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33 久しぶりのお茶会


 三十年この世界で生きて、今日ほど城に行くのが億劫だった記憶はない。

 悪魔達の所為で自由に性欲を解放できず、その所為で欲求不満となり、ああいう夢を見てしまうのは問題ない。だが周りの眉間麗しい悪魔達が相手ではなく、あのパトリックだったのが恐ろしい。……まさか、自分は心の底では彼に好意を持っているのか?確かに顔は悪くないし、性格も実は男前だが……。


「いや、十九歳でしょ?子供じゃんナイナイ」

「……ご主人様、今日は独り言が多いですが、何か悩み事でも?」


 今日の城のお供であるケリスは、隣で歩きながら心配そうにこちらを見た。

 私ははぐらかす様に笑いながら首を振る。いやだって言えないだろう、欲求不満すぎて夢で未成年に相手してもらいました、なんて。


「ちょっと色々ね。……ほら、もう温室に着くよ」


 どうやら悩んでいる内に温室へ着いていた様だ。私はいつもの様に扉を開けて温室の中へ入る。今日もまたルークがお茶を用意してくれているだろう。付き人であるパトリックも確実にいるだろうが、絶対に目線を合わせないでおこう。


 温室の中央へ向かうと、ティーカップに紅茶を注ぐ音と人影が見えた。……だが変だ、ルークや、パトリックよりもやや背が高い気がする。


 ようやくその人影が鮮明になった所で、私はその人物に目を大きく開いた。


「陛下!?」


 ルークでもパトリックでもない。その人影は国王陛下だった。呼ばれて体を一度震わせると、陛下はこちらへ振り向いて微笑んだ。



「やぁイヴリン。今日はレモンタルトだよ」

「な、何故陛下がこちらに!?」

「ルークは急な予定が出来てね。その間君を独り占めしようと思ったんだ。……ああ、勿論隣のお嬢さんの分もあるから、一緒に食べよう」


 ケリスもまさか、陛下がいると思わなかったのか目を大きく開いている。だがすぐにそれも戻り、陛下へ「感謝いたします」と礼儀正しくお辞儀をした。それを見て陛下も穏やかに頷く。



 ……ちゃんと理由を言っているが、確実にこの現場は陛下の願いで作られたものだろう。でなければルークは、急な予定が入ったとしても私をその場所へ連れ出す程に離れたがらないのだから。恋する男……いや権力者は厄介すぎる。


 まさか、この前の釈放された時の礼を催促しに来たのか?レヴィスに作ってもらった焼き菓子を先日送ったのだが、それでは足らなかったか?

 私が気まずそうにしているのに気づいたのだろう、陛下は私へ向けて苦笑した。


「本当に、ただゆっくり話したかっただけだよ。取って食おうとしていないから安心しなさい。ほら座って、一緒にお茶をしよう」

「……はい、陛下」


 陛下にそう言われれば、従う以外の選択はない。私は恐る恐る近づき、いつも座っている席に腰掛けた。ケリスは隣、陛下は私の向かいの席に座る。


 陛下とお茶なんて相当久しぶりだ。陛下が王太子の時代は月に何度も呼ばれていたが、陛下が妻を持ってからはめっきり減った。……というか、招待を断り続けた。私の存在は王妃にとっては害でしかなかったし、向こうは私を嫌っていたのだ。そりゃあそうだろう、自分よりも仲のいい平民の女なんて、嫉妬されるに決まっている。


 皿に置かれた美しいレモンケーキを口に運びながら、穏やかにこちらを見つめる陛下の目線に冷や汗が出てくる。ああケリスが羨ましい、何故そんなにも平然としていられるんだ?


そのまま黙々とレモンケーキを食べていると

、陛下はティーカップを持ちながら口を開いた。


「ハリス伯爵の大量虐殺の件だが、解決してくれて有難う。お陰であの隠れ家にあった遺体を、無事家族の元へ帰す事が出来たよ」


 上品に紅茶を飲みながら、陛下は先日の狩猟大会の事を話しているが……何故だ、あの事件は私は関係ない事にしてくれと、パトリックやエドガーにお願いしたのに!


「ああ、レントラー家の者達は皆、君は関係ないと話していたみたいだがね。先代ハリス伯には口止めしてなかっただろう?尋問では彼女は、君の事を大層恨んでいたと聞いているよ」

「あっ!」

「相変わらず、イヴリンは詰めが甘いね」


 頬杖をついて、意地悪そうに陛下はこちらを見る。


「彼女が私の悪口を言った途端、君彼女を脅したみたいじゃないか?」

「えっ……あっ……」

「何だっけな?「これ以上アレクの事を言うなら、息子と同じ目に遭わせてやる」だっけ?痺れる事を言ってくれるね」

「うわーーー!!!」


 あまりの恥ずかしさで叫ぶと、陛下は声を出して笑う。

 

 ……久しぶりに二人で話すものだから忘れていた。陛下……アレクは非常に意地悪なのだ。基本的にはルークと性格は似ているが、そこに悪ガキを付け加えたのがアレクだ。

 昔は気持ち悪い虫を顔に近づけてきたり、変にスキンシップを多くして照れさせてきたり、今の様に言葉で虐めてきた。王太子じゃなかったら何発殴っていたか分からない。まるで小学生男子の様な性格だ。子供が出来てもそこは変わらないらしい……素晴らしい青年に育ったルークに、悪影響すぎる。


 ひとしきり笑い終わると、アレクは立ち上がり私の前へ歩みを進める。

 そして昔よりも一回り大きくなった手で、私の頭をゆっくりと撫で始めた。


「有難う、私の為に怒ってくれて」


 まるで子供を相手する様に、優しく耳元で囁き感謝を告げてくれる。それを昔は自分よりも幼かったアレクにされていると思うと、気恥ずかしさが出てしまい頬が少し熱を持った。

 気づかれないように顔を下に向けるが、私の考えている事はお見通しなのか、アレクは頭上で小さく笑いながら、頭を撫でるのをやめて顎に手を添える。


「イヴリン、顔を見せて」


 優しさはそのまま、ただそれに甘ったるいものも含みながら、アレクは添えた手を動かし、顔を上に向けた。

 私の表情を見て、アレクは嬉しそうに、愛おしそうに目を細めた。……心臓が痛い。昔好きだった男ってのは、何年経っても厄介だ。


 だが、アレクの放った言葉により、そんな甘ったるい空間は一気に冷えた。


「それで、君は伯爵による大量虐殺を止めた訳で、その功績を称えて勲章を授けることになったんだけど」

「えっ」

「来週末、この城で勲章式があるから必ず来てね」

「ちょっ」 

「勿論来てくれるだろう?君は王室に寵愛された、ちっぽけな平民なんだから」



 顎に添えていた手が動き、私の唇を弄り始める。……そんな事をされても、ただの平民である私はされるままでしかない。彼は昔好きだった男、そして今では友人ではあるが。それ以上に私は、彼の寵愛無しでは生きられない、哀れな存在なのだから。


 私は弄られる唇を、ゆっくりと開けて声を出した。


「…………はい」


 ……取って食わないって言ってたじゃん、嘘つき。


ケリス、あと歯ぎしりを止めてくれ、そろそろバレるぞ。







 


 

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