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158 陰謀


 審問会が終わり、見事ラファエルの陰謀は解決した。毎度の事ながら素晴らしく、きっちり期間内に完遂してやった。まぁ多少は強引に?聖人様を異端者呼ばわりしたり?城の地下にありました!と出した「王の紋章」は旧ハリス領地で、ウリエルが付けていた帯をフォルとステラに探して貰った物だが。


 いやーまさか!フォルがウリエルから引き千切った腕と共に帯も取れて、念の為に探してもらったら、運よくガブリエルの炎から逃れて、運よく海の藻屑となっているなんて。若干藻屑すぎた様だが、そこは二人がいい感じに直してくれたらしい。お前たち愛してる。



 ……だが、まだ気がかりな事も多い。まずはマルファス、奴はアダリムとロンギヌスの母であるマルダと契約をした。しかしその内容はいまだに教えてくれない。だが話しぶりからして、その所為でラファエルに手を貸し、舞踏会でサリエル達悪魔の力を封じてみせたのだと思う。……一体、マルダと結んだ契約は何だったのだろうか?


 それに今回のラファエルの陰謀だって、「名も無き悪魔」が気にする程のものだったのか?ラファエルが望んでいた事は簡略すれば「神への復讐」だ。地獄の主が、それの何処に問題がある?あんなに神を毛嫌いしていたのに。



 まぁそこはいい。もう終わった事だし、全ての真実を知らなくてもいい……それよりも!私は漸く!アホ馬鹿変態執着病み悪魔共から離れられるのだ!もう一度言おう!ドアホ馬鹿変態執着病み悪魔共!!来世でココナッツジュース片手にオーシャン眺めて、札束で汗を拭く生活ができるのだ!最高!!



「あーー!終わった!終わったぞ私の長い戦いが!!」


 意気揚々に聖堂から出れば、清々しい青空に向かって叫ぶ。後ろから同じく出てきたサリエル達は、機嫌が良すぎる私へ怪訝そうな表情を向けた。一番眉に皺を寄せているのはサリエルだ。


「随分と元気ですね。これから五人分の対価を与える必要があるのに」

「最悪な対価の後に、素晴らしいご褒美が待っているからね!」


 ややはぐらかしたのは、私が「名も無き悪魔」と結んだ取引内容に気づかれない為だ。この悪魔共に気づかれてみろ、オーシャン所ではなく、私は一生太陽を拝めなくなる。ここは丁寧に対価を与えて、機嫌良くさせた後に逃げて転生するのが最善だろう。後誰でもいいから処女もらってくんねぇかな?このままだと、来世でも処女のままな気がするんだよ。


「ふぁあ……元気がないよりかはいいだろ?あー……今日の夕飯どうするかな」

「ご飯!!!」


 最高のワードが聞こえた。私は大きな欠伸をしながら歩むレヴィスへ体を向ければ、奴の胴体に飛びつく。奴はやや目を開きながらも、穏やかに受け入れてくれた。

 

「ねぇねぇレヴィス〜〜今日の晩御飯、主頑張ったから豪華にしてほしいな〜〜」


 猫撫でりの声を出しながら、レヴィスに甘えるように擦りつく。奴は目を細めて頬を撫でた。


「……ったく、こういう時だけ甘えたな声出すんだもんなぁ……いいよ、何食べたい?」

「チーズ沢山乗ったグラタン!フルーツタルト!生ハムのサラダ!!」

「林檎のコンポートは?」

「いる〜〜〜〜!!!」

「ピーマンは?」

「いらな〜〜〜い!!!」


 サリエルくんの方向から、大きな舌打ちが聞こえるが気にしない。最後の晩餐くらい好物をたらふく食べたいんだ。本当は酒も飲みたいが、酔っ払ってベラベラ話すのは避けたい。終わる。


 抱きつく私をレヴィスは離す気はない様で、尻を持ち上げ片腕で私を抱き抱えた。その光景にケリスが頬を膨らませながら「ずるい!私もご主人様持ち上げたい!」と言っている。おいメイド、そのわきわきとした手は何だ。私に何する気だ。



 そのまま皆で教会本部の門まで向かえば、門の前に屈強なルドニア軍が何人かいた。……そう言えば、門の前でルークが教会本部を囲っているんだった。にしても、囲うには随分と兵士の数が少ない気がするが。


 数人の兵士の中、その中央に見知った中年男性がいた。ルドニア軍総大将、フォーレン・ヴァドキエル侯爵だ。彼は此方に気づくと目を大きく開ける。淑女が男と密着しているのだ、その事で蔑まれるのだろうか?


 だが、その答えは予想外のものだった。


「お久しぶりです、ヴァドキエル侯。使用人に抱えられているのには、それなりの事情がございまして、実は」

「貴様、どうしてここに居る?」


 言い訳を述べる前に、その言葉はヴァドキエル侯によって遮られる。意味が分からず首を傾げると、珍しく彼は動揺を隠せていなかった。……彼は恐る恐る、再び口を開く。




「貴様、先程殿下と共に城へ向かっただろう?なのに何故ここにいる?」

「………は?」



 何を言っているんだ?私は今、聖堂から出て門へ来たばかりだ。ルークにだってここ数日会っていないし、今此処にいるのだから城へは向かっていない。


 使用人達も意味が分からないのか、侯爵へ怪訝そうな目線を浴びせている。……混乱の中、後ろから足音が聞こえた。振り向けば、そこにはラファエルとアダリム、そしてルディがいた。ラファエルは思い詰めた表情で私を見る。……何故か、胸が騒ぐ。


「神の愛し子よ。私は確かに貴女を陥れようとしました。……ですが当初の計画では、新聞記者へ偽りの記事を載せる手立てをしただけで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……何を言って」

「私が望んでいたのは「神に愛された貴女の価値を落とす」事。聖女だと囃し立てた貴女が、地へ落ち人々へ非難を受ける。……貴女とて人間です、凄まじい罵倒や尊厳を踏み躙られれば、魂が穢れ堕ちると思いました。……ですが、その計画を変えるよう提案した者がいます」


 計画の変更、それを提案した者がいる。

 呟かれるラファエルの言葉が、頭の中で木霊する。



 震える体を気付かれない様に、レヴィスから離れ一人で立つ。



 そして、生まれたのは「新たな真実の可能性」だった。……それも、最悪なもの。



 ……嗚呼、そうだ。何故忘れていたんだ。どうして奴がずっと味方だと、どこで信じてしまった?

 私の表情を見て、ラファエルは悲痛に目線を伏せた。


「提案した者は、貴女の死を望んでいた。だが主への許しがなければ、私達は己の手を汚す事は出来ない。故に貴女を罪人として「人間の手」によって殺そうとした」


 そうだ、お前達は神を愛する故に正義を行い、神を愛する故に憎しみを持った。

 



 神の命は、お前達には絶対なのだ。




「愚かな愛し子よ。……貴女は、天使を分かっていない。主の命が、貴女がどれ程私達にとって崇高な存在なのか、分かっていない」





 気づけば、私は近くの兵士から馬を奪っていた。周りや悪魔達の静止の声も遮って、手綱を叩き走り出す。向かうのはルークの元、ルドニア城だ。


 嗚呼そうだったよ、散々「名も無き悪魔」も私も言っていたじゃないか「陰謀を止めろ」と。なんで今まで気づかなかった!!


「クソ!!!」


 苛立ち舌打ちをしても、憎む言葉を叫んでも何も変わらない。一刻も早く向かわねば、ルークの元へ行かなければ。急かす心が身体中を支配した。





 ……嗚呼、どうして私は忘れていたんだろう。

 私の守護天使(ガブリエル)は、私が死ぬのをずっと待っていたのに。





156話でルークと出会っていたのは、イヴリンに偽ったガブリエルです。

エピソード158の「天使の弁解」にて、何故ラファエルとガブリエルが話しているのか?その理由は計画変更の話し合いをしていたからです。

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