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152 偽りを真実へ


 僕とケリスはイヴリンに頼まれた仕事を済ませ、西区の教会本部へ向かっている。……この別行動は、彼女が計画した作戦の為に必要なのだが、別に僕じゃなくてもダリやマルファスもいる。どうして側に居させてくれないのか?……いや、今それを考える暇はない。


「サマエル!貴様は主への裏切りでも大罪なのに、あろう事に愛し子様を誑かしているのか!?あの方に何もしていないだろうな!?今すぐ言え洗いざらい!!」

「イオフィエルうるさい。その話聞いても絶望するだけだから、本当にやめて」

「ガブリエル!お前もお前だ!!何で自分の番が手を出されているのに、そんなにも怒りがないんだ!!」

「知ってる?怒りって最大限までいくと、呆れになるんだよ?」

「怒れ!!無理矢理にでも愛し子様を助けろ!!」

「いや無理でしょ。地獄の管轄内で、尚且つ上級悪魔に僕らが勝てると思う?」

「気合いで勝て!!それでも大天使か!!!」


 教会本部へ向かう馬車の中には、僕とケリスだけではない。つん裂く様な五月蝿い鳴き声を出すクソ天使共もいる。特にイオフィエルは狂信者だ。先程から僕やガブリエルに怒声を浴びせ続けている。お陰で、隣のケリスが苛立ち故に、膝を絶え間なく動かし続けている。


 今回僕達が受けた仕事には天使共の力、そして証言が必要だった。故にイヴリンは二人へ協力を仰いだのだが……五月蝿い、本当に五月蝿い。

 暫くするとケリスが上目遣いで此方を見つめ、男共が生唾を呑む艶かしい声を出した。


「ねぇ、サリエル……私」

「駄目だ」

「最後まで言ってないじゃない!!」

「どうせ「クソ天使共の首を絞めたい」だろう?そんな事してみろ、ご主人様に叱られるぞ」


 ケリスは図星だったのか、下品に大きな音で舌打ちをした。その話を五月蝿いながらに聞いていた天使共は、ケリスへ詰め寄る。


「何お前、そんな事考えてたの?やめてよ、君みたいな肌馬に触られたら汚れる」

「忌まわしい悪魔め!!やれるもんならやってみるがいい!その前に僕がお前の首を捻じ切ってやる!!」


 ケリスは無言のまま、クソ天使共を馬車から投げ捨てた。

 この程度なら許すべきだろう。




 イヴリンはイオフィエルの証言を聞いた後、大幅な計画の変更を決定した。本来ならルドニア王子の力を借り、ラファエルをでっち上げた罪で捕らえ、今回の騒動への尋問する予定だったが……その前に、此方が罪人となったのだ。その計画は破綻した。

 そして次に彼女が計画した方法は、彼女自身に負担が大きいものだ。使用人達も、そして天使共も反対していたが、それ以外にラファエルを食い止める方法がない。そう彼女は言い切った。


「……何故、彼女はそこまでするんだ?」


 マルファスが何を考えているか不明だが、その所為で例えこの国で記憶操作の術が使えずとも、それなら他国に逃げてしまえばいい。確かにこの国以上に違法悪魔が多い場所はないだろうが、それでもイヴリンが危険に晒されるよりも、傷つくよりもマシだ。それはレヴィスも、他の悪魔達も同じ考えだった。


 なのに彼女は、必死にラファエルの陰謀を解き明かそうとしている。新たに悪魔と契約してまで情報をかき集め、そして行動している。……まるでそれは、僕達と結んだ契約の様に「期限」が迫っている様に。何故だ?血の繋がった兄弟を助けたいからか?


 漸く静けさを戻した馬車の中で、気分良く鼻歌を歌っていたケリスだったが……途中、何かに気付いたのか、使い魔を止めた。

 一体何があったのかと奴を見れば、その前に馬車の扉が開く。



 扉の向こうには、あの悪魔もどきがいた。

 奴は碧眼を歪ませる。




「やぁ。私もイヴリンの元へ連れて行ってくれるかな?」





 悪魔もどきの手が触れた取手は、青い炎によって灰になっていた。







◆◆◆





 聖職者達の混乱した声が聖堂中に響き渡る。当然だろう。今私が公言した事は、聖人アダリムを信仰する彼等は「聖職者」ではないと言っているようなものだ。

 声達を咎める様に木槌の音が鳴り響けば、聖堂は再び厳かな空気を纏う。判決者は私を睨みつけた。


「聖女イヴリン!戯言で誤魔化すのはやめなさい!」

「いいえ判決者様、私は真実をお伝えしているだけです」

()()・イヴリン!!」


 呼称から「聖女」の文字が消えた事は素晴らしい。怒鳴りつける声も気にせずに、皆の注目を一身に受けながら、激しい心臓を隠す様に腕を大袈裟に動かした。


「六百年前、栄光あるこのルドニア国は、この地に降り立ったウィリエ・ルドニアによって建国されました。彼は荒れた大地を潤し、そして土地に住んでいた民族人達へ知恵を与えた。民族人の長の娘と結ばれたウィリエは、やがて子供をもうける。それが貴方がたが崇拝する聖人、アダリムです」


 聖堂に彩られたステンドクラス、そこに描かれた聖人へ笑った。


「ですが……何故分かるのです?ウィリエ・ルドニアの力が「神業」であると?彼が神の使者だと、誰が言ったのです?」



 この国は天使によって作られた。そして別の天使によって宗教が作られた。

 だが力を持たなかったアダリムを「聖人」に仕立て上げたのは……人間だ。


 

「聖人アダリムの肖像画が見つかったのは旧ハリス領地です。あの領土ではノア・ハシリスが最後に建築した屋敷もあった。……そして皆様もご存じの通り、あの領地では長年領主によって大量虐殺が行われていました。当主だったヨーゼフ・ハリスは自殺しましたが、最初の首謀者である先代のミザリ・ハリスは捕らえられています。何故あそこまで酷い虐殺を続けたのか、その理由を彼女は取り調べにて話していますが……ご存じですよね?」


 判決者へ目を向け、答えを促す。一身に受ける注目に顔を歪ませながら、彼は苦々しく答えを口にした。


「……「()()()()()()()()()()()()」」

「その通り!ミザリ・ハリスは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()世間は彼女の言葉を、狂った老婆の虚言だと思われている様ですが……考えて見て下さい、あの領地は百年前の戦争で焼け野原となっている。木は燃やされ、海水は澱み、作物を育てる土は血で穢れていた。初代当主より残されている記録帳にも、悲惨な土地で過ごす領民達の姿が残されています。……ですが六十年前。突然と緑が溢れ、作物は豊かに育っている。まるでウィリエや聖人アダリムが起こした「神業」の様だと思いませんか?」


 再び聖堂は騒がしくなった。枢機卿席で一人立ち上がったのはラファエルだ。私の計画に気付いただろう、憎しみに溢れた表情を此方へ向けている。


 今度は判決者が木槌を叩く前に、証言台へ拳を打ち付ける。聖職者達は静まり返り、次の私の言葉を待ち構えている。こうなってしまえば、もうこの聖堂は私の舞台だ。



「そもそもウィリエ・ルドニアは何処からやって来た?何故ルドニアを建国した?……もしも其れが、旧ハリス領地の様に「死体(生贄)」を得やすくする為であったら?ウィリエは、遥か遠くの土地から追放された「異端者」だったら?」



 天使様、私に弁解を与える機会を作ったのが悪い。この三十一年間、私は欺く悪魔達を従え、そして勝ち続けて来たのだ。そんな人間が、そう安易とお前の思う様に動くと思ったか?


 周りの視線を一身に受けて、私は舞台で踊る、声を届かせるのだ。



「もう一度言います。私は聖女ではありません。そしてこの国は、ウィリエ・ルドニアという異端者によって作られた。……貴方がたは、異端者の息子を崇拝していたのです」



 地獄の主よ、お前が言った通りの事をしてやろう。

 偽りを真実に、真実を偽りに。……私の言葉()を、全て真実にしてやる。



 ラファエルが神父様を聖人に仕立て上げたいのであれば、私はその聖人を穢すのだ。






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