返る。
レヴィスは、全てお見通しだと言わんばかりに、私へ優しく微笑んだ。
まさか、レヴィスに心配される日が来ると思わなかった。私は気恥ずかしさから彼へ目線を逸らす。それには面白そうに軽く声を出して笑われた。
「えーっと……その……真実を明らかにしていいものかと、悩んでて」
「…………って事は、俺に喰われたいと?」
「んな訳ないだろ」
「じゃあ何だよ?真実を隠すって事は、そういう事だろ」
怪訝そうに見つめるレヴィスへ、まだ彼へ向けれない目線を泳がせながら答えた
「だから……隠していた方が、皆幸福なのに。それを分かっていながら、暴いていいのかなって」
小声で答えたその言葉に、レヴィスは目を大きく開いた。……やがて、それは呆れた表情に変わり、抱きしめる腕を緩めていく。
「何言ってんだ。幸福や不幸を決めるのはアンタじゃない、そいつ自身だろ?」
さも当然の様に答えられ、驚きすぎて固まる。
そんな私を見て、レヴィスは大きなため息を溢したと思えば……急に肩を掴まれ、私は奴に鮮やかに横抱きをされてしまった。
「うぉっ!?」
「まさかそんな事で悩んでたのか?本当にお優しいご主人様だなアンタは」
呆れた表情のレヴィスは、そのままバルコニーから移動してベッドへ向かう。
ベッドに付けば勢いよく放り投げられ、二度目のため息を吐かれながら寝具を被せられた。
流石に主に対して、そうため息を何度も吐くのは如何なものだろうか?私はどんどん険しい表情になっていくが、それを見た奴は鼻で笑った。
「どれが幸福でどれが不幸なんて、本人にしか分からないんだ。他人が分かる事じゃない。アンタはアンタの人生を、よりよく生きればいいんだよ」
「…………レヴィス」
「少なくとも俺は俺の幸福の為に、これからどうやって主の口の中に舌を入れようか、ずっと考えてるんだが」
「好感度上げてからブチ落としてきたなぁ」
今度は私が呆れた表情をして、レヴィスは声を出して笑いながら離れた。そのまま寝室から出ようとしているのだろう。
……まぁ、今回は奴のお陰で大分決心がついた。少し位、幸福にしてやろう。
「レヴィス」
「ん?」
私は呼びかけながらレヴィスの腕を掴み、そのまま勢いよく起き上がった。声と、掴まれた感触に気づきこちらを振り向いた奴の唇へ、私は自分の唇を合わせる。
される事は山ほどあるが、自分からする事がなかったので、勢いが良すぎて歯が当たる。だがレヴィスは何の反応もなく受け入れた。
数秒間そのまま唇を合わせて、もうこの位でいいだろうと思い、ゆっくりと体を離していく。……しかし、慣れない事はするもんじゃなかった。こんな幼稚すぎる口付け、夢の中のパトリックに何も言えない。何だか気恥ずかしくなり目線を落としていく。
だが、離れる体は力強い腕により再び密着した。あとついでに獣かって位の鼻息が聞こえる。
驚いて顔を見上げると、そこには熱を孕んだ目を向けるレヴィスがいた。口からは呼吸の度に煙の様なものが出ている。多分口の中は火吹いてるなこれ。……レヴィアタンが口から出す火って、全てを跡形もなく消す位のやつだよね?えっ、私死ぬの?
レヴィス、いやレヴィアタンは興奮を必死に堪えながら、静かに煙が出る口を開いた。
「初めてだな、主からそういう事してくるの」
「そうだね」
「俺を受け入れてくれるって事でいいよな?」
「色々ぶっ飛んだ解釈だね」
「あー………最高だ、今興奮でトびそう」
「待ってレヴィスさん、私の足掴んでどうするのかな?」
「一緒に気持ちよくなろうな」
「助けてーーーーーーー!!サリエルーーー!!ケリスーーー!!!」
その後、駆けつけたサリエルとケリスに事情を話した所、何故か私も悪い事になった。意味わからん。




