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109 放課後

1/13…ちょっと台詞を変えてます。


 この国の貴族は必ず、家庭教師を付けるか学校へ入り二十歳まで学ぶ事が義務付けられている。平民は義務はないが、裕福な子供だったり、優秀で奨学金を得て学校へ入る者もいる。

 多くある学校の中でも、一際優秀な若者が入学するのが国立学校だ。十三歳から入学でき、七年間で国の最先端の教育を受ける事ができるのだ。ちなみに編入では年齢制限はない、ここ一番重要。



 午後は自由参加の授業で、単位を取れていれば受ける必要はない。学生の身分で潜入しているが調査優先だ。パトリックも去年の時点で大方の単位は取っているらしいので、大いに三日間は活用してやろう。



 まずは一人目の被害者、四年生のジミー・フォルト。二週間前、学校内の階段を降りている途中、後ろから背中を押されて転げ落ちてしまったそうだ。彼は包帯を巻かれた腕を見せながら、少々怯えた表情を見せる。


「か、階段の上で《デボラ・シュナイザー》を見たんです。腕が痛くて泣いてる僕へ……かっ、彼女は無表情で見つめてて……」


 余程恐ろしい思いをしたのだろう。懸命に私達へ話してくれているが、声も体も震えてまるで子鹿の様だ。ちょっと可哀想ではあるが、聞きたい事は山ほどある。悪いが思い出してもらおう。


「貴方はデボラ・シュナイザーと面識は?」

「がっ、学年も違ったし、面識はありません」

「デボラは貴方を見つめた後、どこへ行きましたか?」

「そっそれは……その後気絶してしまったから、分からなくて……」


 そう言えば、上級生である私達の望む答えができなかったのが申し訳ないのか、ジミーは目線を下げて表情を暗くした。しまった、もう少し被害者に寄り添う言葉遣いをすれば良かった。繊細な若者に淡々と話し過ぎてしまっていた様だ。

 何か励ましの言葉を言おう。しかしどう伝えようか悩んでいる間に、隣で話を聞いていたパトリックは、そっと彼の肩に触れて美しく微笑んだ。見た事もないその表情に、思わず変な声が出た。


「怖い思いをしたのに、話を聞かせてくれてありがとう」

「……い、いえ……僕なんて……」


 優しく囁く声に、ジミー少年は乙女の様に頬を赤くして目線を逸らす。パトリックは苦笑いをしながら、肩に触れていた手で今度は少年の頭を撫でた。


「怪我の所為で、気合を入れていた乗馬大会に出られなかったんだろう?辛かったな」

「ぼ、僕の事を知っているんですか!?」

「たまに教室から、貴殿の乗馬の様子を眺めていたんだ。とても美しかった」

「レントラー先輩……」


 ジミー少年は、パトリックへ輝く笑顔と涙を見せている。美しい先輩後輩の姿、その光景に唖然としている間に、パトリックはジミー少年と話を終えていた。少年は嬉しそうに教室へ戻って行く。なんかスキップしてるし、もう怯えてはなさそうだ。

 小さくため息を吐いたパトリックは此方を見れば、私の表情に対して普段通り、眉間に皺を寄せる。


「何だ、まだ聞きたい事でもあったのか?」

「いや、見事に虜にしたなと……」

「お前が淡々と話しているからだろ。もっと被害者に寄り添え」

「す、すいません……」


 そう言い放てば、パトリックは次の被害者の元へ向かう為に廊下を歩き出した。見失えば確実にこの広い学校では迷子になる。私は慌てて彼の後ろを追いかけた。


 何だよ、ちょっとは私にも愛想良く笑ってくれてもいいのに。








 そして私達は午後の時間を使い、被害者全員と話す事ができた。やはり学校長が話していた通り、全員学年も生まれもバラバラで共通性もない。しかも怪我の度合いも全く違った。周りからの評価も悪くなく、むしろ被害者全員は好印象を持たれている生徒ばかりだった。……今の所では、憎しみからなる被害ではない、と思う。無差別犯行と考えるのがいいだろう。


 午後の授業も終わり放課後、生徒はクラブや図書室へ勉学に勤しむ時間だ。予定のあるパトリックと一度離れた私は、ある人物に話を聞くために長い廊下を歩いていく。前にも一度行っているので迷わないだろう。


 やがてお目当ての部屋にたどり着けば、そのドアを数回ノックした。前と違いすぐに返事があったので、ゆっくりとドアを開けながら中へ声をかけた。


「ローガン、ちょっといい?」


 扉の先、部屋の中は相変わらず本まみれだ。執務机の椅子に座っていたのは、お目当ての人物ローガンだ。こちらに目を向けるなり、必死に笑いを堪えながら口を開いた。どうやら制服姿の私が余程面白い様だ。


「こら、「ランドバーク先生」だろう?」

「確かに。じゃあ……ランドバーク先生、お時間ありますか?」


 子どもの様に、わざとらしく首を傾げて見せれば、ローガンは満足そうに頷く。許可を得た私は、執務机の前にあるソファへ座った。こちらを挑戦的に見るローガンの目が、なんだかねちっこい気がする。


「デボラ・シュナイザーの死因、分かれば自殺理由を教えてほしい。北区自警団の法医解剖医なら、調べれば分かるでしょ?」


 被害者生徒に共通している事、それは「デボラ・シュナイザーを見た」事だ。二年前に自殺した生徒、その存在がこの事件で重要になるのはノイズでも分かっていた。学校長に死因など詳しく聞こうとしたが、彼女は自分よりもローガンに聞いた方が良いと勧めてきた。

 ローガンはニヒルに笑いながら、再び執務机に置かれた生徒の課題を確認している。


「本来なら医学部でもない、一生徒に教える事ではないんだが」

「へぇ?じゃあ今ここで制服脱ごうか?そしたらただの女でしょ?」

「それは唆るな。十年前の続きをご所望か?確かに学生服は邪魔だな」

「うわぁ先生!私に生徒じゃ駄目な事するつもりですかぁ?」

「しても良いなら」


 ローガンは課題を確認しながら弾んだ声で告げた。……この会話を他の生徒が見たら、さぞ酷い現場なのだろう。三十年来の男女の友情とは、恋人以上に性に開放的になる気がする。

 あー確かに、ローガンなら後腐れなく処女貰ってくれるよねぇ、それも良いなぁ……と想像していると後ろから、誰もいないのに微かに歯軋りが聞こえる。慌てて顔を引き攣らせながら、何度かわざとらしく咳払いをした。危ねぇ、姿見えないからレヴィスの存在すっかり忘れてた。


「学校長から直々に調査を依頼されてるの知ってるでしょ?揶揄うのは止めて早く教えて」

「……揶揄ったつもりはないが」


 ローガンはやや不機嫌そうに顔を顰めながら、椅子から立ち上がり棚の書類を確認する。暫くすれば、本棚から新しめの書類を抜き取った。

 書類は厚めの束で、やや適当だがバラけない様にとめられている。表紙には二年前のちょうど今頃の日付と、デボラ・シュナイザーの名前が書かれていた。ローガンは私の前へそれを差し出す。


「ほら、ご希望の《デボラ・シュナイザー》の解剖記録だ」

「おお!ありがとう先生!」


 大喜びで受け取る。……が、先生の手が離れない。やや強めに引っぱっても離れない。何で離れないんだ。


 恐る恐るランドバーク先生の顔を見れば、不機嫌な表情はどこへやら、悪い事を企んでいる時の、意地悪な表情を見せていた。随分窶れた大人になっても、昔の面影は残っているものらしい。もう可愛くない先生は私の目を見て、丁寧に言葉を出した。


「これを渡すかわりに、頼みがある」

「えっ」


 その後続く「対価」の内容に、私は目を見開く事になる。



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