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21 商人の男


 中央区、城下町へ来ている私は、様々な店が並ぶ国一番の商店通りに来ている。

 この辺りは物価も高いし、平民も貴族も関係なくごった返しているので、事件の調査などよっぽどの事がない限りは来ない。……そう、よっぽどの事が今起きているので、ここにいるのだ。


「ねぇサリエル。陛下って、この詰め合わせのクッキーとか好きかなぁ?」


 ガラスケースに並ぶ、まるで宝石の様な見た目のクッキーを指差し、隣で立っているサリエルへ声をかけた。


 彼は相変わらずの無表情でそのクッキーを見て、そして私を見る。


「クソ国王へのお礼の品なんて、その辺の草で良いのでは?」

「いい訳ないだろ馬鹿悪魔」



 頭を掴まれた、痛い。

 





  《 21 商人の男 》






「で?結局喧嘩して、ろくに選ぶ事も出来なかったと?」


 通りのカフェで休憩中、別行動から戻ってきたレヴィスは、ろくに買い物も出来なかった私達を見て面白そうに笑った。

彼の隣に座り、アイスティーを飲むサリエルは、その返事に鼻で笑う。


「喧嘩じゃない、時間の無駄だとお伝えしただけだ」

「この前の事件で主が捕らえられた時、王権で釈放してもらったんだろ?不利な要求される前に菓子持ってお礼伝えに行くのが、何で時間の無駄なんだよ?」


 全くもってその通りなので、向かいに座る私はアイスコーヒーを飲みながら何度も頷いた。



 ……先日の歌姫事件、その際に私はキャロン殺しの罪を被せられそうになった。その際に知らせを受けた陛下により、王権で釈放されたのだ。今現在まで陛下からも王太子からも何も言われていないが、こちらに不利な要求でも願い出されたら困る。

 ただでさえ陛下は私に爵位を与え、王太子の嫁にしようとしているのだ。愛人であそこまでサリエルが荒れたのだから、正室や側室になれと言われたら確実に王族を殺しに行くだろう。いやぁ、人気者は辛いね。


 なので言われる前に、万が一の事も考えてこちらが先にお礼の品を送ればいい。そう思いわざわざ中央区まで来たのだ。レヴィスも愛用の調理器具が壊れたそうで、三人で中央区まで来て別行動をしていたのだが……レヴィスは無事に買い物を済ませたのに対し、私は何も買えなかった。っていうか買わせてくれなかった。


 何故なら、贈り物に良さそうなものがあっても、家の財布を持つサリエルが、まっったく!!購入を許してくれなかったのだ。最初から買う気ないよねサリエルくん?ねぇないよね?


 私が睨みつけていると、サリエルは涼しそうな顔をして口を開く。


「あの国王が勝手にご主人様を釈放したんだ。あれがしなくても、側にいたケリスがどうとでもした」

「そういえば、何でケリスは一緒に捕えられ続けたんだ?洗脳でもしてすぐに出ればいいのに」

「……縛られ半泣きになっているご主人様に、欲情し過ぎて忘れていたらしい」

「成程……気持ちは分かるな」


 分かるなよ!とツッコミを入れてやりたいが、今いるカフェの客も店員も皆、美しいサリエルとレヴィスをうっとりと見ている。後「何でお前がそこにいるの?」と言う怪訝そうな顔もしているので腹立たしい。そんな大注目の中で彼らを無下に扱ったら、何をされるかわかったもんじゃない。

 三十年という長い月日で、使用人の未見に心を奪われた人間が何をしてくるのか、そんな人間へ使用人達が何をするのか、なんて痛いほど見て経験したのだ。周りの皆、命は大事にしてくれ。


 私がそう頭の中で考えていると、気付けば持っていたアイスコーヒーが奪われていた。慌てて向かいを見れば、レヴィスが手に持ち美味しそうに飲んでいる。


「あっ私の!!」

「まぁ、菓子で良いなら俺が作るさ。それ持っていけば良いだろ?」

「え!いいの!?」

「主の為だ、なんて事ない」

「優しい〜〜!有難うレヴィス!!どっかの守銭奴とは大違いだね!」

「…………」


 再びサリエルに頭を掴まれた、痛い。


 アイスコーヒーは取られてしまったし、自分用の飲み物を再び注文しようとした時。カフェの扉が開き、見覚えのある人物が店内へ入ってくる。


 褐色の肌に白髪という珍しい容姿、真紅の質が良さそうな服を着る青年。確か仕立て屋アビゲイルに向かった際にすれ違った青年だ。ここのカフェはあの仕立て屋からも近いし、もしかしたら行きつけの店なのだろうか?しかし、本当に目立つ容姿の青年だ。


 私の目線に気づいたのか、その青年はこちらを見た。あちらも覚えていたのか、目をどんどん大きく開いてこちらを凝視している。まぁ珍しいもんね、この世界で日本人顔って。


 だが、その青年はそれで終わらなかった。やがて一気に顔が明るくなり、こちらへ早歩きでやってくるのだ。物凄い目立つ男が近づいてくるので、サリエルとレヴィスも少し驚いている。おいサリエル、やめろ手袋を取るな戦闘体制に入るな。


「失礼、よかったら私もご一緒していいかな?ミス・イヴリン」

「えっ」


 何故私の名前を知っている?驚く私に微笑みながら、青年は目の前で軽く会釈をした。


「私はエドガー・レントラー。この前お会いした仕立て屋のオーナーをしているんだ」

「レントラー……」

「甥っ子のパトリックが世話になっている様で、ご迷惑をかけていないかな?」



 どうやら、私は相当面倒な公爵家に恩を売っているらしい。それだけはわかった。



 あと童貞、私の話をベラベラ喋るんじゃない。







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