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126 女性の趣味は変わらない【下】

  



「今日はご足労頂き有難うございます」

「……いやこちらこそ、お招き頂き有難う」

「ではどうぞ、応接室にご案内致します」

「…………えっと……イヴリン?」

「何か?」


 屋敷の玄関で招いたエドガーを出迎えれば、彼は私の姿を見て顔を引き攣らせた。同じく数日ぶりにやって来たダリは、私の足に気づけば、輝く笑顔と共に指でさし示す。


「あーー!まだ足枷生活してるんですか!?相変わらず滑稽〜〜!!」

「誰のせいでこうなってると思ってんだ」

「気安くご主人様を指でさすな気狂い」


 私と、足枷を付けられ、歩く事が出来ない可哀想な私を横抱きする脳筋アホ執事は、ダリへ罵倒を吐き出す。







《 126 女性の趣味は変わらない【下】 》







 悪魔関係の口外を禁ずる契約書。エドガーに署名させる為に、私は一晩かけてそりゃあもう足を使った。

 中央区で有名な麗しの大商人が、犬の様に媚びる姿に一割良心が痛んで三割引いて六割興奮しながら、そりゃあもう頑張った。つまりは興奮した。

 いやー、普段は自信満々の男を弄ぶってのは、中々クるものがあるね。もうなんか、自分が処女な事に驚いちゃってるよ。


 そんな一晩の真実は、賄賂を使いフォルとステラを黙らせる事で終わる筈だった。……だが別の悪魔、ダリがサリエル達に告げてしまったのだ。馬車の中では「黙ってます!」って笑顔で言ってたのにすーぐに裏切っちゃったよあの馬鹿悪魔。

 お陰様で執着悪魔共は激昂、フォルとステラは数日間ピーマン生活を強いられ。私は足枷生活だ。本当は足を切断したい様だが契約でそれは出来ない。苦肉の策で足枷らしい。お前ら私を拘束するの好きだよね。


 朝起きてから夜寝ても足枷、移動は使用人に連れて行って貰う生活。配達員の気の良い兄ちゃんが、私の姿を見て「……趣味?」と真顔で質問してきた時なんて、もう死にたくなったさ。んな訳ねぇだろ。

 数日で終わると思いきや、私がお願いしなければ何も出来ない状況なのが、馬鹿悪魔には相当興奮するらしく……まだ続いている。まぁ、使用人の機嫌がいいのは良い事だね。主が犠牲になってるけど。


 私を横抱きしながら、サリエルはエドガー達を応接室へ案内するために廊下を進んでいく。エドガーは歩みを進めながら屋敷を見渡した。


「この屋敷は随分と広いけれど、手入れは外注しているのかい?」

「いえ、メイドのケリスが行っていますが?」


 私の回答にエドガーは目を見開き、そして苦笑いを向けてくる。


「……まさか、一人で?」

「はい、いい朝の運動になるそうです」


 うん、驚くのも分かる。こんな大きな屋敷、普通なら数十人で掃除を行ってやっと終わる位だ。だが出来ちゃうんだよケリスさんは、しかも鼻歌歌いながらさ。


 悪魔という存在がどれだけ異常か分かったのか、そこからエドガーは無言で後を付いてきた。


 歩き進めれば応接室に着きドアを開ける。部屋には既に用意されたティーカップと、茶菓子で砂糖漬けのフルーツが置かれている。

 私はいつものソファ席に座らされれば、エドガーは断りを入れてから向かいの席に座り、その後ろにはダリが立った。サリエルは私から少し離れた場所で、用意していたティーポットを持ちカップに紅茶を注ぐ。お、用意からして今日はミルクティーかな?

 暫くすれば、テーブルにティーカップが二人分置かれた。


「どうぞ、飲みやすい温度にしています」

「有難うサリエル」

 

 中にはミルクと品のある茶葉の香り、やはりミルクティーだった。私はカップを手に持ち、息を吐き冷ましてから飲む。喉に通した後は静かに息を吐いた。うーん、最高。


 喉に通る素晴らしい味に心酔いしれながら、私はエドガーへ顔を向けた。


「私達が隠していた真実、知られれば通常は始末されるか、記憶を消します。ですがエドガー様には記憶操作の術がもう効きません。消去法でいくなら、貴方を始末しますが……貴方は殺すには惜しい存在。ですので先日は、少々強引に契約を結びました。守って頂いている間は、私達は手を出しません」


 同じくティーカップを持ったエドガーは、節目がちに笑う。


「どんな契約でも、即日で署名はしないようにしてるんだけど……流石に、君のあんな姿見せられたら断れない。理性が保たなかったよ」


 何かが割れる音が聞こえた。エドガーと共にその方向を見れば、サリエルが無表情で割れたポットを片付けていた。床に落ちた音はしていないので、恐らく力が入りすぎて割れたのだろうか?

 ダリはそんなサリエルを見て、嬉しそうに前に座るエドガーに耳打ちをしている。声が大きすぎて、耳打ちにすらなってないが。


「流石ボス!サマエルに対して、最高の煽りです!!」

「……ダリ、この屋敷にいる間は黙っててくれるかい?」

「はいボス!ダリは黙ります!」


 ダリはその後、頬を膨らませてモゴモゴ言いながら黙った。……地獄って、これで頭がいいなら相当馬鹿ばっかりなのか?他称天才、めちゃくちゃ人間のエドガーに飼い慣らされるじゃないか。

 場を収めるために、わざとらしく咳払いをする。エドガーはそんな私へ愛想よく微笑んだ。


「で?今回私を呼んだのは、君が置かれている状況を教えてくれるから、でいいのかな?」

「ええそうです。長い話になりますが」


 その通り、ただお茶会をする為に呼んだわけじゃない。今回エドガーに来てもらった理由、それは私の三十一年間の真実を話す為だ。

 ここで中途半端に黙っていても、どうせダリが彼に全て話してしまうだろう。それならば話してしまって、信頼を得た方が遥かに良い。今後、恐らく彼らには天使ラファエルの事も調べて貰う可能性だってあるのだから。


 私はミルクティーを飲みながら、エドガーに三十一年前の出来事から順番ずつ話していった。流石にルークが天使の血を持っているだとか、パトリックが悪魔の血持ってるだとか、その辺りはプライベートなので隠したが。


 突拍子もない、物語のような話をエドガーは無言で聞いてくれた。……そして、全て話終わった後、彼は小さくため息を吐く。


「馬車の中でダリから大まかに聞いていたけれど……君の言っている事が事実なら、どれだけ調べさせても、君の身元が分からなかった理由が解決する。……だが、正直言ってこれは……いや、事実なんだろうな……」


 テメー!やっぱり話してたな!オイ!!思いっきりダリを睨みつければ何を勘違いしたのか、口をモゴモゴしながら笑いかけている。無視した。


「全て真実なので、信じてくださいとしか言えません」

「軽く言ってくれるよ」


 エドガーは苦笑しながら、もう温くなったカップに口をつける。……まぁそりゃそうだ。この世界に悪魔がいるだ、私が別の世界から来ただの。実際に悪魔を目にしたとしても、人間そんな簡単に信じれるように出来てない。すんなり信じてしまったパトリックが純粋すぎるのだ。


 取り敢えずは伝える事が出来た。その後の信じる信じないはエドガーが決める事だ。残りのミルクティーを飲む最中、エドガーは先に飲み終わった空のカップをソーサーに置けば、思い出した様に声を出す。


「そういえば……君が枢機卿を調べている理由は、この事に関係あるのかい?」

「いえ、それは関係ありません」

「この前ははぐらかしてきたけど、もう理由を言ってくれて良いだろう?」


 確かに、彼に隠す必要もないか。私も空のティーカップを置きながら、エドガーに頷いた。


「王太子殿下が、枢機卿によって被害を受ける可能性が出てきたんです。ですからそれが事実なのか確認をしたくて」

「……ふぅん?」


 彼は頬杖を付きながら、何処か不満げな表情だ。……少々嫌な気配がして、私は目線を逸らす。


「君って、本当に王室に飼い慣らされてるね」

「……違います、長年お世話になっているから、心配なだけで」


 思わず顔が引き攣る、がエドガーは話を止めない。


「……嗚呼そういえば、まだ国王陛下がお若かった頃には、君と陛下が恋仲だって噂になってたみたいだね?でも君、何度も陛下との婚約を拒否してたとか?」

「……………そ、それは……色々、あると言いますか……」


 あれ!?なんか尋問されてる私!?しどろもどろに言葉を繋いでいけば、その態度を見て察したのか、エドガーは挑発的に片眉をあげて見せた。


「ふぅん、成程?……君、陛下の事好きだったんだ?でも身分や、自分の処遇の事もあって諦めたと。……で?その好きな男の息子を、自分の子どもの様に思っている訳だね?」

「…………………そっ」


 そうです、と言いそうになった。

 エドガーはわざとらしい、悲哀に満ちた表情を浮かべる。


「いやぁ、なんだか王太子殿下が可哀想になってきたよ。あの方にしたら、君は自分を救い、しかも特別可愛がってくれる年頃の女性、病み上がりで婚約破棄までされた後に、思春期の子供がそんな事されたら………そりゃあ、異性として見てしまうだろうね?」

「そんっ、な、事は……」

「で?君は殿下の想いに応えないのに、彼を守るって言うのかい?いやぁお優しい!流石聖女様だね!……ま、そんなお優しい顔の裏に、あんな厭らしい素顔があるなんて誰が思うかね?陛下は知ってるのかい?」

「だーーーーー!!!うるっせぇなあーーー!!!」


 気づけば立ち上がり大声が出ていた。自分で吐いた大声なのに、耳鳴りが聞こえる程の絶叫だ。ダリは目を見開き興奮気味で、サリエルからはため息が聞こえる。

 ゼェゼェ荒く肩で呼吸をしながらエドガーを見れば、彼は意気揚々とした表情を向けていた。


「君って、そんなお転婆な言葉遣いも出来るんだね。まるで下町の悪ガキだ」

「うるさいわ!そっちだってこの前はワンワンしか言わなかった癖に!!」

「ニャーニャーも言ってたよ?君もだけど」

「お前に羞恥心はないのか!?」


 ダリがモゴモゴと口を動かしている。おそらくこの下品すぎる会話に対するものだろうか。

 エドガーは後ろを気にせず、軽く笑いながら弾んだ声を出した。


「そんなはしたない私に、興奮しながら足で頬を叩いたのは誰だっけ?」

「んなっ!」

「本当に最高な夜だった。……やはり私は、女性の趣味が良い」

「それは絶対にない、断言できる」


 首を横に振りながら否定すれば、再び不満そうな表情に変わった。……あっ、嫌な予感。


「おや?君は自分の魅力を分かってないのかい?しょうがないな、時間が許す限り教えてあげるよ」

「は!?いやっ、あの別にいらな」

「靴紐もガーターベルトも口で解けた私に、君は足を私の口元に近づけて「ご褒美だよ」と妖艶に笑っ」

「待って待ってここで言わないで!!!」



 そこから暫く、私は暴露大会を繰り広げ始めたエドガーによって、弄ばれ続ける事になる。何でこんなにも自分の性癖にオープンなんだ?お前には羞恥心はないのか?……なんにせよ、本当にこの男は性格が悪い。ストーカーマゾ男ではなく、ストーカークソマゾ男に改名しよう。長いな。




 取り敢えず、ティーポットは更に粉砕された。後、私の拘束は手錠も追加になった。




エドガー編は次回で終了です。

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