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閑話 とある朝

完結話の後書きにおしらせしておりました、ショートストーリーです。


 肌に触れる、滑らかな肌触りの何か。先がよく揺れる其れは足を撫で上げて、まるで私の感触を楽しんでいる様だった。何処かくすぐったい。あといやらしい。まだ重たい瞼を開いて、其れが何かを確かめる。


 ……うん。これは蛇の尻尾だ。先に行くにつれて細くなる尻尾が、目の前で機嫌よく揺れている。その様子を眺めていれば、後ろから耳元に息が吹きかかった。


「お早うございます、ご主人様」


 語尾に♡でも付きそうな勢いの、吐くレベルの甘すぎる声だ。思わず眉間に皺が寄りながら、ゆっくりと体を後ろへ向ける。


 後ろにはサリエルがいた。絹の様な黒髪はまだ整われておらず、それが奴の顔を幼くさせている。キツめだった目元は盛大に緩んで、ぐずぐずに砂糖で煮詰めた苺ジャムみたいな、そんな位に甘すぎる赤目を此方に向けている。とりあえず顔面が良い。


「お、ハよ……」


 挨拶されたので、礼儀として此方も挨拶。しかし昨夜の所為で全く声が出ない。その姿を愛おしむかの様にサリエルは微笑む。あまりの甘さに腕に鳥肌が立つ。


「後で、蜂蜜たっぷり垂らした紅茶を用意しますね」

「……ウン」

「では、朝方まで起きていたのですから、もう少し寝ましょう?」


 腰に尻尾が巻き付いたと思えば、サリエルの胸の中に招かれた。そのまま私の髪を撫で始める。

 良い体してるすっぽんぽ……否、寝巻きを着ていない奴の肌からは、心地よい石鹸の匂いがした。いい匂いなので思わず深呼吸。そんな変態じみた私へ奴は、背後に薔薇を出しながら上品にクスリと笑うものだから……次は吐きそうになった。

 サリエルくんは気にせず、体を更に密着させて甘えてくる。


「ご主人様、今日も可愛いです。好きです、大好きです」


 ……駄目だ、地獄に来てからといい、様変わりした脳筋の態度に体がついていけない。だがサリエルだけじゃない、他の悪魔達も今じゃあ何をしても怒らない。ぐずぐずのでろでろに優しい悪魔になってしまった。どうしたん、お前ら砂糖になったのか?


 まぁ理由は明白だ。何故なら私が、悪魔の力を借りなければ地獄から出る事が叶わないから。籠の中の鳥状態になっているからだ。お陰様で奴らは最高に気分がいいのだ。……嗚呼懐かしい、あの青筋立てた、ゴミを見るような目線が恋しいよサリエルくん。



 地獄へと堕ちた後、私はこの状態を作り出した「名も無き悪魔」が所有していた統治者の城に住む事となった。ちなみにあの悪魔、私を地獄へ堕とした後は悠々自適な隠居生活をしているらしい。地獄の何処かにいるらしいが、無限に広がる地獄の何処にいるかまでは教えてくれなかった。素顔にグーパンは当分お預けの様だ。


 しかしそこはいい。もう地獄に来てしまったのだから、もう来世は諦めたさ。地獄の主として、できる限りの事はやるつもりでいる。別にぃ、罰を受ける悪魔で鬱憤晴らしとかぁ、しようと思ってないからねぇ〜?



 長年使用人として雇ってきたのだ。悪魔という生き物が、どんな特徴を持つ者達なのかは理解しているつもりだった。……だが、それでも全てではなかったらしい。特に恋愛脳悪魔を舐めていた。今の奴ら相手なら、そんじょそこらのイチャイチャカップルが裸足で逃げる。

 契約した五人の悪魔の執着は相当のものだったが、あの三十年余りは奴らは相当に耐えていたのだと大いに理解した。下品な言い方をすれば、体で分からされた。分かってはいたが、童貞と玄人は天地の差で違うらしい。いやー…………ねぇ?


 甘やかす様に頭を撫でる手を振り払い、私はベッドから起き上がる。もう起きてしまったので、朝食でも食べに行くつもりだ。そのまま足を床に付けて、立ち上がろうとしたが……その足は、床に触れる事はなかった。体は持ち上げられる。


「何処へ行かれるんですか?」


 さも当たり前の様にサリエルは、私を横抱きして立ち上がる。顔面が眩しい。


「……ご、はん」

「かしこまりました」


 サリエルがそう言えば、裸体だった私と奴はあっという間に服を纏っていた。主チョット前からおもってたけどぉ?君達なんか強くなってなぁい??……そのまま私を横抱きした状態で当たり前の様に食堂へ向かう。本当に、この悪魔は私を拘束するのが好きだ。もう隠すのをやめた尻尾が、ずっと機嫌よく揺れ続けている。なんか腹立つな引き千切ろうかな。


 無表情だったサリエルは、地獄に来てからその仮面を剥がした。今では契約していた悪魔の中で一番表情が豊かで分かりやすい。表情に釣られる様に、口ぶりも少しずつ変わっている。語尾に♡が多くなった。

 他の悪魔達も、下界にいた時よりも柔らかい表情だ。そして私に対する愛情も底無しに深い。その証拠に、毎晩交代制の様に誰かしらが襲いに来る。昨夜はこの脳筋だった。お陰で毎日豚……否、寝不足だ。



 ふと、窓の外を見る。目の前は森林で、朝日を浴びた木々が美しく緑を魅せてくれる。枝に止まった小鳥が、私へチュンチュンと何かを訴えている。かわいい。この小鳥も景色も全て、私の精神が崩れない様にサリエル達の術で見せるまやかしだとしても、正体は蛆とか血とか骨だったとしてもかわいい。


 サリエルも窓の外にいる小鳥を一瞥する。次の瞬間小鳥の首が消えていた。体からは蛆が出て落ちていく。グッバイ小鳥ちゃん。


「ご主人様、食事が終わったら湯船に浸かりましょう。昨夜はそのまま寝てしまいましたから」


 小鳥の存在など無かったかのように、サリエルは語尾♡で次の予定を提案する。体に触れる手が、やけに弄るように動かしてくるから……多分、風呂入るだけで終わらない気がしてきた。



 ……嗚呼、こんな辱めと、こんな執着を万年も受けるのか。随分な人生になりそうだ。


  


 

完結を連載に変更します(でなければ更新できないことをすっかり忘れていましたアホです)レヴィスも書くかもしれませんし、このまま番外編をちまちま書くかもしれません。番外編は海だ!豪華客船だ!違法悪魔だ!!新しい悪魔だッッッ!!という感じで書いてます。めちゃくちゃ書くの楽しいです……ですが……ですがね……あついよぉ、夏があついよぉ……(泣)

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