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45 人に会いに



 私は目的地へ向かう馬車の中で、つい先程エドガーから受け取った資料を見ている。

 お供のフォルとステラは、外の景色に興味津々なのか窓から離れない。その所為でついさっき、人攫いと間違えられた。心外すぎる。


「ご主人さま!道端に人が倒れてるよぉ!」

「酔っ払いふとってるー!まずそうだねー!」

「あの人間こんがり焼いたら、脂肪とけておいしくなるかもぉ」

「フォル頭いいー!」


 天使の様な顔をしているのに、言っている言葉が悲惨すぎる。

 私は呆れた表情を二人に向けながら、黒のローブを二人へ渡した。


「ほら、もう着くから二人ともこれ着て」

「はぁい!」

「はーい!」





 調査二日目、私達は事件のあった南区へ行く事にした。

 南区へ向かう前にエドガーの家へ行き、昨日頼んだ資料を受け取る。……その対価もどきは、頼み込んで事件が終わったら必ず受け渡す事になった。エドガーは不満そうだったが、渋々承諾してくれたので有り難い。そして対価云々の記憶は、事件が終わったらフォルとステラに消してもらう予定だ。


 いやだって、足舐めさせて恋愛事が更に拗れる可能性があるだろう?ルークの返事もしていないし、いつ気づくか分からないパトリックの事だってあるのだ。これ以上多くなったら、確実に使用人達が物理攻撃に出る。この先二十年ピーマン生活の可能性だってあるのだ、絶対嫌だ。


 南区には何度か来た事がある。人を誑かし契約する悪魔達にとって、この地区の人間は最高の餌食だ。なので違法悪魔も良く出るし、何だかんだ三十年何度も来ていると顔見知りも出来た。今日の目当てはその顔見知りだ。

 南区の事なら、その男に聞けば大体の事は分かる。……正直とても会いたくない相手だが、情報だけは信頼できるので、南区の事件では必ず頼っている。



 南区の繁華街、と言っても殆ど娼婦館か男色館なのだか、そこを通り過ぎ更に奥へ馬車は進む。

 次第に道端に倒れる人間は酔っ払いではなく、飢えで動かなくなった者達ばかりになっていく。大量のカラスが、動かなくなった人間の体を突いているのを見て、将来私も悪魔達にああされる可能性を考えてしまう。


 荒れていく道を進んでいけば、やがて馬車はゆっくりと止まった。

 右手にフォル、左手にステラと手を繋ぎ、降りた目の前には石造りの家があった。壁はところどころヒビ割れており、今にも壊れそうな家だ。

 フォルは繋いでいない手でその家の扉をノックし、ステラは扉を開けた。ノックの意味ない気がする。



「こんにちはぁ!カラスさんいるぅ?」

「カラスさーん!来たよー!」



 家の中に入りながら、フォルとステラは大きな声でその人物を呼んだ。

 家の中は埃っぽいし、随分古い粗悪品の様な家具は、引っ掻き傷がいくつもある。極め付けにテーブルの上、皿の中に食べかけで腐敗した芋虫がいる。多分この芋虫、前にこの家に来た時からあったな、最低。

 やがて大声を出していた二人は、困ったようにこちらを見た。


「カラスさんいないねぇ」

「芋虫取りに行ったのかなー?」

「せめて腐ったの捨ててからにしてほしい」


 確実に家にいると思ったが、留守なのか姿はないし返事もない。これは今日の予定は変更した方がいいか?とすると孤児院へ行って、再び聞き込みでもするか?もしくはこのまま南区を自力で調べてもいいかもしれない。






 そうやって考え、集中していた為に、私は後ろからの人影に気づく事が出来なかった。





 突然肩に、よく分からない重い何かが乗っかる。獣臭いその何かは、荒い呼吸を出しているので生き物だろう。

 驚きその場所を見ようとしたが、その前に首筋に湿った吐息と、ねっとりとした感触が襲った。

 

「アーー………イヴリン、イヴリン……イヴリンイヴリンイヴリンイヴリンンンンッッッッ!!!」

「キャーーーーーーーー!!!」


 興奮した低い声で何度も名前を呼ばれ、私は恐怖で前へ逃げた。首筋に垂らされたのは、恐らく涎だ。気持ち悪すぎる。


 後ろにいた人物は、恐ろしく背の高い男だった。恐らく二メートルはあるだろう身長に、前がはだけてはいるが、上質な生地の使われた黒い服装。見える逞しい肌に全て刺青が掘られており、スキンヘッドの頭にも、よく分からない模様の刺青が掘られている。

 そんな男を更に異様に見せているのは、両目を隠すように付けられた、ゆるく巻かれた包帯の目隠しだ。


「本ッッッ当に!!………何度嗅いでも最ッッッ高にイイ……最ッッッ高に!エロい匂いだなァ………イヴリィィィンン!!」

「ヒィィィィィィィ!!!」


 見た目イッちゃってる男は、興奮が全く治らないのか、荒い呼吸をしながら狂ったように叫ぶ。目隠しをしているのに、こちらを舐める様に見つめているのが分かるものだから、私は引き攣った顔をしながら男から離れた。

 そんな私を見て、フォルとステラは頬を膨らませながら、その男の元へ行き体を叩く。


「ご主人さまに何するのぉ!」

「へんたいカラス!ご主人さまにあやまれー!」


 男は煩わしそうに二人を振り払いながら、匂いを確認する様に鼻を動かした。

 

「んだよ……ガキ二人もいんのかよ、テメーら腐った芋虫みたいな匂いで、全然気づかなかったわ」

「そんな事言うの、カラスさんだけだよぉ!」

「ばーかばーか!カラスのばーか!」


 二人は更に強く叩くので、男は苛立ちながら部屋の中央へと進んだ。だが幼児も負けていない。男へ着いて行き続けて体を叩いている。なんて逞しいんだ。


 私はそんな男へ一定の距離を保ちつつ、震える唇で声をかけた。


「……マルファス、ひ、久しぶりで申し訳ないんだけど……ち、ちょっと聞きたい事が、あって……」


 マルファスは顔を向けて、口元を歪ませ笑った。その底知れない恐ろしさに、私は再び悲鳴をあげてしまった。やはり私は、この男が苦手だ。


「まァた、違法悪魔探しかァ?いいぜ、テメェだけには何時でも答えてやるよ」


 笑った表情のままこちらへ歩みを進める。背が高いので一歩が大きく、すぐに私の目の前にたどり着いた。

 マルファスは顔を一気に近づけると、顔に当てるように息を吹きかける。獣の匂いと、何故か焦げた匂いが顔に吹きかかって悍ましい。



「可愛い可愛いイヴリンちゃんは、ちゃアんと「例のモノ」持ってるよなァ……?」



 ゆるく巻かれていた顔の包帯がずれる。その所為で、目玉がない男の顔を至近距離で見てしまった。


 

 後ろでは、マルファスの尻を叩くフォルとステラが「いじめちゃだめ!」と叫んでくれている。

 幼児達よ、そんな事しなくていいので、私とこのイッちゃってる男の間に入ってくれないか?そろそろご主人様は倒れるぞ。





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