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98 賭けましょう




 悪魔の世界は弱肉強食で、どんなに相手が悪くても、力が自分よりも上ならば従わなければならない。それは等しいはずの契約でも同じだ。基本的には皆「あの方」のルールに従い、悪魔と契約している人間には手を出さない様にはしているが、それでも例外はある。


 ベルゼブブは脚を組み替えながら、こちらに妖艶に笑って見せる。奴と、隣で使用人の様に立つベルフェゴールは兄弟だ。だが髪の色と目が同じでなければ、身内と思えない程に似ていない。


「ヴァドキエル侯はね、アンタの悪魔達に全く歯が立たなかった蛆の悪魔に失望していたの。それを知ったアタシは、《侯爵様に自分を売り込んだってワケ。悪魔が契約者を何人も持つ事は禁じられているけれど、逆は問題ない。》あの蛆よりも、更に栄光と名誉を与える事が出来ると伝えたら、侯爵様は喜んで契約してくれたわ」


 確かに、契約内容に明確な期間などなく、期間中に違反をしていない限りは解除が出来る。ケビンとの契約も、代々のヴァドキエル侯爵が引き継いでいる様だし、処女さえ与えていればいい。問題はないが……それでも、双方の同意が必要な筈だ。


「ケビンがそう簡単に、契約解除を受け入れるとは思えないけど」

「その通り。だから蛆の悪魔を殺そうと思ったんだけど……《その前に逃げちゃったのよね》」

「殺すって……」

「あら?だってそうじゃない、邪魔だもの」


 当たり前の様に言うベルゼブブに、後ろで立つサリエルが盛大に舌打ちをした。奴にとっては気に入らない解決方法だったのだろう。両側のフォルとステラは舌打ちこそしないが、面白くなさそうに目線を細くさせている。自分以外の悪魔の、その姿を見てベルゼブブは少し不満げだ。

 不満げなベルゼブブに代わって、今度はベルフェゴールが口を開いた。


「女王の契約で、《侯爵様はアリアナ嬢を差し出す事になっていましたが……アリアナ嬢と蛆の悪魔が逃げた事で、まだ対価を受け取れていないのです》」

「差し出す?彼女はまだ十五歳でしょ」

「その対価は蛆の悪魔の内容です。此方は未来永劫の栄光と名誉の対価に、《アリアナ嬢のみ希望しました》」

「……ああ、そうか。そういう事か」


 恐らく、ケビンは自分の命が狙われている事を知り、新しい契約の対価であるアリアナを捕らえ逃げたのだろう。……ヴァドキエル侯が、あれ程までに血眼になって探した理由が分かった。結局自分の為なのだ。アリアナを与えない限り、ヴァドキエル侯とベルゼブブ達の契約は成立しない。故に今まで得ていた力も無くなってしまう可能性がある。


「今回ばかりは、蛆の悪魔が可哀想だなぁ」

「分かってないわねお嬢ちゃん。あの悪魔が弱いのが悪いのよ」


 ポツリと呟いた独り言に、機嫌の悪いベルゼブブが反応して睨みつけている。だがすぐにその表情は美しい笑顔に変わり、踵の高いヒールを履いた脚を、目の前のテーブルに強い音を鳴らしながら乗せた。

 一体どうしたのだと首を傾げると、奴は手から青い炎を出し、そこから現れた一枚の羊皮紙を此方へ見せた。すると、サリエル達の空気が変わった。


「お嬢ちゃん、弟と契約しない?」

「却下」

「んもぉ、話を最後まで聞いてよ。らしくないわねぇ」

「聞かなくていい。契約はもう十分」


 後ろと両側から力強く頷かれる。奴らも気持ちは同じらしい。

 すると横から、ベルフェゴールが淹れたての紅茶を差し出しながら笑った。香りのいい檸檬の入ったダージリンティー。この短時間でよく淹れたものだと感心した。サリエルなんて、丁寧にやりすぎて遅いのに。


「大丈夫ですよ、ミス・イヴリン。私が欲しい対価は、本来女王が得る筈だったアリアナ・ヴァドキエルです。彼女を見つけ此方に《「返して」頂きたい》」

「はぁ?」

「その対価の見返りとして、今回の事件では私が同行し手足となりましょう。私はその周りの悪魔達よりも追跡が得意ですから、大いに役に立つと思いますよ」


 そう言いながら己の胸に手を当てるベルフェゴールに、思ってもみなかった対価に驚いた。確かにリスクのない対価で、それにより得られる悪魔の力は大きい。手足となるという事は、上級悪魔一人を自由に使う事が出来るという事。周りの奴らに余計な対価を度々与え、力をかりなくてもいいのだ。

 

「期間は貴女の悪魔達と同じ三日以内。それまで私は貴女に従います」

「……見つけれなかった場合は?」

「その場合は私と、そして女王にも貴女の「所有権」を一晩いただきます。それも最初を」

「結局私かよ」


 こちら側の三人の悪魔が全員、獣の様に威嚇をしながら睨み始めた。そりゃあそうだろう、独り占めしたい人間の所有権が一晩だけとはいえ、五人から更に七人に増えようとしているのだ。万が一違法悪魔を見つけれなかった場合は、本来ならば使用人五人のものになるのに。それに「最初」の一晩だ。確実に処女を奪ってくる筈だ。

 兄弟で別々の人間と契約すれば、重複せず違反じゃない。お互いの美味しいところだけ持っていくだけだ。中々頭が良いやり方だ。


 追跡が得意なら、さっさと対価を見つけてしまえばいい。だがそれを今までしなかったという事は、奴らはケビン達を探している事を予め知っていたのだろう。だから自分達がやってきた際にすぐにヴァドキエル家の事かと言えたのだ。そしてこの二人は、わざわざ契約を持ち込み、この体を好き勝手する権利を望んでいる。もしアリアナを見つけたとしても、それはそれで損はない。



 後ろから、力強く体を抱きしめられた。誰がしているなんて分かっているので、ゆっくりとその方向へ振り向けば、サリエルが荒々しい呼吸でベルゼブブ達を睨みつけていた。


「ご主人様、やめてください」


 全く、この悪魔は本当に独占欲の塊だ。両側の悪魔達も腕を掴み、縋る様に見つめているが……さぁ、主よどうする? 




 ソファに深く腰掛けながら、周りの悪魔を振り払う。両側は離れてくれたが、後ろが全く離れない。


「サリエル離して」

「嫌です」


 何を言うのか分かっているのだろう。サリエルへ再び顔を向ければ、奴に隠さず、今の顔を見せつけてやる。


「私は絶対に大丈夫だから」

「…………」


 そう言って笑ってやると、サリエルは眉間にしわを寄せながらも、ゆっくりと離れていった。

 

 さぁ、そうなればやる事はひとつ。




「……五人が七人に増えようとも、私が喰われる事は同じ。どうせ三日以内に違法悪魔を見つけなければならない。その為に使える駒は多い方がいい」




 小さく呟いたその言葉に、目の前の悪魔達は黄緑の目を歪ませた。


 そして差し出される羊皮紙とペンで、自分の名前を書いた。紙はすぐに青く燃え、それが契約成立の合図だ。


 青い炎を恍惚に見つめながら、ベルフェゴールがこちらへ傅いた。


「三日間、どうぞよろしくお願いします。ご主人様」

「よろしく、ベルフェゴール」




補足&修正


侯爵と契約したのはベルゼブブのみです。今回はイヴリンとベルフェゴールなので重複契約にはなっておりません。物凄いミスをしていましたので修正しております……。

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