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46 カラス達の言葉



 埃の被ったテーブルの上に、見るからに美味しそうな食事が皿の上に並べられている。

 マルファスは顔を料理の皿に近づけ、鼻を動かしながら大興奮で食事を口に含んでいる。


「最ッッッ高に美味いなァ!!オイ!!!」


 喜びで叫びながら、次々に料理を平らげていくマルファスを眺めていたフォルとステラ、そして私は、昨日からピーマンしか食べていないので悔しそうに彼を睨んだ。





《 46 カラス達の言葉 》




 この男の名前はマルファス。かつて私が違法悪魔として地獄へ落とした、カラスの悪魔だ。何でもかつて「あの方」の右腕になる程の上位の悪魔だったそうだが、地獄に飽きて地上に来たらしい。そして餌が得られやすい南区を住処にして、暇さえあれば貪り喰っていたそうだ。


 普通は一度規則を破り地獄へ落ちれば、使用人達が常々言っている「あの方」により罰せられ、数百年は地上に来る事が出来ない。だがマルファスは、あろう事に自分の両眼を捧げ罪を免れたのだ。だから今の彼は、匂いで人や悪魔を選別する。

 昨日地獄へ落とした違法悪魔が、翌日目玉を抉られた状態で突然目の前に現れ、私と無理矢理契約をしようとして来たものだから……二度目の規則違反で、サリエルに半殺しにされていた。マジで勉強しねぇなこの悪魔、と当時は思った。


 とまぁそんな事があり、再び地獄に落とされたマルファスは、翌日性懲りも無く屋敷に来たと思えば、全身に刺青を掘られていた。何でも呪いの類だそうで、人間との契約を制限するものだった。故に現在マルファスは「あの方」の許可がないと人間と契約が出来ない。何でそんな事してまで地上に戻すんだよ、おい上司。ちょっと楽しんでるだろ。


 喰わなくても悪魔は生きていけるらしいが、食に異常に拘りがあったこの男は嘆いた。いや規則守ってしてればよかったんじゃん、自業自得じゃん。と内心思っていたが……あんまりにも目の前で嘆くものだから、なんだか可哀想になって……食べていたマフィンを男にあげたのだが、余程口にあったらしい。今も思えば、泣き落としで受け入れてもらい、私を喰おうとしていたのだろう。良かった、あの時の私純粋で。


 そこから二十五年、南区で違法悪魔が出た際には情報を彼から得ている。使用人悪魔と違い、一度の料理で複数個の情報をくれる。南区限定だがとても有難い存在である。そして情報の対価として、レヴィスが作った食事を差し出しているのだ。……ちなみにこの食事、きっちりレヴィスには対価を要求されている。今回は腿から血をごっそり吸われた。



 マルファスは山ほどの食事を全て平らげ、満足そうに皿を床に落とし割った。うちの屋敷の皿なのに。私の手でキッチリ目に包帯を巻かれた彼は、匂いで私の場所を見つけこちらを向く。


「んでぇ?最近、裏地路で死んだ神父の話かァ?」

「そう、その事件に違法悪魔が関わってるの。何があったのか、詳しく教えてほしい」


 マルファスは大きな欠伸をしながら、窓の外の方を向いた。

 すると外にいた、人間の肉を貪っていたカラス達が全員鳴き出す。カラス達はまるで、彼に話しかけている様だった。


 

 やがてカラス達が鳴き声が止むと、マルファスは小さくため息を吐いた。



「その神父、南区の身売り業者と揉めたみたいだぜ。裏地路で複数人に袋叩きにあって、そのままポックリ逝っちまったらしいなァ」

「……身売り」


 やはり、南区の職業を斡旋している業者は碌なところではなかった。恐らく子供達は騙され「そういう職」に就いたのだろう。子供達との関係を好む外道は少なくない。……先程通った娼婦館の開いた窓から、一瞬見えた眼に光のない者達を思い出してしまう。


「ご主人さま?どうしたのぉ?」

「どこか痛いところでもあるのー?」


 側にいたフォルとステラは、心配そうに腰に引っ付き、上目遣いでこちらを見る。契約した私以外、どんな事になっても興味がないのだろう。

 私は二人の頭を撫でながら、再びマルファスを見た。


「神父を襲った身売り業者は今どこ?」

「そいつらなら全員死んだぞ」

「死んだ?」


 予想もしなかった答えに驚いていると、マルファスは首を掻きながら立ち上がった。そのついでに、ずっと皿に入っていた腐った芋虫を手で掴み、何の躊躇いもなく口の中へ入れる。その光景に、フォルとステラと一緒に顔を引き攣つらせた。


「身売り業者の詰所で、同じ日に全員首を切られて死んでたんだとサ。」

「そ、そんなの新聞の記事には何も」

「南区の住民が死ぬのは、まぁ日常茶飯事だしなァ。……単純で、面白ェ記事を書くのが記者の仕事だろ?」


 神父の死、それを引き起こした身売り業者が同日殺されていた。明らかに神父の死の関わりがあり、そして複雑故に記者も書くのを止めたのだろう。


 身売り業者が殺された原因としては、神父が悪魔と契約し、業者の殺害を願った可能性が一番高い。……だが、他人にも自分にも厳しい、神に仕える神父だった彼が、果たして悪魔と契約を交わすのだろうか?

 マルファスは鼻息を出しながら歩き出し、部屋の端に置かれていた汚いソファに寝転がる。背が大きいので、足はほとんどソファの外に出てしまっているが、そこがこの男の寝る場所だ。私は呆れながら近くにあったブランケットを手に取り、埃を払って奴の体に掛けた。


「有難うマルファス。お陰で今回も事件が解決できそう」


 そう言って微笑むと、マルファスは見えていない筈なのにこちらへ顔を向ける。そして鼻を動かしながら、こちらへ手を差し伸べた。先程の事もあるので全力で逃げようと身構えるが、その手は優しく頬に触れるだけだった。まるで赤子に触れる様なその感触は、悪魔にされていると思えない程に心地よい。

 思わず拍子抜けして固まっていると、マルファスは穏やかそうに笑った。見える口元がやけに官能的だ。……そう言えばこの男、初めて違法悪魔として捕まえた時、綺麗な紫の目だったな。




「なぁイヴリン、シねぇ?」

「全部台無しにしてくるじゃんこのカラス」




 フォルとステラが、腐った芋虫の入っていた皿でマルファスを殴っていた。











 

 気絶したマルファスをそのままに、私達は神父の殺害現場と、身売り業者の殺害現場に足を運んだ。死体や血などは既になくなっていたが、それでもある仮説を立証する証拠は見つけた。

 子供二人と女一人で南区を歩くなど、普通はすぐに犯罪に巻き込まれてしまう。だが今まで、私は南区の違法悪魔を捕まえ地獄に落としていたのだ。私に捕らえられた人物は、皆姿が見当たらなくなった……そう認識されているらしい。お陰で何なら、一人で歩いても南区の住民は避けていく。


 むしろ、この南区に来た事を陛下や殿下にバレる方が面倒だ。当時王太子だった陛下にバレた時は、寿命が縮む位に怒鳴られた。下手な悪魔よりも怖い、もうあれは御免だ。



 エドガーの資料、殺害現場、そしてマルファスの情報で仮説はできた。誰が犯人で、どうしたのかも全て。……だが、一つ不思議な事がある。この仮説が正しければ、あの時に必ずノイズが掛かる筈なのだ。だが実際には普通の言葉として耳に届いた。……何故だ、今までノイズの不調などなかったのに。


 そんな事を考えていると、馬車は屋敷に着いたのかゆっくりと停止する。フォルとステラにエスコートされ馬車から出ると、既にサリエル達が出迎えていた。


「お帰りなさいませ、ご主人様。マルファスからの情報は如何でしたか?」

「ただいま。流石カラスなだけあって、良い情報を教えてくれたよ」

「……それは良かったですね」

「おい棒読みだぞ」


 レヴィスは私の周りを見て苦笑いをした。


「またアイツ皿割ったのかよ」

「ご、ごめん……また割られちゃった」

「主のせいじゃないだろ?今度の料理は、カラスの丸焼きにしようかな」

「情報くれなくなるからやめて」



 フォルとステラは既に眠たいのか、瞼を擦りながら私の手を繋ぎ屋敷の中へ歩いていく。マルファスの事だけは、執着心の強い使用人悪魔達も私がどう関わろうと気にしていない。呪いを掛けられているから、という理由もあるが、大半の理由はあの男の「力」故だろう。


 過去に「あの方」の右腕だった悪魔。弱肉強食の地獄では、あんな発情期野郎でも軽くあしらえる様な存在ではないそうだ。流石にそんな存在でも、三度目の地獄落ちはただじゃ済まないらしいので、その安心感もあるのだろう。今日性交に誘われたけど。


 屋敷に入るとケリスが思い出した様に、メイド服のポケットから一枚の手紙を差し出した。


「そういえば、ご主人様が留守中にあの商人が来ました」

「エドガー様が?」

「ええそうです。留守と伝えると、この手紙を渡してほしいと……中身を拝見しましたが、どうやらご主人様が依頼した情報の続きの様です」

「さも当たり前の様に中身見てるのね」


 引き攣った表情をしながらその手紙を受け取り、中身を見る。

 どうやら内容は依頼した内容の、補足の様なものだった。






 だが、その内容を読み終わった際、何故あの時、ノイズが聞こえなかったのかを理解した。






 手紙を握りしめ、仮説が真相だと悟った瞬間。

 私の表情を見た使用人達は、面白くなさそうに顔を歪ませた。






ちなみに「マルファス」とネットで調べると、カラスの悪魔がいますが、そいつです()

レヴィアタンは有名ですが、フォルネウスなども調べると出てきたりします。

悪魔達、皆モデルがいたりします。(どうでも良い内容)

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