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04 探し者

8/23 ちょっと訂正《》←を付けるのを忘れていました。


 会場中央から、怒り狂う女性の声が聞こえる。談笑や、ダンスを踊っていた招待客達は驚きその場所を見る。勿論私もその中の一人だ。


 声を荒げていたのは、今宵の支配者であるヒルゴス伯爵だ。早くに両親を亡くした為に年若い当主だが、卓越した彼女の判断力と頭脳のお陰で、ここ数年ヒルゴス家は更に栄光を築いている。


 そんな彼女が顔を真っ赤にして睨みつけるのは、珍しい褐色肌と美しい白髪を持つ青年と、その青年に腕を絡める少女だ。青年の特徴的な姿、何年か前にルドニア国に敗北した、今は地図に存在しない国の民特有のもの。黄金色の瞳はその中でも、王族筋の者しか持たない色だったか?あの青年に見覚えがあるが、どうにも名前が思い出せない。



 だが物覚えが苦手な私でも、青年を逃すまいと腕を絡める少女は知っている。そのお陰で、数十年ぶりに己の心臓が跳ねた。



「……はは、まさかこんな所で聖女様に出会うとは」


 つい独り言が漏れたが、皆中央に夢中で誰も聞いちゃいない。手に持っていたカクテルを景気良く飲んだ。先程よりも味が良いと思うのは、少女と再会した喜びからだろう。一応、確認の為に周りを見る。……驚いた、あの悪魔達は居ないらしい。まさか契約から解放されたのか?マルファスから聞いた話では、契約している悪魔達は皆、彼女に相当な執着を持っていると聞いていたが。



 少女、イヴリンは青年と共に伯爵から離れていく。後ろから伯爵がはしたなく叫んでいても気にしていない様だ。彼女は見た目に反して、中身は成熟した淑女そのものだ。あどけない顔で、言う事は政治家の其れと同じ少女。数多の権力者達にはそこが魅力的なんだろう。


「まぁそれでも、相変わらず危機管理能力は低そうだ」


 ヒルゴス伯を翻弄して随分と勝ち誇っているが、腕を引いている青年は先程から欲情を隠せていない。あのままでは二人きりになった途端に襲われそうだ。……まぁ、そうなったとしても、彼女ならどうにかするだろう。


 ……さて、私はどう行動しようか?


 今宵の己の行動に胸を高鳴らせていると、後ろから若い娘達に声を掛けられる。露出の高いドレスで己の若さを見せつけて、ある娘が頬を赤く染めながら口を開いた。


「突然お声がけしてしまい、申し訳ございません。……あの、前にルドニア国に滞在していた際、貴方様に暴漢から助けて頂いたんです。西区自警団団長様の、ロンギス・ノーツ様でお間違いないかしら?」



 此方へ潤んだ瞳を見せる娘へ、私は笑いながら首を横に振った。



「いいえ、人違いですよ美しい人。……私はただの、ロンギヌスです」





《 04 探しもの 》


 


 


 会場の騒がしさもない甲板では、出発を知らせる汽笛の音が耳に強く響く。港からゆっくりと離れる船を尻目に、私は足を抱え座り込むエウリュアレーを見据えた。


「メデューサって……確か聖人に殺された、お前とステラの末の妹だよね?」


 先程エウリュアレーが呟いていた、メデューサという名前。記憶が正しければ、ステラ達三姉妹の末の妹だ。ステラとエウリュアレーが狂うきっかけとなった、殺された妹。

 エウリュアレーは足を抱き込む力を強くして、長い金髪を揺らす。


「……そうです。あの飾られていた頭は、私が探していた妹の頭です」

「何で頭をヒルゴス家が持っているの?ステラに聞いた話では、メデューサの体は「お前達の世界」で埋葬したって聞いてるんだけど」

「それは首から下だけです。頭は、メデューサを殺した聖人が奪っていきました」

「奪っていった?化け物を狩った証明として?」


 質問には頭は下げたまま、首を横に何度かふる。


「いいえ、《妹の目玉》欲しさです」

「目玉?」

「はい。目玉です。……メデューサの目玉は聖力で衰えません。あそこに無いという事は、抉り取られたのだと思います」


 そういえば、展示室に飾られていたメデューサの頭には目玉がなかった。ミイラの様な見た目だったので、干からびてしまったのかと思っていたが……衰えない目玉?何でだ?聖力?

 

「イヴリン様!《メデューサの目玉》は聖力があるんです!神の力は消えませんので!例えメデューサが朽ち果てようとも目玉だけは残っています!」


 エウリュアレーに質問しようと開いた口は、背中から聞こえるキレのいい声によって阻止された。振り向けば、想像通りダリとエドガーが此方へ向かってきている。駆け足で向かってくるダリと違い、エドガーは何処か疲れた様な表情だ。


「イヴリン様!《あの部屋に飾られていた展示物》ですが、調べた結果全てが本物ではありませんでした!大体六割が本物で、残りの四割は軽い呪物がかかったものなどです!つまりガラクタ!」

「六割も本物だったのか……でも、その本物はヒルゴス家が代々集めていたものなんだよね?」


 その問いには、エドガーがため息を吐きながら答えた。


「ヒルゴス伯に聞いた所、その本物達は全て初代《ヒルゴス伯が集めたもの》だったよ。代々伯爵家は、先代の遺言で丁寧に保管を命じられているそうだ。そこに代々の伯爵が霊媒師から買った品などを集めて、あの品々の結果らしい。ヒルゴス家の人間達は皆、家の栄光はあの品達の力だと信じている様だ」

「家の家宝の様な品を、何でまた食事会で公開させているんです?」

「それが……本来なら邸宅で厳重に保管しているみたいなんだけど、数年前から現伯爵がこの食事会で公開する様になったらしいね。……ま、我が家の栄光の一端でも見せてやろうっていう、あの伯爵なら考えそうな事だよ」


 エドガーは首のタイを緩めながら、声が苛立ち荒々しい。珍しい姿に横のダリへ目線を向ければ、口パクで「メロン」と言われた。……あーはいはい、ヒルゴス伯爵に捕まっちゃってたのね。ご苦労様。


「で?ダリさっき「メデューサの目玉には聖力がある」って言ったけど、どんな力があるの?聖力ってなに?」


 エウリュアレーはうずくまっているし、その辺詳しそうなダリちゃんに質問してみる。するとダリちゃんは目を輝かせて食い気味に顔を近づけた。鼻息が五月蝿ぇ。


「よくぞ聞いてくださいました!聖力とは、神に造られた人間が稀に持つ力の事です!よく天使が使う力も聖力ですよ!」

「へーそうなんだ。それで、メデューサはその聖力を目玉に持っていたと?あと唾を飛ばすな」

「その通りです!そして面白い事に、《メデューサの目》には石化の力が宿っているんです!!ペッ!!」

「石化ぁ?石になるって事?おい痰を飛ばすな」


 興奮しすぎたダリちゃんは肩を掴んできた。痛い。


「そうです!まぁ厳密に言えば、石みたいに固まって動けなくなるんです!種族関係なしに発動できる能力で、ステンノー達姉妹が迫害されたのもその力故ですね!人間達が羨む程の見た目で、末妹の目をみたら固まるなんて、化け物って呼ばれて当然ですよね!無様な事です!!」

「ダリ。今から許すまで、一言でも喋ったら雇用解除するよ」

「………、…………。………」


 エドガーはエウリュアレーに気を遣ったのか、ダリに切り札を使って黙らせる。今までの明るい表情は何処へやら、ダリちゃんは真顔で口を閉ざした。己の性格を捻じ曲げる程、解雇は嫌なのかお前。



 ……しかし、成程。ここまでの話で大体の仮説は立てる事が出来た。自分達姉妹の罵倒にも怒りを表さない、絶望しているエウリュアレーの目の前でしゃがむ。


「エウリュアレー、お前が探していたものは「妹の頭」だった。その理由は「自分達の世界」で供養したいから、って事?」


 静かに語る質問へ、エウリュアレーは首を縦に一度頷かせる。……そうか、それならばやる事は一つだ。



「じゃあ頭は見つけたし、次は目玉探すか」

「……え?」


 漸く顔を上げたエウリュアレーは、前髪の隙間からエメラルドの瞳を大きく開かせていた。何故今更、そんな表情をするのか分からないんだが?怪訝に彼女を見つめながらも、無防備な頭を一度撫でる。


「妹の頭をヒルゴス家が持っていたんでしょ?なら目玉だって何か手がかりがあるかもしれないじゃん。自分の世界にある妹の墓に、一つ残らず埋葬したくないの?」

「で、でも……主様が、これ以上私を手伝う理由なんて……」

「何言ってるのお前、悪魔の癖に謙虚すぎない?」


 そう言えば、無防備となっていたエウリュアレーの腕を掴み、無理矢理起こす。髪が揺れて、彼女が隠していた黄土色の割れた肌が不意に見えてしまった。慌てて髪で隠そうとする彼女を止める。


 私は空いた手で、肌の割れ目に手を這わせる。エウリュアレーは怯えながらも受け入れた。


「乗りかかった、というかもう乗った船だし。お前と此処に来る事を決めた時点で、とことん付き合うつもりだったんだけど?……お前、もう少し悪魔らしくしてよ」

「わ、私は……姉様みたいに、上手く姿を変えれない位の、下級で……地獄の主様に、私なんかの……」


 何だそんな事か。本当に悪魔らしくない悪魔だ。

 撫でる手を移動させて、エウリュアレーの前髪を上げる。……随分と震えて此方を見ている。半分展示室の妹と同じ、醜い顔だ。それでも、瞳は姉妹揃って美しい。


「下級とか上級とかどうでもいいよ。結局は地獄の、私の悪魔な事に変わりないんでしょ?」

「…………主様の……悪魔……」

「そう、私の悪魔。……だから、そんな震えないでよ。私が手伝ってやるって言ってんだから、地獄の主の命令は絶対なんでしょ?」

「………サタン様………」



 エウリュアレーが、自身に触れている私の手を取る。醜い顔も小綺麗な顔も、どちらも震えながら涙を流した。





 と、私とエウリュアレーが感動的な場面を出している最中。後ろから二人分のため息が聞こえたのは言うまでもない。


「………、………………」

「ダリ、言いたい事は分かってるから。そんな目で私を見ないでくれ」

「……………!!……!!!!、!!」

「はいはい、分かったから」


 何で言ってる事が分かるんだよ。



 

ムーンライトノベルさんにて、同名で本作品を更新中です。盗難では有りません。

あらすじ結末等は同じですが、ムーンさんバージョンになるのでちょっと違ったり話数増えたりボリューム増えます。

年齢制限等ございますので、18歳以上の方は閲覧できません。ご了承くたさい。

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