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142 釣った魚は逃げれない


 城に用意された部屋……とてもじゃないが、一人用として使っていいのか分からない程に広い。家具は一級品なのは当たり前だが、全て国で採れる素材を使ったものだ。恐らく外交、国賓クラスの招待客の為の客間なのだろう。私には勿体ない。


 ルークはまだ公務が残っている様で、夜にまた会う約束をして部屋を出て行った。

 居なくなった後、部屋付きの使用人達へ一人にして欲しいと願った。その時に表情を険しくしたのは、恐らくまた逃げる可能性を考えての事だろう。最終的には折れてくれたが、護衛の為に部屋の外には近衛兵を付かせていた。


 まぁいい、外からやって来る相手を護衛される分には支障はない。既に中にいるのだから。



 漸く一人になった。気を張りすぎて疲れた所為か、気づかぬ内にため息を吐く。……見えない存在達へ向けて、静かに声を掛けた。


「ベルフェゴールいる?」

「ええ、お側にいます」


 耳元に囁く声、ゆらめぐ陽炎と共にベルフェゴールがそこに現れる。私は彼の黄緑の目を見据えた。


「殿下の跡を追って、何か気になる事があったら教えて欲しい」

「かしこまりました」


 ベルフェゴールは恭しくお辞儀をした後、再び陽炎と共に姿を消す。


 ……さて。ルークを悪魔に監視はさせたが、恐らくルークはラファエルの真の目的は知らないだろう。ベルフェゴールが何か手がかりを見つけられずとも、ダリとマルファスもいる。それにヴァドキエル家で気に掛かる事については、パトリックが向かってくれている。夜には結果を連絡してくれるだろう。


 それでも足りなければ対価は必要だが、五人の悪魔に手助けをして貰えばいい。……今日が終われば残り五日、初日に悪魔共を宥めるのに時間がかかり過ぎた。今日中にはラファエルの陰謀の尻尾を掴まなくては。



 正直、パトリックにのり憑った「名も無き悪魔」の取引、それを完全に信じた訳ではない。だが信じる信じないの前に、このままでは違法悪魔を捕らえる契約に支障が出る。現在悪魔達と結んでいる契約を完遂する為にも、結局はラファエルの「陰謀」とやらを解決しなくてはならないのだ。だったらついでに七日以内に解決して「名も無き悪魔」のお手並み拝見でもしてやろう。……というか、あの悪魔何か知ってるなら教えろよ。


 そんな事を考えていたからか、後ろで他の悪魔達が術を解いていた事に気づかなかった。突然背中に重みと、何か柔らかいものが当たる。誰か見なくても、耳元に聞こえる大興奮の鼻息でケリスだと理解した。多分後ろから抱きつかれているな。


「ケリス、重たいんだけど」

「ご主人様。先程教会本部で、クソ王子に口付けされていましたね?今から消毒しますから、此方を向いて頂けますか?」

「逆に雑菌まみれになるわ」

「そんな意地はらなくていいのですよ!私にお任せください!あんな拙い口付け忘れましょう!?」

「今すぐ離れろ変態メイド」


 後ろから舌がベロベロ動く音が聞こえる。なんて卑しい音だ。これだけでセクハラで訴えれる気がする。


「ケリス、主から離れて」

「もー!ベロベロきもちわるい音ならさないでよー!」


 それでも離れないケリスに対し、紳士姿のフォルと幼女ステラが無理矢理引き剥がした。ナイス二人、危なかった。口付け如きでは契約違反にならない事を、この変態メイドに知られてはならない。絶対にB級ホラーの如く襲いかかって来る。


 あれ、そういえばサリエルとレヴィスは何処いった?

 私の言いたい事を察しているのか、フォルは苦笑いだ。


「二人なら何処か行ったよ。話し合うとか言ってたけど……主、何か知ってるかい?」

「知らない」


 嘘だ。多分私の事での話し合いだろう。昨夜の話し合いの後、二人には部屋に残って貰い、それはそれは丁寧な言葉で「お前達と私は体だけの関係です」と振ったのだが……一向に受け入れて貰えなかったのだ。むしろ燃えてた。諦めるって言葉知らないのか、あの馬鹿悪魔共は。


 昨夜の出来事を思い出し顔を引き攣らせていると、いつの間にやらステラが部屋のクローゼットを開けていた。中を見て興奮げな声を出す。


「ご主人さまー!見て見てー!」


 彼女の指さすクローゼットの中には、何着かドレスと寝巻きが入っていた。何故かどれも見覚えのあるものばかりで……一着クローゼットから出して、体に当ててみる。うん、これ全部私のじゃねぇか。屋敷から持ってきたなオイ不法侵入か。


「……取り敢えず、着慣れたものに変えよう」


 この数ヶ月、ランドバーク邸にほぼ軟禁状態だったのだ。今着ているドレスもヴィルのお下がりで、とても好みではないし襟が詰まりすぎている。ヴィルが着るから似合うのであって、私が着るととても不恰好だった。


 ついでに風呂に入って、この疲れた体を癒そう。私はフォルとステラに、そのままケリスを捕まえて置く事を命令し、自分は部屋に付いている風呂場へ向かった。





 

 風呂場のバスタブにお湯を張れば、ゆっくりと片足から入っていく。身体中が気持ちよさで鳥肌が出てしまう。やはり日本人のストレス軽減方法は風呂である。ドアの向こうからケリス達の暴れるBGMが無ければもっと最高なのだが。あいつら、ちゃんと術で外に聞こえない様にしてるよね?場合によっては、私が一人で暴れていると思われそうなんだが。……気にしたら負けだ。


「髪でも洗うか……ええっと、石鹸は何処かな?」

「洗面台の所にあった。俺が洗うから、主はバスタブに浸かってて」

「えっいいの?じゃあお言葉に甘えて」


 言われるままにバスタブの中に戻れば、後ろから優しく髪に触れられる。次には石鹸のいい香りと、大きな手と泡に包み込まれる感触。あまりの気持ちよさに目が細くなっていく。


「あ〜〜気持ちい〜〜〜〜」

「そりゃよかった。痒い所ある?」

「ないぃ〜〜ふにゃぁ〜〜」

「あはは、可愛い声出たな」


 ご機嫌な笑い声、私は首を後ろに反る。

 後ろには、此方へ色気たっぷりに微笑むレヴィスがいた。


「お帰りレヴィス、サリエルは?」

「ただいま主。あいつは暴れるケリスを叱ってるよ。俺はその隙を見て、愛おしい主のお世話しに来た」


 湯桶を手に取ったレヴィスは、優しく髪に掛けて泡を取り除く。今まで悪魔共に様々なセクハラをされ続けたのだ。気づいたら風呂場にいるなんてもう驚かないさ。許しもしないけどな。


「フォルから話し合いに行ったって聞いたけど、結果は?」

「丁度主のおつかいに来たクソガキ童貞のお陰で、また次回へ持ち越しになったよ」

「うん?アーサー様の所にいたの?」

「ああ、何かあった時に止める役を頼んでたよ」

「アーサー様に酷すぎないそれ?」


 哀れなアーサーへ心の中で謝罪をして、呆れてため息を吐く。レヴィスは側に置いていた香油で、次は私の顔を手入れし始めながら、意地悪そうに口角を上げた。


「主だって俺に内緒で、クソガキに頼み事なんて酷いな。俺に言ってくれれば良かったのに」

「だって対価いるじゃん」


 大きな指でほっぺをむにゅりと掴まれる。別に痛くないのでされるままだ。


「そりゃいるさ、俺は悪魔なんだから」

「ダリとマルファスはいらないのに?」

「アレは例外」


 頬を弄りながら、とびっきりの色気ある男が近づく。何をされるか理解したので、自分の口を手で隠す。その行動に、ご機嫌だったレヴィスさんは一気に不機嫌に眉を顰めた。


「何だよ、サリエルとはしてただろ」

「あんまり期待させる様な事、しないって決めたの」

「……ふーん」

「これからは手を出したいなら、ちゃんと第四の対価で言ってよ」


 この悪魔共は、気持ちからではなく体から侵食してくる。そんな奴らに好き勝手させていた私も悪いので……ここは関係改善、しっかりとした主従関係の確立の為にも、悪魔達とは一線を引き始めよう。


 ……とさもいい感じに言っているが、このまま契約違反ギリギリを攻め立てられると厄介な気がした。サリエルだけでもいっぱいなのに、歩く色気の魔王まで来てみろ。そんでもって毎度毎度、玄人な奴らにギリギリを攻められてみろ……私だってなぁ、ちゃんと性欲あるんだよ!寸止め食う気持ちわかるか!?わかんねぇよなぁ!?処女の気持ちなんてよぉ!?


 私の必死の形相にレヴィスも諦めたのか、ゆっくりと私から顔を離して、面倒臭そうに息を吐いてきた。良かった、この調子でサリエルにも手を出すのをやめて貰おう。私は首を元に戻して、再び湯を堪能する。


 そのままレヴィスは黙々と、仕上げの湯を髪に掛ける。

 だが奴は何かを思い出したのか、呆けた様な声を出した。


「そういえば童貞から、主に伝えてほしい事あるって頼まれたんだった」

「えっ、教えて教えて」


 恐らく頼んだ事の連絡だろう。再び首を反らしてレヴィスを見た。色気魔王の顔が目の前にあった。奇声が出た。避けようにも頬を思いっきり掴まれる。

 まるで釣り上げられた魚みたいだ。それでも逃げようと、私は必死にバスタブの中で暴れる。


「っぐ!ぐぐぐぐ!?」

「こら、逃げない逃げない。もう捕まってるんだから」


 そう言って色気たっぷりに微笑むレヴィスさんは、香水の甘い香りを纏わせて近づき、長い舌で私の唇を舐める。しょっぱい味がした。


 顔を歪めると、私を釣り上げた悪魔は嬉しそうに喉を鳴らす。目は据わってるが。


「絶対に逃さない。サリエルにも、他の悪魔にも絶対にアンタは渡さない」


 片手が私の首を優しく掴む。悪魔は己の好き勝手出来る状況に、恍惚に顔を歪ませた。


「俺から逃げられると思うなよ。俺はアンタを絶対に番にして、深海で永遠に可愛がるって決めてるんだよ」


 肌に当たる、興奮し熱を持った息。

 私は恐れよりも先に、深海で人間って生きられるの?という疑問が浮かんでしまう。


 ……嗚呼駄目だ、病的なまでの劣情を向けられてるのに、何故か私は冷静、慣れてしまっている。そんなだから駄目なのか、私は。




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